暗闇ホルモン
その日の俺は、帰ってからシロコロホルモンを食べようと決めていた。
何年か前のB-1グランプリで優勝したB級グルメだ。
たまたまスーパーで見つけて買っていたものだが、その日はシロコロホルモンの気分だった。
俺はほぼ毎日晩酌をするが、その日の気分で飲むものは変わってくる。
チーズを使ったピザやパスタなら赤ワインだし、寿司や和風のものなら日本酒を飲みたくなる。
そして中華なら紹興酒だ。
たまに自分でカクテルを作ったりもする。
先に食べるものが決まるパターンと飲むものが決まるパターンがある。
赤ワインが飲みたくなって、ステーキにしたり、アヒージョを作ったから白ワインにしたり。
その日はシロコロホルモンだから、ビールに決めていた。
仕事中も楽しみで仕方なかった。
転職先も決まり、派遣ドライバーの仕事は残すところ二週間あまり。
その日も順調に仕事をこなし、最後の追い込みにかかっていた。
集積所のプラゴミを回収し、トラックに乗り込もうとしたとき、ドーンと下から突き上げるような衝撃を受けた。
立っているのに明らかに地面が揺れているのが分かる。
遠くの高架橋にある線路を見上げると、電線や支柱が見たこともない勢いで激しく揺れていた。
2011年3月11日午後2時46分。
東日本大震災だ。
横浜の震度は5強だった。
近くのアパートの女性が窓を開けて不安そうにこちらを見ていた。
『大丈夫ですか?』
と声をかける。
お互いに不安なので、話していると気持ちが落ち着いた。
長く続いた揺れが収まると、トラックに乗り込み仕事を再開した。
停電により信号が消えている場所も多かった。
確かに揺れは強かったが、震源地が近いからだと思っていた。
仕事を終えて家に帰ると、アパートは停電していた。
冷蔵庫も電源が落ちているので、シロコロホルモンはその日のうちに食べ無くてはならないと思い、ロウソクの光の中、七輪で焼いて食べることにした。
この時はプロパンガス代を滞納していて止められていたので、電磁調理器で調理するつもりだったが、停電のために仕方なく七輪で焼くことになったのだ。
暗闇の中、モウモウと上がる煙にむせながら、『何やってんだ?俺……』と苦笑した。
テレビも付かないので、この時はまだ地震被害の大きさを知るよしも無かった。
そして、その後の転職に大きな影を落とすことも気が付いてはいなかった。
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