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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

がらんどう

作者: 比我 鏡太朗

男。地下室の手記。エンプティー。空虚。がらんどうな心。自分との対話。精神分裂。人格の一人歩き。鏡に向かって喋っている自分の姿。


30年という年月を生きてきた私の心は、今空っぽのようである。

日常の全てに嫌気がさしており、これからも空虚さをずっと引きずって生きて行くことを思うと胸が苦しくなる。その空虚さに、空っぽの心に冷たい乾いた風が吹いており、それが一種の不安めいた孤独となって空っぽの器に不愉快に浮かんでいる。


年月の片鱗を感じさせない顔、人間味を、味わいを伴わない顔、がただ、少しずつ死に向かって老いていく。少しずつ、表情を失い、生気を失い、疲れを少しずつ滲ませて行く。


私は、人前で鏡を視るのが苦手だった。満員電車のつり革に揺られて、電車の車窓に映る自分の顔を盗み見るように、ドキドキ、ヒヤヒヤしながら緊張して見る。其処には、私であろう人物の顔があり、不思議な気持ちでその顔を見つめる。今、私はこんな顔をしているのかと他人のようなその顔を見つめる私を、気味悪がるように離れた所で同じくつり革に揺られた女性が視ているような気がした。


私は、何時だってそうやって盗み見るように人前で自分の顔を確認した。とぼけたようなその表情に腹立たしさを感じることも良くあった。人前で視る私の顔は、初対面の人にあった時、人が、私がするようにまじまじと私を見つめていた。


そんな私には、常に自意識と精神的不安が付いて回り、ほとんどの時間を孤独に過ごしながら、私はその自意識のお陰で他者に囲まれていた。

もし、その自意識が無ければ、私は今のようながらんどうな気持ちを引きずっては居なかったかもしれないが、常に其処には、私が私で要られなくっていたかも知れないという恐怖もあった。


私の精神的不安とは、言わば思春期に抱えた心のキズであり、そのキズは前者と後者が結び付き、他の小さなキズも結び付けていった。

ただ、それら全ては然るべきして与えられたもので、私は生まれついたときから、欠損を抱えていたのであろう。そうした者が、この世で上手く活きられないのは当たり前と言えば当たり前なのである。


御託は良い。もう良い。簡単に言えば、人前に出ると極度の緊張と不安があり、冷や汗をかき足が震え、腰が崩れるような感覚に襲われ、立って要られ無いんでは無いかと感じる時期があった。

その感覚は、社会との繋がりが希薄に為れば顕著になり、社会生活と長い年月と人との関わりを極力控えることにより薄れていった。


十何年間連れ添ったそのキズは、最早私の唯一の友であり、此れを失った世界がどんなものかを想像すると恐怖すら感じる。空っぽの心を作り出した大切な要素が空っぽにしたまま私を置いて立ち去ってしまう。そうなるには、余りに長い年月を共にしたように思ってしまう。

もう、私はこのキズ以外から何も生み出せ無いんじゃないか、

空っぽの私の唯一のアイデンティティーのように親しく感じてしまって要るんではないか、そんなような事を思うのであった。


今の私に残された傷の形は、人間不振と対人恐怖と視線恐怖の三者さんだ。このお三方とは、かれこれ長い付き会いになり、お互いを良く知った仲だが、中々曲者で、コントロールが取れない。ただ、いつ頃、どんなタイミングでやって来るかは重々承知はさせてもらってるつもりではある。


そんな話しは、どうでも良い。私は行きたいのだ。診たいのだ。こんな私だからこそたどり着けるかもしれない世界を、次元を、境地を。

狂った先に待ち受ける視界に何が写るか覗いてみたいのだ。


そうは言って、どうやったら狂えるのだろうか。一つ心当たりがある。それは、以前小説を投稿する時に使った手なのだが、自分との会話である。自意識過剰な私は、自分が何かを世の中に表現しようとしたとき、とてつもない葛藤を感じた。そして、私の闇を世の中に晒すことにより誰かの心を抉ってしまったかもしれないという自意識過剰な罪悪感を強く感じて、その重苦しさに押し潰されてしまいそうになった。まぁ、只自意識過剰だったと一週間程で気付けたのだが。


もうよい。

私は、狂いたくなどないし、まだ生きていたい。なので、その範疇で自意識を垂れ流そうと思う。


もうよい。

此処から先に進めかたが分からない。結末は見えているが進め方まで分からない。簡単な話しだ。私は私と会話をする。それぞれに人格を持ち、男も女もいる。次第に私は私が分からなくなる。私が私である女に恋をする。二人は両思いになり、………点々点男は鏡に向かって話している変わり果てた自分の姿にやっと気付いて絶望する。


 がらんどうな心だけが其処にあった。




『じゃあ書いてみよっか』

『ドストエフスキーの地下室の手記的な奴を書きたかったんだよね?』

『うん、一応。笑われるけど』

『あんまり内容は覚えてないけど、あれを書こうと思ったら死ぬ気で書く必要があるよね?』

『そうだね。多分』

『ゲームしよっか?』

『ゲーム?』

『自意識の宴って奴』

『何それ?』

『もう、知ってるくせに、惚けちゃって』

『嫌、心の準備が…』

『良いよ、今出来る範疇でやろう』

『まぁそう言うなら』

『良し、じゃあとりあえず、トレーニング、練習ね』

『二人でやるの?』 

『とりあえず、二人で。飛び入り参加もあるかもね』

『破壊』

『破壊とは』

『破り壊すこと』

『破り壊すとは』

『ルールを破る、紙を破る、約束を破る、規則を壊す、校舎を壊す、建物を壊す、』

『ガチガチだな!お前!優等生かよ!調子悪すぎるだろ』

『そうだね。考えちゃってるよね。自意識がバンバンはいちゃってるよ。何意識してるのさ?誰の眼だよそれ』

『わからん。何か凄いことやったろうという意識が只漏れちゃってるわ』

『それは、あれだよね。邪心。じゃなくて、ダメだね調子悪いわ、このダメだね調子悪いわってのもダメだね調子悪いわ、つまり、此れも誰かさんに対する言い訳だよね、言い回しが出てこないけど、暗示だよね、うーんもっと君には枠を外れて欲しいと思ってたんだけど、方向性を間違ってしまったのかな。もっと前頭葉がドクドクする感じを目指して行きたいよね。まぁ自意識は存分に垂れ流しているし、至る所に自意識が散見していて、君は空っぽだね、つまり』

『エゴだね、芸術って何だろう、哲学ってなんだろう』

『嫌、答えないよって思ったよね。それも自意識だね。自意識は消えさらないし、其がなかったら独り言なんじゃないかな』

『ても、芸術では無いけど、夢中になってるとき、無心になってるときは、その作品が評価されるんじゃないの?』違うね。いや、それが違うんじゃなくて今やってることこの行為が違う。とりあえず、語彙変換実行。意識の角度変換。論点が適切でない。今の議題は、自意識。枠外の言語。想定外の想像。視界。領域。其処に到達する手段の獲得。返答拒むは他者の目か。恥辱を恐れる心であるな。汝恐れず言うてみよ。

『俺が泣きながら書いた最初の小説は、芸術?というか評価されるもの?そもそも芸術って何?』

『言語道断。あれは、汝の思いの丈を綴った文に過ぎず。又、芸能に携わらん者が其を語るは恥じと知れ。汝己の真の声を聞け』

『変わりに私が言おう。紆余曲折。遠回し投げ回し、やぶさかにあらず。最短距離で思考せよ。遠回し過ぎて何が言いたいのか分からんし、お主自分でも理解しとらんだろう?』

『私が言います。つまり、想点をずらしてしまう主の無意識の癖が出てしまってもう誰にも分からない状態だということです。』

『皆さん、お静かに。語彙縮小ご協力賜ります。発言者が多発すると、余計終息しかねます。まず、論理的且つ理性的思考且つ画期的且つ揮発的表現で発言されたし。代表者に端的に要約し終結要望』

マコさんお願いします。

『うん、任せて。要するに一歩も進んでないし、良い意味で成立してるよ。只、果てのない会話であり、これは何処にも向かってないよ。目的地を喪失してるね、君の中で。ある程度、というより強い何かがあって物語は動き出すんだよ。今、君が描きたいのは、がらんどうな心の有り様、その乾いた心を感じさせる物語だよね。そして、其処に行くために君は君の中を潜って君自信を浮かび上がらせ、その幾つもの顔が結局君自身でしかないという情景を描こうと思ったんだね。

なら、もっと君のがらんどうな心を描くべきだよ。きっと』

『だそうです』


文字数残り、3479字


がらんどう、がらんどう、がらんどう、東京の町の面白い名の駅を降り、夕日も落ちた町の中、明るい明かりの中を遠くから覗くようにとぼとぼとふらふらと一人歩く。私が幽霊だったとしても私は驚かないかもしれない。


がらんどう、がらんどう、がらんどう、私を蔑む声が其処ら中から聞こえる。私を蔑む目が其処ら中から私を視ている。あぁ、私は生きている。


がらんどう、がらんどう、がらんどう、私の足は今、微かな震えと確かな冷えを感じさせてくれる。あぁ、私は生きている。


がらんどう、がらんどう、がらんどう、そんな時に感じるあの感覚は、孤独なのか不安なのか恐怖なのか、乾いた風が私の中心に吹き付ける。



きっと目を向けるべきじゃない方にいつも目を向けてしまう。

この冷えが冷たさが懐かしく感じる。勿論、明るい未来を夢見たいがもう既に、愛着が沸いてしまった。


人生で何度こんな気分になっただろう。其処から救い出してくれる人にも出会った。私は、その人達との関わりを自ら絶った。別に死にたいわけじゃない。情けない話しが、ずっと閉じ籠っていた自分を今に成って表現したくなったのだ。


会話 

男は、小説を書いた。誰も読まぬ小説を。失恋から立ち直るため。人を傷付けた後悔から立ち上がるため。

男は、夢を見た。昔見たことがあるドラマか何かだと思うが、ストーリーが割りとしっかりしていた。タイムトラベルものである。だが、この夢は、前に見た夢を視ているのかも知れないと思った。

男は、引きこもった。己の内を見つめることで何者かになれると信じて。


自意識

今、削除したなん行かは、君の覚悟の無さでもあるし、単純に陳腐だったからだよね。地下室の手記。今、内容全然覚えてないけど、この際、君の記憶力が何処までのものか試してみないかい。

君が覚えているのは、作者がドストエフスキーで、君は大学に通ってた頃に、文庫本で読んだよね。そんなに分厚い本では無かったよね。

作者自身のような文体で、主人公の男が地下室に閉じ籠り、なぜ閉じ籠っているのかを、淡々と描いていたような気がするね。ちっとも思い出せないや。物語の結末も。面白いのは、その文体というか表現の仕方だよね。良いんだよ。君の読んだ君の記憶の地下室の手記だから。最初女遊びをとっかえひっかえしてる見たいに書かれていて、なんだってがっかりした気分になったけど、それが人形相手だって描いてあって笑っちゃったよね。読み進めてわかったよね。最初は、取っつき憎かったけど、段々と入り込める作品だったね。結局何が描いてあったか全然思いだせないね。


何故、男は会話を始めたのだろう。どういった経緯でそうなったのか。

 物語は書くのではない、あるのだ。それを只記述するだけだ。

 そういったのは、私だった。今思い付いた。

男は、何人と別れて誰とどんな話しをしたのだろう。何故あの女である私にひかれたのだろう。そして、何故、何時現実を見てしまったのだろう。

 もう一度言う。

 物語りは、書くのでは無い、あるのだ。其を只記述するだけだ。


果たして、あの夢は、本当にすべからく私が考えついた、私の夢だけが見させた者だったのか。にしては、登場人物が多く、役者の顔まで浮かんでしまう。此れを書いてる、私は暇なのだろう。


『悪い癖が出てますよ』

『分かってる。普段遊ばないぶん、遊んでしまうんだよ』

『言い訳とか格好悪いです』

『すまん』

マコさん登場

『今、君は無の境地に近い、けどもっと低俗な境地で此れを書いてるよ。書いてるというより、用を足してるだけだよ、此れは。

目的意識大事だよ。そして、心の中に何が浮かんでるかも』


がらんどう、がらんどう、がらんどう、がらんどう、がらんどう。


                   おやすみなさい。


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