現状打破
瓦礫撤去の仕事の申請をしてから二ヶ月近くたったが、全く音沙汰が無かった。
いつものように求人情報を見ていると、一つの募集が目に止まった。
トラック製造の大手メーカー○野自動車が期間従業員を募集していた。
出張面接が各地で行われているようなので、俺は比較的近場の面接会場に赴くことにした。
そこは、マンションの一室を借りた臨時の面接会場だった。
呼ばれて部屋に入ると、履歴書を提出し、滞りなく面接は行われた。
俺は、若い頃に他のトラックメーカーの期間従業員に応募したことがあった。
そこは通勤圏内だったので、今回のように寮に入るつもりもなく応募したのだが、結果は不合格だった。
面接で提出したエントリーシートにあった項目で、素直に腰痛有にしたのが原因ではないかと考えていた俺は、今回の面接では腰痛無しにチェックを入れていた。
面接が終わり、部屋を出るときには、面接官に『いい結果をご報告出来ると思いますよ。』と言われた。
その言葉通り、やがて合格通知の封筒が届いた。
今回は寮に入るつもりだったので、この書類が届くまではどこの工場になるかは分からなかったが、比較的近くの本社工場勤務になった。
さて、合格したのはいいが、まだ最初の給料日までの生活費が貯まってはいなかった。
寮に入るとはいえ、この時住んでいたアパートを解約して引越をする費用もない。
○野自動車の期間従業員は、三ヶ月毎の更新で、最大二年の期間雇用になる。
ということは、アパートを解約したとしても、二年後には又引越費用がかかるし、身一つで寮に入ったとしても、寮に持ち込めない荷物が3tトラック1台分位はある。
古い家具などは捨てるにしても、最低でも2tトラック1台分位の荷物は残るので、それを保管する倉庫の事を考えると、このままアパートは解約せずに、週末や連休の時だけ帰るのが無難だという結論に至った。
それでも、家賃はかかるが、寮生活している間の光熱費はかからない。
そう考えると、問題はやはり最初の給料が出るまでの間の生活費と家賃だ。
仕方なく別世帯にいる妹に現状を伝え、十万円を借りることになった。
妹は、ア○ウェイを本業にしていて、俺の月給分位の家賃のマンションに住んでいるから、成功者と呼べるのだろう。
そんな妹に恥を忍んで借金をすると、毎月一万円ずつ返すことを約束して、東京都日野市にある勤務先の寮に入ることになったのである。
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