移転先の寮とカタツムリ
新しい寮に移った後、休みの日に周りを散策して歩いた俺は、近くに公園があることに気付いた。
前回の長期休暇で地元に帰った俺は自転車を持ち帰っていたので、その自転車で公園に行き、作ってきたおにぎりを食べながら、ビールを飲んでいた。
すると、どこからともなく鳩やスズメがやってきておねだりをする。
持ってきていたおにぎりやパンなどをやっていると、自分が食べる分が減ってしまった。
それでも、鳥好きの俺には癒しの時間だ。
鳩たちも最初は多少警戒していたものの、すぐに膝や腕に乗って手のひらの餌を直接食べるようになった。
柔らかい羽毛と鳩の体温が気持ちいい。
休みの日に鳩と戯れるうちに、ふと気付いた事があった。
『そういえば、ここ最近何も飼ってないな……』
俺は子供の頃から何かしらペットを飼っていたので、ふと寂しい気持ちになった。
ペットといっても、ここで犬や猫などを飼うのことは出来ない。
そもそも、ペットといっても、子供の頃から小動物に限らず、金魚やクワガタ、カブトムシ、カマキリなど、色々な生き物を飼ってきた。
ここで簡単に飼えるものは何だろう?
とにかく、身近に生命を感じたかったのだ。
そんなある日、雨の日の通勤途中でコンクリートの壁に貼り付くカタツムリを見かけた。
よく見かける大きめのものではなく、小指の先位の小さなカタツムリだった。
すぐに連れ帰っても、飼うための容器が無い。
俺は休みの日にダイソーで小さなプラスチックケースを買うと、次の雨を待った。
晴れの日にもどこかに隠れてはいるのだろうが、わざわざ探さなくても、雨になれば出てくる。
かくして俺は、2~3匹のカタツムリを飼うことにしたのだ。
そして、しばらくたつと、俺はとてもグロテスクな光景を目にした。
いや、カタツムリ達にとっては愛の営みなのだから、グロテスクと言ってはいけない。
カタツムリは雌雄同体で、オスにもメスにもなれるから、二匹いれば繁殖は可能なのだ。
その二匹が生殖器をウネウネと伸ばして絡み合う様は、やっぱりグロテスクと表現するのが妥当かもしれなかった。
気が付くと、プラスチックケースの底に大量の卵が産み付けられていた。
それを見た俺は、小さい容器に拾ってきた土を入れると、プラスチックケースの底に置いた。
すると今度はそこに卵を産み付けるようになった。
そしてしばらくすると、プラスチックケースの壁にゴマ粒の半分位の大きさのカタツムリを見つけた。
そんなに小さくても、よく見るとちゃんとツノを伸ばしている。
か、可愛い!
カタツムリたちはキャベツやレタス、大根や人参など
野菜なら大抵何でも食べた。
特に人参が好きみたいで、あっという間に穴だらけになる。
食欲旺盛、天敵不在。
そして、雌雄同体。
あっという間に繁殖して、気付くと200匹くらいにはなっていたのである。




