表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
のほほん見聞録  作者: ヒロっぴ
空手道場内弟子時代
12/136

挫折




当時内弟子として生活していた頃の話。



その年、俺達十○期生は、異例の14人が入寮を許可され、○獅子寮始まって以来の大所帯になっていた。



この世界では、稽古が厳しいのは勿論だが、それより厳しいのは規則や慣例だった。




寮生は先輩に何かを聞かれたら、『分かりません』『知りません』『~~だと思います』等は口が避けても言ってはならず、何事も断言しなければならなかった。



そのため、先輩が何気なく『明日雨かなぁ』と言っても、『確認して参ります!』と走り出さなくてはならず。かといって待たせることも出来ない。



そして、全ての先輩の居場所を把握していなければならず、間違うことも出来なかった。



過去の内弟子の多くは、三年生になるまでには退寮してしまい、2~3人しか残っていない事が

常だったが、この年は9人が残っていた。

二年生と合わせると、把握していなければならない人数は14人にもなった。


日々の稽古とがんじがらめの慣例で、みんな神経をすり減らしていた。



入寮後一週間で一人が辞め、その後一ヶ月で、もう一人が辞め、残り12人になってしまった。




しかし、なぜか俺達十○期生は、大山倍○先生に妙に期待されていて、


毎朝の朝礼では、




『君達は王者だ!男の中の男だ!


君達は覇者王道を歩まなければいかん!


…君達の中から、必ず世界チャンピオンが出るよ!』



と言われていた。




しかし、当の自分達はいっぱいいっぱいで、いつ辞めてもおかしくない状況であり、



先輩達も




『今年の新寮生は、この12人全員残るか、全員辞めるかどっちかだ。』




と言っていた。




そして三ヵ月が過ぎた頃、同期がバタバタッと三人辞めていった。




ある日、自分と一番仲の良かったOさんという方と、二人で四部の稽古に出る事になった。




当時の総本部の稽古は、一日四部制で、自分達新寮生は一部か二部に出る事が多かったのだが、その日は、時間的にも一番人数の多い四部に出る事になった。



その日の指導員は、後に重量級を連覇する事になる猛者で、何故か内弟子には厳しい先輩だった。




俺は組み手の稽古になると、その先輩に壁際まで追い詰められ、胸元へ打ち下ろすようなパンチを何発も受けているさなか、



目の端では、同期のOさんが、通い(一般門下生)の先輩と組み手をしている模様を捉らえていた。




彼は、胸元へ執拗なパンチを受け、ガードが下がった所へ、顔面へ回し蹴りを受け、もんどりうって倒れた。





まさに、セオリー通りの攻撃である。




しかし、その蹴りは不幸にも彼の歯を直撃し、彼の前歯は折れた四本とも、蹴った先輩の足の甲に刺さっていた。




指導員の先輩は、歯の刺さった道場生を心配し、





『動くな、動くな。そこで休んでろ』




と言った。




その後で、前歯が四本折れてダラダラ血を流しているOさんの所に戻ってきた指導員は、


Oさんの肩を叩きながら、




『O!

お前立ってるよな!』



『押忍!』



『立ってるよな?』



『押忍!』



『立ってるって事は大丈夫だ!


さぁ、続けようか!』




と、組み手を続けさせた。




そう。内弟子は、弱音を吐けないのだ。




この時、自分は壁際に追い込まれ、内弟子であるが故に




『参りました』




という事も許されずに、情け容赦なく攻撃されながらも、『Oさん、可哀相に』と思っていた。




そしてその後、自分とOさんは退寮し、その後も歯止めが効かずに十○期生は全滅したそうだ





後日談。



Oさんは自分と同じく、当時19歳だったのだが、入寮当初から歯が小さくて変わっているなと思っていたら、その時稽古で折られた前歯は全て乳歯だったとか。




19歳で乳歯って……




ただ残念なことに、その歳まで生え変わっていないと、もう永久歯は生えてこないそうだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ