Ⅱ 少女
「平見、この事どう思う?」
黒服3人組を平見に送らせた後、矢神はデスクに肘を立て、組んだ手の甲の上に顎を乗せながら助手に聞いた。
「うーん。あのおっちゃらけた奴が一番危なかったですね。ボケットに何か入れていつでも取り出す準備をしていましたね。あれはチャカですよ。チャカ」
平見は手の人差し指と親指で拳銃の形を作り、「ばーん」と言いながら銃を撃つフリをしている。
「ああ。それもヤバイが依頼のことだ。結月さんの事もそうだが何で黒服がくるんだ?しかも報酬が法外に高い上に人物についての情報も無い。明らかに何かがおかしい」
「また矢神さんの脳内ガイガーカウンターっすか?っていうか一体何なんですか、魚人って。しかもパソコンを見てたら島の洞窟の中にワープしたって。いっそ刑事、探偵の次は小説家にでもなったらどうです?SFホラー部門でコンテスト入れますよ」
「お前も本物見たら分かるよ。あれはマズイ。人が見て良いものでは無かった。あと小説家にはならん。そういうホラーなのはH.P.ラヴクラフトが書いている物なんだ。...待てよ...魚人...インスマウス...あ!!!あれってもしかして深き者ども!?」
「ん?どうしたんすか?そんなに大きな声を出して...」
「おい!助手!書庫からH.P.ラヴクラフト全集って本を持ってくるんだ!いや、やっぱり私が行く!」
そう言うと矢神は椅子から飛び跳ねて、ダッシュで裏の書庫から「H.P.ラヴクラフト全集」の小説8冊を持ってきて接客机にドンと置いた。
「これしか無いが...あった!ここだ!インスマンス頭だ!手帖のスケッチと本文での特徴説明がかなり一致している!」
矢神は自分の手帖に書き写した魚人と小説の間で視線を動かしている。
「いや、どうしたんすか?また精神科に行きますか?ってうぉっ!?なんすかこの魚人は?」
平見が矢神のそばまで来て手帖を覗くとそこには精巧なスケッチで描かれていたモノ...体は人型なのに頭が魚でエラがあり、鱗が生え、手には水掻きがある...まさに魚人としか言いようが無いモノを見た。
「うっわ。なんすかこれ。まさか本当の魚人に出会ってたんですか?」
「ああ、間違えない!これだ。前職でコイツと戦闘になって仕事仲間が致命傷まで持って行かれた!あの時は本当にやばかった...」
そう言っている矢神の表情は暗く、突然記憶がフラッシュバックしたように身震いしだした。
「矢神さんがそこまで取り乱すってすごいですね...」
「用心しろ。私の脳内ガイガーカウンターではこんな人ならざる者が関わっていると見た。」
「マジっすか。」
「ああ。マジだ」
そんな事を話しているとふとピーポーンというチャイム音が流れた。
「あ、確認してくるっす」
「ああ。頼んだ」
平見が玄関の扉を開けるとそこには肩にバックを、15,16歳だと思われる白いワンピースに麦わら帽子をかぶった黒髪の少女が居た。
「ん?お嬢ちゃんどうしたんすか?ここは探偵事務所っすよ。来る場所間違えてないっすか?」
少女は何かを言いたそうにしていたがやがて口を開くと...
「私、記憶喪失なんです。そして何故かここに来ないと行けない気がして...」
「ここに?それはまたどうして...まぁ、立ち話もなんですから中にはいってくださいっす」
黒髪の少女は言われるがままソファーにちょこんと座って何かを言いかけようとしたが、口を継ぐんだ。
「話は聞きましたよ。記憶喪失なんですって?自分の名前と住所は言えますか?」
少女は口ごもり、何かを考える素振りを見せたが一向に口が開かない。彼女の口が開いたのは...
「あ、カップ麺出来ましたよ〜お嬢ちゃんも食べますか?」
...3分以上に後になりそうだ。
すると、彼女のお腹から見かねたかのように音が鳴った。頭をコクコクうなずかせてひとまずは昼食にした。結局彼女は玄関での一言以外喋らなかった
彼女はカップ麺を初めて食べたかのように凄い勢いで口に流し込んだ。
昼食?を食べ終えて、
「実は私、名前を覚えていません。住所もです。普通そんな事あるわけないのに...」
彼女は非常に言いにくそうに言った
「うーん。それじゃ、どうしてここに?」
「それが何故かここに向かうように言われた気が...する?」
「あ、曖昧ですね...もうちょっとわかったりしませんか?」
矢神がそう言うと少女はコテンと首を傾げた。そして、ハッ!っと思い出したかのように持って来たバックのジップを開た。
そこにあったのは白い粉、そんな物が人一人分くらいの体積量で大量に詰められてあった。
矢神が
「...それは?」
少女が
「塩?」
平見が
「えぇ???」
...to be continued!!!