<氷狼>
どれくらい時間がたっただろうか。
「クソ!」
俺がそうつぶやいたのは、ミミックに向かって毒針が放たれた時だった。ミミックを中心に表れていた魔法陣が光を帯び、まさに変身する瞬間のことだった。あれだけ光を放っていて見逃してくれと思うほうが土台無理な話なのだ。
俺は勢いをつけて跳躍する。そして、宙に浮かんだまま氷の盾を作り出すと毒針を受け止める。何とかしてミミックを守ることができた。しかし目の前を横切り、まっすぐ向かっていた毒針を防いだ俺はそのまま彼女の斜め後ろへと飛ばされ、刑務所の壁に全身を打ち付ける。
全身の痛みを我慢しながら、また気を失いそうになりながら俺はミミックを見る。しかし、そこにいたのは大きな狼、氷狼だった。その姿はマンティコアよりも一回りは大きく、美しい。
薄れゆく意識の中、俺は事の成り行きを見守る。
相手におじけづくマンティコアに、氷狼はジリジリと距離を詰めていく。それに対してマンティコアはそれに合わせて引き下がる。積極的に戦わないという姿勢が見られない以上、逃げようとしているのだろうがおじけづいた時にすでに勝負は決まっている。
巨大なツルの束がマンティコアの背後から襲い掛かる。足を搦め捕り、尻尾も同じように搦め捕る。抜け出そうとしても足は完全に飲み込まれて宙に浮いているし、前足だって片方は完全に使えない。何とかしようと必死にもがいているが、まるで蛇に丸飲みにされそうになっている動物ようだ。
おじけづく様子を見たエキドナは、自分が無防備になるのを承知であれだけのツルを出したのだ。ある意味自分の命を賭けた賭けではあるが、それは完璧なまでにうまくいっていた。
氷狼はもがくマンティコアのもとへ歩み寄ると、前足でケガをした左前足を踏みつける。
ウガァァァー
痛みからか咆哮とも叫び声ともいえるような声を出す。しかし、それはもがくために地面スレスレに下げていた頭を上へ突き出すような形になった。相手が弱点をさらけ出したのを氷狼は見逃さない。すかさず奴の首に横から噛みつくと、のしかかってそのまま前に身を乗り出す。
マンティコアはもはや声を上げることすらできなかった。のしかかられて体は動かないにもかかわらず、首だけは身を乗り出されることによって少しずつ、確実に捻られていくのだ。しかもそれだけではなく牙がさらに深く食い込み、裂かれるのだ。
そして、俺は奴が動かなくなるのを見届けて気を失ったのだった。




