それぞれの旅立ち
神聖国ウォルセアは、その日旅立つ別れの場にふさわしい澄み渡った青空をみせていた。
「ではカマスよ、公国への知らせと荷物は頼むぞ」
「お任せくださいませハリーテ様、後日必ず追いつきますゆえに無茶はなさいませんよう……エドワード様、くれぐれもハリーテ様の事をよろしくお願いいたします」
とカマスは深く礼を取り急ぎ旅立っていった。
「あのように慌てずとも問題など起こさぬというのに……心配症だのう」
ちょっと呆れたように言うハリーテを生温い眼差しで見ながらエドワードは
「まぁ、無茶しないようにという心配はわからないでもありませんがね……」
と答えた。
「なんじゃエド兄まで、わたくしはもう子供ではないのだぞ」
とちょっぴり憤慨している。
「まぁまだまだお子様には分かんねぇんだからほっとこうぜ」
とノンキに馬の準備をしているアドルファス。
「流石にレディに対して失礼ですよ」
と答えるエドワード。
「まったくもう……そんな事よりわたくしの馬はどこだ?」
「何を言ってらっしゃるのですか、聖女が馬に乗ってくるのはおかしいでしょう? 馬車にお乗りください」
「馬車はエド兄が乗ってれば良かろう、わたくしは馬でなければ行かんぞ!」
とハリーテが駄々をこねている。
「馬ならその辺から適当に連れてきて乗ればいいだろ? ほらさっさといくぞ」
と急かすアドルファスへ、ハリーテは便乗して
「さすがアド兄、話が分かる男だ! さぁ準備をはじめるぞ」
と馬の準備にとりかかっているハリーテ。
「まったくあなた方はもう……」
と呆れるエドワード。
そんな様子を可笑しそう声を出して笑いながらみているのは、フィルドへ帰る準備をしていたキャサリン達。
「まったくあやつらときたら……」
迎えに来たルイスもハリーテ達のそんな様子に呆れかえっている。
「あぁ、ルイス。 少し話が」
と脇へより話し出すエドワード
「どうしたのだ?」
「フィルド王へ別に報告はいたしますが、もしかしたら今後魔族が絡んでいる事件が起きるかもしれません。 フィルドのほうでも警戒を怠らないようによろしくお願いしますね」
その言葉をきいたルイスの眼光が鋭くなる。
「それは捨て置けんな……分かった。 お前たちも油断するなよ、万・が・一・の時はすぐに呼べ」
「フィルドの国防の要の貴方を引き離すのは、気が進まないのですがそうなった時は勇・者・の・剣・の継承者である貴方を頼ることになるかもしれません」
そう真剣な顔で確認し合う二人であった。
……すべての準備が整い、お互いに出発前の別れを惜しむハリーテとキャサリン。
「ハリーテ様、お役目が終わりましたら是非フィルドへお越しくださいませね」
涙目で語り掛けるキャサリンを暖かい眼差しで見つめながら
「キャサリン嬢も道中気をつけてな、余りはしゃいでウォルターを困らせてはいかんぞ?」
とニヤリと二人を見て笑うハリーテ。
「ハッ!? ハリーテ様! わたくしはそんな困らせるような事はいたしませんわ」
と顔を真っ赤に染め、ウォルターはニコニコとしている。 だがすぐに二人は真剣な表情に戻り
「ハリーテ様、そしてアドルファス様とエドワード様には本当になんとお礼を申し上げていいのか分からないくらい感謝いたしてます。 今後も鍛錬をおこたらず精進いたしますので皆さまも道中お気をつけて……」
そう言って横にいたウォルターと共に深く礼を取った。
「さて……名残惜しいがいつまでもこうしているわけにもいかん。 さぁ、キャサリン嬢また再会するときまでのしばしの別れだ! 息災でな!」
とハリーテはヒラリと馬に飛び乗り手を振る。
「はい!いってらっしゃいませー!」
とキャサリンも手を振ってから馬車へと乗り込んだのであった……。
その後フィルドへと戻ったキャサリン嬢が、待ちかねたブサイーク侯爵に国境で熱烈歓迎を受けた後、家に帰っても娘にベッタリになったり、ウォルターから正式にプロポーズされたり、父侯爵が結婚はまだ早いとすねたりそれは色々あったそうな……。
第二章 これにて完結でございます、長々とお付き合いいただきまして感謝にたえません。




