表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のほほん見聞録  作者: ヒロっぴ
引越屋時代
20/136

自社ビル






その日の仕事は、平塚にある仏壇屋の移転だった。




積み地は自社ビルらしく、こじんまりとした四階建ての建物だった。




各階ワンフロアで、別にトイレと水場があるだけ、という感じの作りであるにも関わらず、エレベーターが完備されていたので、当然エレベーター作業になった。



階段作業とエレベーター作業では作業員の人数が違う事もあり、料金が違ってくる。





勿論見積もり時点での料金が追加になることはないのだが。(格安業者などは追加になるという話も聞いた。)




この当時のエレベーター作業は、今のように台車を使うのではなく、




利用者の合間を見計らって、一気にエレベーターに積めるだけ積み、




それをまたエレベーター前のスペースに降ろしてから運ぶという方法だった。





それでも、当時の住民の方は慣れたもので、やはり自分達が入居した時も同じ方法だったからか、特別文句を言われる事もなく、



『ご迷惑おかけします。』


と言うと、



『いいええ、暑いのに大変ですね。』



なんて、理解を示して頂けたものだった。




それでもやはり、こちらとしては申し訳ないと感じながら作業をするのが常だったから、



その日は自社ビルという事で、気兼ねなく作業をしていた。




その会社の方々も色々と気を使ってくれたので、作業もはかどる。





そんな中、三階でエレベーターに荷物を積み込んでいると、




『お前達何やってんだ!』



と怒鳴りながら、一人の年配者が凄い剣幕で、階段を降りて来た。



そして、




『エレベーターはお前達だけのもんじゃないんだ!』



と、荷物を積んでる最中のエレベーターに乗り込み、



『降ろせ!』




と息巻く。




俺達は訳も分からず、



『すいません。』



と言うと、一階のボタンを押した。




その時、一緒に作業をしていたリーダーが、憮然として、





『おたく、どちらさんですか?』




と聞いた。




するとその50代位の男は胸を張って、




『わしは、社長や~。』



と言った。




もう呆れるやらなんやら、目が点になってしまった。




常識ある人なら、自分の会社の引越をしてるのだから、


『ご苦労さん。』


の一言をかけて階段で降りていくのが常だった。



そしてこちらとしては、まだ乗れるスペースがあれば、


『あ、ご一緒にどうぞ。』




と言って、乗ってもらい、一時作業を中断したりするという流れになるのだが、大抵の方は



『いいよ、いいよ。階段で降りるから。』




と言ってくれていた。



それを期待していた訳ではないが、いきなり怒鳴り付けられるとは夢にも思わなかった。




その会社の多くの従業員が見ている中、その態度なのだ。




社長を一階で降ろした後、元のフロアに戻ると、社員の方々が平謝りだった。





『うちの社長がすいません。どうか気を悪くなさらないで下さいね。』


とか


『あの人二代目だから、ホント常識ないんですよ。』



とか言っていた。




社員に恥ずかしい思いをさせながら、あの人は平気なんだろうかと思いながら、


その会社の先行きに不安を抱いたのは、俺達よりも社員の人達だと思う。




いや~、いろんな人がいるもんだ。



と、勉強させられる1日になった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ