<初逮捕>
数か月に及ぶ訓練の末、初めて逮捕状を執行する時がやってきた。相手は美術品専門の窃盗犯なのだが、今までずっと泳がしていたのだ。では、なぜ今まで泳がしていたのかということなのだが、生きて逮捕して盗んだ美術品のありかを吐かせなくてはならないといったことが理由だ。
魔法使いによる犯罪というのは自分の力を誇示したいものが多い。自分の力を社会相手に試すのが目的なのだ。今回美術品が盗まれるのはその過程の副産物であり、こういった美術品はどこかに売られたり、盗む理由自体、誰かの依頼を受けて盗んでいたりするものということもよくあることなのだ。
「今回の目的は生け捕りだが、重要なのはこちらに被害なく済ませることだ。命の危険があるときは殺しても構わない」
様々な企業の工場が立ち並ぶ工業地帯に奴は勤めていた。こういった時の逮捕は住宅街や学校といった場所は避けて行われるのが普通だ。自宅には罠がある可能性があるし、子供たちへの被害を避けるためにも当然のことだ。
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相手は詠唱者であり逮捕後はすぐに猿轡を噛ませること、逃走時した時のために頭に叩き込んだ工場の見取り図を思い出すなどといったことを頭の中で考えながら工場へ来るまで乗り入れる。車といっても重機関銃を乗せた銃座があり、曹長と警部以外は空砲だが全員がサブマシンガンを携行している。
そんな物々しい雰囲気をして 俺はエキドナとデュラハンとともに奴のいる建物の中へと入る。その間ミミックと曹長、警部の三人たちは来るまで待機だ。しかし、こんな格好で気づくなというほうが無理だろう。奴の持ち場に入った瞬間、奴は逃げ出した。
「容疑者逃走!」
エキドナは無線に向かって叫び大追跡劇が始まった。窓を割って外に出た奴は一気に屋根の上へと跳躍する。真っ白で広大な屋根を俺たちは走る。
「来るぞ!」
追われながらも詠唱していた奴から、いくつもの青白い氷の槍が俺たちめがけて放たれる。しかし、魔法を防御するなど警官になる前に覚えさせられる基本中の基本だ。エキドナは木を、俺は氷を、デュラハンは岩を盾状にして攻撃を防ぐ。
「デュラハンお前は回り込め、ランスは私のあとに奴を拘束しろ」
「「了解!」」
その後、逮捕は問題なく行なわれた。
デュラハンが回り込み、回り込まれた奴がこちらに振り向いた瞬間にエキドナが光属性の魔法で目を眩ましたのだ。そしてそこからが俺の仕事だ。目をくらました奴に木属性の魔法で作ったツルを巻き付け、そのまま口にも猿轡を噛ませたのだ。
それでもさらに抵抗しようとするが、待機していた警官に奴を引き渡す。これからは魔法犯罪対策部の出番だ。尋問されるとき以外は留置場でも刑務所でも猿轡を噛まされ、外せないように肢体も拘束される。もし尋問中に逃げ出そうとしても、その時は死ぬことになるだろう。
その後、本部に戻った後は報告書を書く。最終的に仕上げるのは曹長と警部だが、こうして俺の初仕事は終わった。




