1.寝耳に水な前日譚
四月一日。
悠々自適にゴロゴロしていたら、唐突に電話が鳴った。
なんだ、この時代に私を呼ぶやつなど物好きしかいないはずだが……?
居留守を使ってすっぽかしてもよかったものの、如何せんすぐ手の届く場所にあったものだから、取らざるを得なかった。うるさいし。
でもまあ、寝ぼけている振りをして意味不明な言葉を口走った後にぶっちぎろう。
その程度の認識だった。
「あーいもしもし」
しかし、果たして。
向こう側から聞こえてきたのは思いがけない人物からだった。
三十代になったばかりという、これからが本番と言わんばかりに溌剌とした声だった。
『あー、俺俺、俺だけど。急な電話ごめんな』
「……誰だオメー」
全然知らんやつだった。
何だこいつ。まさか近年巧妙化して悪質にも増え始めているというあれか? なんだっけ、オレオレ……?
『突然だけどテレビ見た?』
「はあ?」
藪から棒にである。
何を企んでいるのか。
私は不審に思いながらも、どこか重要なことな気がしてテレビの電源を付けた。
そして。
「なっ……」
言葉を失った。
というより、今目に写っている光景がにわかには信じがたかった。
だって。
画面に写っていたのは、シンプルな長方形の色紙。
偉い官職にいそうなおじさんが、大事そうに抱え、誇示するように向けているそこには。
『令和』――と。
紛れもなく、私の名前が綺麗な筆の書体で書かれていたのである。
私が唖然としている中、畳み掛けるようにして、受話器の向こう側にいるやつは私に語りかける。
何だか荷が降りたような、寂しがっているような、様々な感情が混ざりあっているような口調だった。
『つーことで俺、『平成』は今月いっぱいでおしまい。次の時代はお前だよ、『令和』。新時代をよろしく頼むな』
「は!? んなこと急に言われても……!」
『だいじょーぶだいじょーぶ。俺だって最初はそんな感じだったけどすぐに慣れる。ポカやったことは何回もあったけどな』
「いや、私聞いてない――!」
私の文句を待たず、プツリと電話が切れた。
だらりと手を垂らし、私は受け止めきれていないながら画面をぼんやりと見つめる。
その中ではコメンテーターらしき人物がどんな意味のある言葉だとか、好き勝手にまくし立てている。
チャンネルを変えると、国民の声という見出しで街頭インタビューの映像が生放送で流れていた。
彼らは口々に、何度も言う。
『令和』、と。
その回数が重なる度に、私の額には汗が浮かび始めた。
悪い夢だと切り捨てようとしたことが、事実として自分に突きつけられる。
どうやら。
突然のことだが、来月から時代を担わなければいけないようだった。
こんにちは。お久しぶりです。
ここまで数十分とかかってません笑
たまにはゆるくやってみようかなと考え、色々やらかして最近話題になっている令和についてのお話もいいかなと作ってみたのがこれです。
超不定期に気ままに書くつもりなのでお願いします。