笑み
「おーい」
店に入ると聞きなれた声が耳に入ってきた。
「山本君は?まだ?」
「うん、まだみたいだから、先食べちゃお」
はいよーと返事をしながら僕はメニューを開いた。連休前ということもあり今日は忙しく疲労感はいつもの比ではなかった。が、そういう時こそこういう飲み会(現時点では二人だが)というのはテンションが上がるものだ。現に周りはサラリーマンの客が多く、みんな笑顔で顔を赤くしている。メニューに噛り付いていると、五月雨さんにとりあえず飲み物頼んだら?という提案に
「とりあえずビール」
という居酒屋常套句を発し、おつまみを何品か頼んだ。
「あ」
五月雨さんがスマホを弄って急に固まった。どうしたの?以外の質問が思い浮かばずそのまま言葉にした。
「どうしたの?」
「山本君……来れないんだって」
「え?なんで」
「今日中に実家に帰らないといけなくなったみたいで、今大急ぎで帰省準備してるみたい」
不意に二人になりなんとなく言葉が詰まった。こういう時ズバッと発言できる人を僕は尊敬するがその人は目の前に座っていた。
「ま、飲みますか!せっかく来たんだし、わたしとしては……ね……りかな……し」
「え?」
あれ?このやり取り前もやった気がする。周りの喧騒もあり後半はほとんど聞き取れず聞き直していた。
「飲みましょー!って言ったの!」
おう!と相談会(?)は開かれた。
何気ない話、仕事の話、色々したが結婚や恋愛の話で少し色合いが変わってきた。
「昴さん?私のことどう思います?」
「どうって、いい同僚だと思うし、いつも助けられてます。ほんとありがとう」
「じゃ、なくって女としてですよ!おんなとして!我ながら魅力が無いことは無いと思うんですよ。すらっとしてる割には胸もあるし、顔だって別に不細工ではないでしょ?」
だいぶ出来上がってきているようだ。
「その上好きな人には振り向いてもらえない」
「五月雨さんは魅力的だよ……ってか好きな人いるの?」
僕はその内容の方が気になり五月雨さんの方にグイっと身を乗り出してしっかりと聞く体制に入った。視界が揺れた気がした。そんなふらつくほど飲んでいないと思うけどな?
「好きな人ってどんな人なの?」
また視界が揺れる。というより眩暈のような。僕の目の前で微笑む五月雨さん。次の瞬間僕の視界はブラックアウトした。直前、彼女の微笑みが不敵な笑みに見えた。
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気が付き僕はベッドからがばっと起き上がった。見覚えのないベッド。見覚えのない部屋……
ここって……
「ホテル?」