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春になると桜が咲く


昼間それを見ると、ついつい近寄ってその微かな香りと、小さな花弁の中の細い線の様なしべをしげしげと観察してしまう

春の日の光の下で見る桜は可憐でありながら大胆で堪らない

何も知らない無垢な少女が満面の笑みでワルツを踊っている様だ


常夜灯に照らされたそれを見ると、私は泣きたくなる

その薄く色がついた人工的な色にかざされた桜は私の胸を激しく締め付ける

ふと気づくとそこにいて、その瞬間私は目を離せなくなる

けれど、近づけない

その人を惑わすある種の壮大さに私の足は

早く離れなくては

しかし、その姿は離れた今も目に焼き付いていつまでも消えない

美しい

でも、その一言では済ませないこの渇望は何だろう


私に会いに来た少女

まだ幼い彼女は、しかし全てを知っていた

年齢に見合った無邪気な言動

それに逆行する様な、時折見せる淡麗な視線

私に逃げる術を与えない彼女

彼女は桜だ

美しい容姿で人々を捉え、その隠された熱情で奈落へと引き込まれる

そして、桜は消えるのだ


風の匂いが変わった時、あの姿は何処かに消え、青々とした衣を身に纏う


桜を見ると、こんな風に君を思い出す私を、君は笑うだろうか

私の事を揶揄いつつ、その顔を妖艶な笑みで歪めてはくれないだろうか


私はいつも春を待つ

何度季節を重ね、年を越そうと私はそれを待つ

まだ目を覚さない蕾がゆっくりと外気を押し除けて開く様を私は待つ


どうかもうこんな感慨にさせないでくれ

ただの道端に咲くそれに私の心を支配させないでくれ


ぽつりと雨粒が頬に落ちる

雨が降って来た

遥か遠くへ行ってしまった感情が肉体へと引き寄せられる

私はまた足を進めた

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