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名前

 歓迎会の翌週からしっかりと仕事をこなしていった。畑違いだからと何もできずにただ一日が過ぎていくなんて社会人として、そもそも僕自身が許せないからだ。それでもよくわからないところは五月雨さんがカバーしてくれる。よく気が付くなと言うぐらい繊細にアドバイスをくれるためもしかして監視でもされてるのかな?なんて馬鹿な冗談を考えた時もあった。我ながら笑えてしまう。それぐらい気の使える人なのだろう。五月雨さんが言った通り働き始めて二週間で部署内のすべての人と連絡先を交換した。特に何か連絡を取り合うわけではないが連絡先を交換するのは何か一つのステップのような感じがする。もちろん何かあった時に連絡先を知っているに越したことはないのである。……僕はもしもの時って何だろうな?なんて考えながらお昼ご飯をかき込んでいた。ちなみに、五月雨さんからは歓迎会後のrain以来連絡は来ていない。

「今日はお弁当じゃないんだ」

 急に声をかけられ、むせそうになりながら声のした方を確認する。

「五月雨さん、急に声かけるからむせるかと思ったよ」

「ごめんごめん、昴さんいつも愛妻弁当なのに今日は食堂なんだなぁと思って」

 そういえば始めは違和感しかなかった名前呼びももう違和感なく受け入れていた。特に拒否するようなことではないからそのままにしている。

「昨日から楓……妻の体調があまり良くなくて」

 楓のことをよく知らない人には一人称を妻にしているが五月雨さんとは気軽に話過ぎてつい名前を出してしまった。別に悪いわけではないがなんとなく自分が納得いかず言い直した。

「え、それは心配だね」

「のどが痛くて熱もあるみたいなんだ」

「まだ夜は冷えるし油断できない季節だしね……奥さん、カエデさんって言うの?」

「え、あぁ、楓って名前だよ、キヘンに風で楓」

 さっき口に出た時名前の後半はしりすぼみになっていたからわからないかなと思ったけどさすが五月雨さん!そして僕、漢字まで伝える必要はなかっただろうに。

「やっぱ間違いないな」

「え?」

 小声だったが間違いないと聞こえた気がして聞き返した。

「……間違いないです。風邪です」

「わーってるわ!」

 シリアスな表情だったからいったい何を言い出すかと思えばまったく。

「さっきずいぶん楽になったってrainもきたし、もう大丈夫だよ」

「良かったですね。最愛の奥様が元気になって」

「そうなんだけど無理させたくないし、今日の晩御飯は俺が何か作るしかないな」

「お、料理できるんだね」

「何もできないが、愛情でカバーだ」

 グッと親指を立ててどや顔を見せつけた。

「昴さん、悪いこと言わないから総菜買って帰ります。ってrainしな」

僕はあきれ顔の五月雨さんがこの上ない的確なアドバイスをくれたため、どや顔のまま一瞬のフリーズの後、深く頷くのであった。

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