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時間

職人が自分はこの道30年だ

等と伝える場面がある

自分の能力を数字で分かりやすく伝えることが出来る

ところで、それらの人々は実際に30年という年月、常にそれをしていた訳ではないだろう

休みの日はあるだろうし、たとえなくても、食事、睡眠、排泄、etc

ほかに費やした時間も多く含まれる


その点、彼は異常だった

彼がその道に足を踏み入れてしまったのは、祖父の影響からだった

3つ4つの時に魅了され、少年期には本格的に魔につかれてしまった

成人し、自分の力で食べられるようになるとますます狂気は増した

飯は1日に握り飯を一つ、それも絵の準備をしながら

風呂は3日に一度体を濡らしたタオルで拭くだけ

睡眠は恐ろしくとらなかった

僕は彼が寝ている時を見たことがない

側にいた人の話によると、納得のいくものが描けるまで寝ないのだそうだ

布団に押し付けても気づいたら、キャンバスの前で筆を握っている

僕の記憶の中の彼はいつも血の気走った眼をしていた


だが、それでいつまでも良いものは出来ない

様々な経験を経てそれが作品へと現れるのだ


彼もようやくその事に感づき始めた

流石に二十数年で彼の中に残っていたかけら達は使い切ってしまった

それでも、僕はすごいと思うが

いつまで経ってもどこかで描いたことがあるような絵に彼はうなされ、衰弱していった

そしてある日、彼はぱたりと筆を置いた

それからの彼は凄かった

まるで、これまでの絵以外の全てをそこに詰め込むように色鮮やかな毎日を過ごした

いつのまにか、僕の方がそんな経験したことはない

と思うまでになった

そしてあれは、涼しい初夏の日のことか

僕は彼に呼ばれて彼の家に行った

彼のアトリエにはそれはそれは衝撃的な物があった

彼の最新作である

いつのまに描いたんだ

等と疑問は走ったが、その絵の恐ろしい魅力の前では全てが霞んでいった

線の強弱、色遣いのなんと多様的なことか、そして、それがくどくなく一つに調和されている

理解が追いつかない、だが目に入るその絵が凄まじいものであることは分かる

そして、もう一つ衝撃的なもの、それは


窓からの後光を背に絵を守るかのように天井に吊られた彼の身体

僕は不思議と彼に恐ろしさを感じなかった

代わりに、鳥肌が立つような芸術を彼の絵と彼の姿に抱いた

それは、一つの絵のようだった


素晴らしい作品を描きそこを人生の終着点とみなした彼

僕は死ぬ間際に必ず彼のことを思い出すだろう


そして、僕の死は彼の死に値するものであったかと問うだろう

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