<再戦>
数日後、狂犬は逮捕された。しかしその容疑は銀行強盗である。
狂犬と体格の似た捜査官に覆面を被せて銀行に立てこもらせる。そして、その後逮捕して犯人の顔写真として狂犬の写真を発表するのだ。ジャッカルは逮捕された狂犬を見て驚くと同時に司法取引を警戒するはずだ。しかし、それだけでは終わらせない。殺し屋であったことを公表し、ほかの殺し屋についての情報も知っているかもしれないと週刊誌に情報を流すのだ。依頼以外や私情では殺しをしないジャッカルでも、自分の素性が明かされることになるかもしれないとなれば話は別だろう。
・・・・・
狂犬の逮捕から数日後。俺たちはすでに狂犬のいる刑務所で何度も訓練を重ね、バズーカ砲を持った陸軍兵士たちも警備に当たっている。あとはジャッカルが襲撃してくるのを待つだけである。
――数時間後
刑務所は巨大な生物に突如として襲われた。それはまるでライオンの尻尾に無数のトゲが付いたような姿をしており、刑務所の高い壁を飛び越えて運動場へと入り込んできたのだ。
「あれはマンティコアです。尻尾のトゲは毒針になっているので注意してください」
ミミックの叫ぶような報告が刑務所の運動場を囲う高い壁で反響する。つまりあいつは魔導書によって変身したジャッカルなのだ。今まで必要最低限であったジャッカルがここまでするというのはなりふり構っていられないのか、それとも罠と分かっていて飛び込んできたということなのだろう。
バズーカが何発か撃たれるが、奴はそれを華麗に避ける。爆風には巻き込まれているようだがそんなことではダメージなど与えられない。バズーカでどうにかできればよかったのだが、どうにかできない以上、作戦通り俺たちが対応することになる。
エキドナと俺は前衛につきデュラハンが中衛、ミミックが後衛だ。前衛の二人でジャッカルを足止めして、後衛のミミックが召喚魔法を行なう時間稼ぎをするのだ。その間、中衛のデュラハンはミミックの護衛だ。
デュラハンは自身の地属性の魔法で全身に岩の鎧を身にまとい、その姿はロックナイト、岩騎士とでもいえばいいのだろうか。俺も木や氷で同じようなことができるが、前衛である以上はある程度の機動力を確保しておきたい。
・・・・・
エキドナの光属性の魔法による目くらましに動じることもなく、マンティコアは尻尾を振って毒針を飛ばしてきた。俺はとっさにエキドナの前に割り込んで盾を作り出す。
「大丈夫か」
「はい」
「もう少し楽にしろ」
「わかりました」
背後にいるエキドナから優しく諭される。ツルで編んだような盾には深々と毒針が刺さっており、もう少し薄ければ貫通していただろう。俺は毒針の刺さった盾を投げ捨て、エキドナとともにミミックの召喚したゴーレムの後ろへと後退する。
ゴーレム三体に囲まれたマンティコアは距離を測りつつ、ゴーレムの様子を伺っている。しかしジャッカルも魔法使い、操っている者がいることぐらい奴も分かっている。そしてミミックの姿を認めると、ゴーレムの頭上を飛び越えて彼女の目の前に出ようとした。
そして・・・
グアァァァ!
ズシーン
獣の叫び声ののち、奴の体が地面に叩きつけられる音が響く。ゴーレムは奴の前足を掴み、自身が後ろに倒れながらも、きれいな弧を書いて奴を背中から地面にたたきつけることに成功していた。
「おい!」
だが俺は叫ぶ。奴の毒針のついた尻尾が、ミミックに向かってムチのように襲い掛かったのだ。
そこからまるでゆっくりと時間が流れているかのようだった。ミミックの目の前に現れたデュラハンが巨大な岩の盾を構えた。しかし、尻尾とはいえ非力ではない。そして、尻尾は岩を真っ二つに叩き割り、デュラハン、ミミックもろとも叩き飛ばしたのだ。
「大丈夫か!」
「私は大丈夫です。でもデュラハンさんが」
エキドナは二人のもと駆け寄り、俺もいきたい気持ちを抑えて引き続き奴の注意をそらすことに全力を尽くす。ミミックは無事なようだがデュラハンは盾どころか鎧ごと砕かれ、完全に気を失っているようだ。
そして、奴は左の前足をゴーレムに握りつぶされてうまく歩けないようだが、それでもミミックが叩き飛ばされて動かなくなったゴーレムを一体ずつ押し倒していく。
俺はその握り潰された場所に氷塊を投げつけたり、ツルを巻き付けたりしようとするがあまりうまくいかない。奴の動きを邪魔することはできているが、完全に動きを妨害することまではできないのだ。
「おい!」
声のほうを見ると、デュラハンとミミックのもとにいたエキドナが戻ってきていた。デュラハンは命令を無視して物陰で一撃を与えられないかと身を隠していた陸軍兵士たちに運ばせたらしい。
「ミミックのために時間を稼げ」
エキドナはそういうだけですぐにマンティコアの攻撃を行なう。ミミックを見るとどうやらジャッカルと同じように何かに変身をするようで、そのためにはある程度の時間稼ぎが必要そうだ。
その後、俺とエキドナは交互に、時にはゴーレムの残骸である岩を投げつけつつ戦った。攻撃した後にすぐに魔法で防御できないうえ、魔法を使った前後はわずかだがスキになるのでお互いに守りあうのだ。




