自慢の新居
その日のお客さん(旦那さん)は、新居を建てたのが余程嬉しかったらしく、積み地で作業している時から、やたら話しかけてきていた。
『新居は私が設計したんですよ~。』
『そうなんですか~』
話を聞いていると、特に設計の仕事をしている訳ではないようなのだが、注文住宅でアレコレ注文をつけて、設計に関わったみたいだった。
『狭い土地で、どれだけ居住スペースを取れるか苦労しました。』
なんでも、部屋を広くする為に階段や廊下は極力狭くしたという。
それも、引越屋にしてみれば迷惑な話で、それは、大きな家具を運び入れるのに苦労するからだった。
広ければスンナリ入る中型の家具まで、横にしたり縦にしたり、斜めにしたり、技術を要する。
階段から上がらなければ、二階へ吊り上げる事になるし、余計に時間がかかるのだ。
でも、仕事なのだし、これだけ喜んで自慢しているのだからと、なんとかいい形で終わらせたいと思っていた。
『ご自分で設計されるなんて凄いですね~。』
この時点では、そう思っていたのだ。
そして現地。
想像以上に階段や廊下は狭く、閉口してしまった。
まず現地に着くと、
『中を見させて下さい』
と言って中に入り、搬入経路や傷の有無などをチェックする。
ところがこのお客さん、
『中を見させて下さい』
の意味を勘違いしたのか、色々内部を案内しながら、
『二階の窓は全部出窓にしたんですよぉ。』
とか
『家具の置き場所も考えてサイズ計って設計しました。家具はほとんど二階にお願いします』
などと言いながら自慢し始めた。
そんなこんなで、一通り家の中と、建物周辺を確認すると、一つの結論に到ってしまった。
『お客さん、家具二階には入りませんよ。』
『え?』
『階段狭いうえに間口が狭くて、曲がってるし、ここの高さが低すぎるから、ほとんどの家具は通らないですね~。』
『じゃあ、窓から。』
『いや、窓も全部出窓で、10センチ位しか開かないじゃないですか。』
『あ…』
こ、この人アホや……
正直そう思ってしまった。
『じゃあ、どーすればいいんですか?』
と言われて、
『あ、あんたが設計したんでしょが。』
とは言わずに、
『一階に置くしかないですね~。』
かくして、一階の和室と、お客さん自慢のリビングは家具で溢れかえりましたとさ。
かわいそ。
……ちなみに他のお客で実際にやった例だと、出窓を一時的に壊した後に(壊すのは業者)二階に吊り上げ、家具を入れた後にまた直す。
という手段しか残されていない。
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