rain
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、飲み会どうだった?」
「うん、楓の言うように楽しんだ者勝ちしてきました」
楓のアドバイス通り女性の多い場面だったが単純に楽しもうとした。結果楽しむことができた。
「楓はいつも的確なアドバイスをしてくれるね」
「たまたまだよ。はい、どうぞ」
楓は謙遜しながら僕にお茶を出してくれた。僕はお礼を言って、そういえばと話を続けた。
「隣の子がテニスやってた子で、なんか、話しやすかったんだ」
「隣の子?珍しいね。こうちゃんが女性に興味持つなんて」
「興味ってわけじゃないけどなんかさ、印象が楓に似てて、初めて楓にあった時のことを思い出したんだよ」
「それはきっと素敵な子ね。なんたって私に似てるんでしょ?」
楓は時々こういう冗談を言う。うん。嫌いじゃない。
「そうだね、これから席も隣だから、話しやすそうな印象で良かったよ。あ、年齢も同じだから、楓とも同い年だね」
楓はそっかそれはよかったねと笑顔を見せていた。話し終えてからこんなに女性の話しちゃったけど嫌じゃなかったかな?と、少し後悔をしていた。それともう一つ。
「あと、ごめん酔った勢いだったんだけど二人で写ってる写真を見せちゃったんだ」
自分でもあえてなぜツーショットの写真を見せたのかわからない。謝ることでもないのかもしれないが、ちゃんと伝えておきたくなったのは罪悪感からだろうか。
「いいよそんなの。気にしないで。」
「うん、ありがとう」
そういうことで怒ることはないと思っていたが、思った通りで安心した。
「それより、何か作ろうか?」
「いや、今日はこのままシャワー浴びて寝るよ」
楓が夜食の提案をしてくれたが夜も遅いし、年齢的にも寝る前に何か食べるのは悪手だと考え断った。
「じゃあ私は寝ますのでおやすみなさいませ」
半分目を閉じながら小さくお辞儀をする。
「うん、おやすみ……」
眠いのに夜食作ろうとか、出来すぎなんだよ。
「楓」
僕は立ち上がり彼女の方へ歩み寄った。楓は「ん?」と振り返る。
「ありがとね」
僕は楓をぎゅっと抱きしめ、頭にキスをした。健気な彼女が愛おしくなってそうせずにはいられなかったのだ。楓の体温は少し冷えているように感じた。
「うん」
楓は顔を上げ、にっこりと笑顔で返事をした。僕はもう一度「おやすみ」と伝え、楓は「おやすみ」と寝室の方へ向かっていった。季節的にまだ冷える時期に帰りの遅い旦那を寝ずに待っているなんてありがたい限りだ。僕は楓の体が少し冷えていたことを心配しながら、シャワーの支度に入った。風邪、ひかないといいな。
シャワーを終え時間は日付を変えようとしていたため、少し迷ったが連絡先を交換した五月雨さんにお礼のrainを送った。業務的なだがお礼としてはこれぐらいで充分だろうという内容だった。返事もないだろうと思い、スマホに充電ケーブルにさして寝室に向かおうとした時
ザーーザー
rainの着信音とバイブが机と接触し思いの外大きな音が鳴った。ビクッとなり画面を確認すると五月雨さんからの返信であった。業務的な内容が返ってくると思いスマホを弄る。
(昴さん、今日はとっても楽しかったよ!ありがとね!いつもよりお酒が進んじゃいましたw奥様との、のろけも聞けたし、お腹いっぱいです。二つの意味で。またご飯でも行きましょー!あ、テニスも教えてくださいね)
絵文字も顔文字もふんだんに使われている。楓は文面が冷え切らないように最低限の絵文字のみを使うタイプのため新鮮であった。女子ってこんなメールするんだな。男は絵文字なしの絶対零度文が多い印象だから余計である。
僕は返信をせずにそのまま携帯を置き妻の眠る寝室へ向かった。楓はすやすやと寝息を鳴らしながら気持ちよさそうな寝顔である。僕は幸せ者だな。と彼女の手を少し握って眠りの中へ向かっていった。