片想いをこじらせ過ぎて……
俺は十代の頃、二十歳までに結婚すると思っていた。
それは単なる願望であり、『一日も早く好きな人と結ばれて幸せな日々を送りたい』という思いに過ぎなかった。
幼稚園で初恋をし、それからずっと片想いをこじらせた末の願望だった。
その頃は『あの娘が好き。』と、周りには宣言はしても、決して本人には伝えることが出来なかった。
ある意味ウブであり、シャイだったのだ。
そんな俺は21歳まで童貞だったし、26歳まで素人童貞だった。
しかも、始めて付き合ったのもプロの女性だった。
その後、29歳になって始めてプロでない一般の女性と付き合ったのをかわぎりに、それまでの鬱憤を晴らすように、様々な女性と付き合った。
中でも特に記憶に残る女性がいる。
その女性とは、以前のエピソードで触れた多機能ファクスの友達募集で知り合った。
多機能ファクスを使ったメールでやりとりをするうちに、エッチな話もするようになり、彼女が急に性的欲求に目覚めてしまったという悩みに発展した。
彼女によると、体の関係を持った相手のほとんどが引いてしまい、恋愛に発展しないのだという。
それは何故か。
彼女は先天的に女性内部が弱いらしく、セックスをすると膣の内側の毛細血管が破れて大量出血をしてしまうという。
女性は毎月の生理があるため、出血には慣れているが、情けない話、男性は出血に慣れていないので、驚いて引いてしまうのだという。
だから、それがトラウマになり、性的欲求が強いにも関わらず、中々男性とそういう関係になれないと悩んでいた。
『じゃあ、俺としようよ。』
そんな、どうしようもない下心丸出しの発言を俺はしていた。
したい盛りだったのは間違いないが、その時の俺はなんとか悩みを解消してあげたいとも思っていた。
だから、ホテルのベッドを汚してしまうと躊躇する彼女に、『おれ、レジャーシート持っていくよ。ちょっとゴワゴワするけど、ベッドは汚れないよ。』と提案をした。
その発想は無かったらしく、彼女も乗り気になった。
具体的に会う日取りとホテルを決め、他に何か希望がないか聞くと、彼女は言いにくそうに、男性から花をもらった事が無いから、出来れば花が欲しいとリクエストがあった。
当時、ラブホテルの一種でブティックホテルと呼ばれるオシャレな雰囲気のホテルがあった。
俺はそこを予約すると、予約時間の前に花束をホテルに届けてもらう手配をし、ホテル側には届いた花束を部屋に入れておいてもらうようにお願いをした。
待ち合わせをした後、ホテルで宿泊者名簿に記入をしているとき、後ろからのぞき込んだ彼女は『ヒロさんの字だー。』と感激していた。
今のようにインターネットを介したやりとりと違い、お互いの顔も知らずに会った訳だが、ファクスメールでのやり取りだったので字は知っていた。
何度もやり取りをしていたので、お互いの字に愛着もあったのだろうと思う。
エレベーターに乗り、扉が閉まった瞬間に激しくキスをした。
まるで映画のワンシーンのようだった。
部屋に入って、ベットに置かれた花束を見て、彼女は涙を浮かべてとても喜んでいた。
その後、ベッドにレジャーシートを敷き、『なんか色気無いね。』などと言いながら、体を合わせた。
事が終わり、お互いの陰部が血まみれになった様子を見て、『スプラッタ映画みたいだね。』と言って笑い合った。
そんなふうに笑い合えることを彼女は喜んでいるようだった。
その後は自宅などでも会うようになり、彼女と呼べるのか微妙な関係が続いていたが、話をするうちに彼女が⚪⚪学会の信者であることが分かった。
俺が入会していた団体は、他の宗教をやっていても入会出来るような寛大な所だったが、彼女が所属しているところは、一般の神社に初詣に行くことも出来ないと聞いていた。
そして、俺が以前叔母を救ってもらった『人形』を彼女にも書いてもらったところ、段々と出血の量も減ってきていた。
しかし、自分が信じる宗教ではそんな『証』を体験したことがない彼女は、なんとなく悔しい思いをしていたということを後から聞いた。
彼女は俺のことをとことん好きになってくれ、俺もかなり想いは傾いていたが、宗教的な理由でお互いに割り切れずに、恋人としての交際まで発展することなく、やがてフェードアウトしていった。
今でも時々思う事はある。
あんなに好きになってくれてたのに、応えることが出来なかった。
もしかしたら、彼女と結婚していれば、幸せだったのかもしれないと……
大抵、別れた後に引きずるのは男で、女性はキッパリと忘れて次の恋に邁進するというから、きっといい人と巡り会って幸せになってくれているだろう。……と、勝手に想像することしか出来ないが……
こうして、この後もいくつもの恋をつかみ損ね、二十歳までに結婚すると思っていた俺は、二十歳どころか倍以上の56歳になった現在も独身のままである。
…………残念!
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