プロローグ
「おとーさんまだかなー」
とソファーから窓の外の曇り空を眺めながら僕は楽しそうに言う。
そう、今日は1月21日、僕の9歳の誕生日だ。
「もうすぐ帰ってくるわよ」とお母さんが言う。
「今日は張り切って健吾の大好きなオムライス作っちゃうんだから!」と母は意気込んでる。
「ほんとに!?やったー!」僕は跳ねて喜んだ。
お父さんは吉村健人、刀士というカッコイイ職業をやってて日々妖刀士妖と闘ってる。時には厳しいけど、いつも優しくて、かっこよくて...
僕はそんなお父さんのことが大好きで、そして憧れの存在でもあった。いつも忙しいからあまり帰ってこれないけれど、休みで帰ってくるとき僕はいつも真っ先に抱きついてた。
それで一日中二人で木刀を振ったり、遊んだり...今日も僕の誕生日だからって仕事も切り上げてまで帰ってきてくれるらしいので僕は本当にワクワクしていた。
「あ....」外で雨が降り出した、たしかに今日は夕方から雨になる予報だった。夕方だし予報は当たったってことだなと僕はなんとなく考えてたら
『♫〜〜〜〜〜〜』
突然家の電話が鳴り始めた
「はいはーい、只今行きますよー」とお母さんは鼻歌交じりで家電に駆け寄る受話器を上げる音が聞こえ「もしもし、吉村ですが」とお母さんが言う。
僕は引き続き窓の外を楽しげに眺めていた。その時
『ガコン!!』
と音がした。僕はビックリして振り返った、するとお母さんが受話器を落としていた...
慌てて拾い直し相手としばらく会話をしたのち電話を切った。そのお母さんの顔は青ざめていた...
僕は心配になってお母さんに駆け寄り「どうしたの?」と言った。
お母さんは暫くだまっていたが恐る恐る口を開き
「刀士本部から連絡があって......お父さんが.....行方不明だって......」
僕とお母さんは言葉を失いその場に立ち尽くした。外で雷が落ちた音が聞こえた気がした...
――――――――
「.....はっ!....はぁ....はぁ.....」
僕はベットの上から飛び起きた、身体中汗ぐっしょりで涙も流していた....
「また....あの時の夢......」
あの後いろんなことがあった...刀士本部に行き詳しい事情説明。大型の妖と交戦していたはずの父は大量の血痕を残し消息不明。大量の刀士導入による捜索活動が連日続けられたが見つからず。結局捜索は打ち切り....血痕の量から見ても生きてるとは思えないと言われ、父は死亡したとされた...
死体のない葬式...母はずっと泣いていた...
それから6年の月日が流れた...
僕はその間学校がおわったらすぐ近所の道場に通いつめ、夜御飯を食べたら寝るまで木刀を振り続けた...母は心配していたがその度に「大丈夫」と笑顔で返した。
すべては『父の意志を継ぎ、立派な刀士となる』ため、僕は努力をし続けた...
そして明日、念願の市立明鏡学園高等学校の入学式...全寮制の学校なので家には暫く帰れなくなるのは寂しいけど、父の意志を継ぐために、刀士となるために。そのためにも必要なことなんだと言い聞かせた。
朝の食事を終え顔を洗い歯を磨き、身支度も万端整えて玄関へ...すると母が来た
「本当は私も嫌なのよ...健吾まで刀士になるなんて...」僕は俯いた。
「でも...」と母は続ける「夢を追いかける息子を応援してやらないなんて、母が廃るじゃない!絶対に立派な刀士になって帰ってくるのよ!!」と母に背中を軽く叩かれた
僕は少し目に涙を浮かべたがそれを拭い母に言った「うん...絶対刀士になってみせる...行ってきます!!」
僕は靴を履き玄関の扉を開け放った。
――――――
ここからはかなり離れた学校なので新幹線に乗りさらに電車も利用することになる。さて駅に行こうとしていた時
「おーい!ケンゴ待ってー!」
と後ろから僕を呼ぶ声。
振り向くと見慣れた茶髪のポニーテールの少女が走ってくるのが見える。
僕のそばに駆け寄り、「もう!一緒に行くって約束でしょー!?」と少し怒り気味で言う。
「ごめん瞳...色々考えてたから...」申し訳なさそうに僕は言う。
「まぁ...幼馴染特権で許すけど...今度何か奢ってもらうからね!」イシシーと笑みを浮かべながら言う。
「えぇ...まぁいいけど...」僕は溜息を吐く。
雨宮瞳...生まれた日が1日違いなうえ、家も近く、実家が鍛冶屋で昔から父との交流もあったため昔から遊んだりしてたいわゆる幼馴染だ。
「まぁ私も待ち合わせ遅れそうになったからねー、昨日は楽しみでよく寝られなかったし...ふあぁ...」と瞳は欠伸をする。
「なんで?」と僕が言うと、「それは...」と
(あ、これやばいやつだ)
「だって名門学校なんだよ!!いろーんな鍛冶師を目指す同志とかたくさん出会えるだろうし、先生たちとか生徒みんなが打つ刀もたくさーん見れるって考えたらもう居ても立っても居られないでしょ!もうドキドキが止まんなーい!!」と目をキラキラさせながら言う
そうなのだ...瞳は鍛冶屋の娘として生まれ、昔から親が刀を打ってるのを見て育ってきた結果、刀オタクになってしまったのだった...
「私も立派な鍛冶師になってトーサンの後を継ぐんだ!ケンゴが刀士になったら私の打った刀使わせるからね!!約束忘れないでね!!」
「はいはい...」僕は呆れながら言う
「なんでそんな顔するのー!!」と頬を膨らませる。僕はその顔を見て優しく笑う。
『私の打った刀を僕に使わせたい』それは小さい頃から瞳が僕に対して繰り返し言ってきた約束。もう今までに何回言われただろうか...
「さて、瞳とも合流できたし行こうか」と僕は瞳に語りかける。「うん、いこ!」
と僕らは歩き出す...これからどんな日々が待っているのか考えながら...