歓迎会
四月五日金曜日
七時から「みんなの居酒屋 五右衛門」で歓迎会が開かれた。妻からは
「女性もいる部署だから苦手意識あるだろうけど楽しんだ者勝ちだから」
と、背中を押された。
少人数の部署だからか全員参加で和気藹々といしている。この部署は部長を入れて九人で構成されており男性は部長を含め四人である。前の部署とは構成人数も男女の比率も桁が違っている。
部長の挨拶は手短で早々に乾杯となった。なぜか乾杯の音頭を挨拶ついでだと回され、勢いで乾杯の音頭を取った。
質問したりされたりでそれとなく会が進み、女性の圧力に若干疲弊していた頃に隣に座っていた五月雨さんに声をかけられた。
「大丈夫ですか?」
気の利く女性なんだろう、僅かな疲労感を見逃さなかったようだ。
「大丈夫ですよ、みんな和気藹々としていて良い職場ですね」
単純に本心だった。
一瞬間が空いて
「轟さんは結婚されてるんですか?」
と聞かれた。
「え?はい、していますよ。三年たちます。」
そうなんですね。と笑顔を見せた。急な質問に少し戸惑う。
「轟さん真面目でやさしそうだから、家庭円満って感じがしますね」
「どうだろうね?急に離婚届とか突きつけられるかもしれませんよ」
飲み会の席っぽい冗談を噛ませつつ会話を続けていった。五月雨さんは大人しそうな性格でどことなく楓に似た雰囲気があった。そのせいか話しやすく、色んな話をしたように思う。同い年であることもわかり徐々に話し方もフランクになっていった。
「五月雨さんテニスするの?俺もするんだよ。」
「するといっても大学の時にお遊び程度でやっただけだけどね、結構しっかりやってたタイプ?」
お互いお酒も入って会話はなかなか途切れない。ちなみに僕はお酒はあまり強くないのでペースは重々調整している。正直飲み会ではお酒がなくても楽しめるタイプだ。
「ユニフォームとかも使っちゃうタイプです」
とお酒のせいか、彼女のせいか、僕は何を思ったのかスマホを弄り彼女の方へ向けた。
「わー、本格的ですね……って隣の女性って……」
「あ、妻でございます」
流れで見せたのはユニフォーム姿の僕と妻の写真だった。
「……奇麗な方ですね」
「ありがとうございます、自慢の妻です」
にやけながらお礼を言った。なんとなく間が空いた。表情は特に変わりないが、こういう感じの流れはあんまり好きじゃないタイプなのかな?と思っていると
「昴さん!」
空いた間を埋めるように、自分の思いをかき消すように、五月雨さんに名前を呼ばれた。
「これからお隣同士だし、連絡先交換しましょ。小さい部署なんで後々全員と連絡先は交換すると思うけど」
彼女はスマホを弄りrainを起動しQRコードを出そうとしていた。
「あ、はい」
彼女の勢いに少々戸惑いつつ、彼女のQRコードを読み取った。
「改めてよろしくお願いしますね」
「はい、よろしくです」
その後も何気ない会話を続けた。べろべろに酔っ払った部長が宴もたけなわではございますがを噛み倒しながら歓迎会はお開きとなった。一同を見送りつつ僕も家路についた。
歩きながらふと思い出す。
「そういえば、後半名前で呼ばれてたな」