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ホラー短編

今日もまた男は歩く

毎日毎日、何のために歩いてるのか?


 いつもと同じ時間。

 いつもと同じ道。

 俺は重い足を引きずりながら歩いている。

 

 たいして面白くもない仕事のために、俺は毎朝、いつも同じ時間にいつも同じ道をただひたすら歩いている。

 まわりを見ても、俺と同じように暗い表情を浮かべて重い足取りで通勤しているサラリーマンしかいない。みんなそれぞれ何かに縛られて行きたくもない会社に向かっているのだろう。

 俺だってそうだ。こんな辛い思いをしてまで何故毎日この道を歩かなくてはいけないのか。

 

 もう止めたい。

 もう歩きたくなんかない。

 

 でも、体が勝手に前に進む。

 何かに突き動かされるように、俺は歩くのを止められない。

 そんな俺のことを気にするような人間はいない。

 みんな人の事など気にしている余裕はないのだ。

 

 いつもの道を歩き続けると、いつもの交差点に突き当たる。

 これもいつもの光景だ。

 不思議なことに、この交差点で俺は必ず赤信号に引っ掛かる。

 必ずだ。必ず赤信号に引っ掛かって渡ることができない。

 まわりを見れば、みなが赤信号にほっとしたような顔をしている。

 ほんの少しでも会社に行くのを遅らせたい。まるでそう言っているように見えた。

 誰もがスマホの画面に視線を落とし、まわりを見ている者などひとりもいない。

 

 だが、俺の手にはスマホはない。

 

 俺が赤信号でやることはいつも一緒だ。

 目の前を通過する車をじっと眺める。

 次から次へとやって来る車の運転手をじっと見る。

 眠たそうに運転する者。なにかを歌いながら運転する者。

 まったく変わり映えのしないいつもの光景だ。

 

 しかし、この日は違った。

 遠くからスピードをあげてやってくる一台の車。

 その運転手に俺は見覚えがあった。イライラしながら誰かに文句を言っているような顔で運転している男。

 

 そうだ。俺をひき殺した男だ。

 

 赤信号で突っ込んできて俺を跳ね飛ばし、そのまま逃げた男だ。

 男は俺を見つけたのか、驚きの声をあげた。顔が真っ青だ。

 そのまま何かを唱えながら俺の前を横切ろうとするが、俺はそのまま男の腕にしがみ付いた。


 男は俺を見て声にならない悲鳴を上げた。

 必死に腕をばたつかせ俺を引き剥がそうとする。

 俺は男の腕に噛みついて男を睨み続ける。

 男は錯乱したようにただ喚き続けた。

 俺は男にしがみ付いたまま、アクセルを踏んだ。

 男は次のカーブで必死にハンドルを切ろうとするが、腕を動かすことはできず、そのままガードレールに激突した。

 



 気が付けば俺はまた交差点に立っていた。

 はるか向こうではガードレールにぶつかった車が炎上している。

 まわりのサラリーマンは、中に人がいると分かってスマホを片手に車に向かって走り出している。

 まわりに興味はないが、他人の不幸には興味があるようだ。

 

 そして、俺は目の前の交差点が青になったのを確認すると、ゆっくりと横断歩道を渡り始めた。

 やっと、この横断歩道を渡ることができる。

 だが、この先に天国があるとは思えない。

 たとえどんな理由があるとしても、人を呪い殺した事実にかわりはないのだから。

 だがあの重い足取りが嘘のように、俺は軽い足取りで横断歩道を渡り切るだろう。

 

 たとえこの先に地獄が待っていたとしても。






お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 勝手に進む体や周囲の誰も男を気に留めない場面など随所に伏線が散りばめられた見事な叙述トリックでした! 彼はずっと復讐の時を待ち続けていたのでしょうね。 背筋がゾクリとする素敵な物語を有難…
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