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元国王さまと元宰相さまの諸国を漫遊しにいくはなし  作者: 流花@ルカ
第二章 聖女選抜の儀編

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聖女誕生

 清めが終わり、祈りをささげられた、主神ウォルセアを祭る大祭壇の前では改めて聖杯適合の儀が行われようとしていた。


直々に儀式を執り行うと宣言した法王が、厳かに儀式を進めて行く


『ではこれより儀式を再開する、まずは聖女候補キャサリンよ、前へ出でよ』


法王の言葉に、キャサリンは無言で前に進み深く頭を下げる。


『右手を』


その言葉にキャサリンは従い手差しを出すと、傍に控えていた者がその人差し指に軽く針を当てると、プツリと小さな赤い血の珠ができた。


『聖杯へ』


 法王が祭壇に置かれていた聖杯を取り真っすぐキャサリンへと差し出す、聖杯と呼ばれた一切飾りのついていない白いゴブレット状の美しい器には七色を発する不可思議な液体が半分ほど注がれている。 そこへ流れた血を一滴たらすと液体は不思議な淡い光を発した、立会人と法王がしばらく見守っていると液体の光は収まり七色だった色がうっすらとした青い色に染まっていた。



『下がってよい。次、聖女候補ハリーテ、前へ』


ハリーテが前へと進んでいる間に、聖杯の水は別の器に移され洗浄と水の交換がなされる。


 ハリーテも同じように手を差し出し針を刺され、血を聖杯へとたらすとキャサリンより強い光が聖杯からあふれた、一同はその様子を見守っていると光は収まっていき聖杯の中の水は金色へと変わっていた。

すべてを確認した後、法王は立会人へ目をやると一同無言で礼を取る。 

それに頷いて法王は宣言した。


『聖杯が新たな聖女を選んだ! 今代聖女、ハリーテ・ドルジェ・スモウーブに主神ウォルセアの祝福があらんことを』


法王の高らかな宣言と共に、一同がハリーテへ新たな聖女誕生を祝うように深々と礼を取るのであった。




* * *


 新たな聖女として選ばれたハリーテは、儀式が終わり別室へと通されていた。 

儀式の間から出るときのキャサリンの心から祝福するような笑顔を思い出しハリーテは笑みを浮かべる。

ほどなく先ぶれもなく法王とエドワードが部屋へと入ってきて、ハリーテは慌てて礼を取ろうとしたのだが


『構わぬ、ここからは楽にしてくれ』


と気楽な様子で、エドワードとハリーテへ座るように促した。


『まずは聖女就任おめでとうハリーテ公女』


と少しいたずらっぽく笑う。


「聖下……意外にお人の悪い。 いくらわたくしでも、この儀式の結末が最初から決まっていたことは分かっております」


エドワードをジロリと眺めながらハリーテは言う。 その様子を見ながらエドワードは


「申し訳ありませんハリーテ様、今代の聖女としてキャサリン嬢を立たせるのは余り良いことにならないものですからハリーテ様に聖女になっていただきたかったのです」


と、ニコリと微笑む。


「それはキャサリン嬢の血筋の話か?」


「おや、ハリーテ様もご存知でしたか」


それほど驚いた様子もなくこたえるエドワード。


「マサタカ師匠のところで修行中に、一度だけ前侯爵夫人にお会いしたことがある。 その時に大魔導士様よりお話を伺っていた。 ……あぁ勿論この事は誰かに話すつもりはありません法王聖下」


と真っすぐ法王を見つめるハリーテ。


『先代本人と大魔導士が納得して話していたのなら、私は何も言う事はない。 しかし……そうか、二人は万が一を想定していたのか』


と、法王はハリーテを見ながらなにやら思案している。


『エドワードよ、其方知っておったのか?』


「先日大魔導士へお伺いを立てた時に教えていただきましたので……ですが密かに行ったのでハリーテ様は何もご存知ない、という事でしたので計画に支障はないと判断いたしました」


『なるほどな……。 あぁ、ハリーテ公女にも説明しておこうか、あの聖杯適合の儀式なのだが実はあの聖杯そのものに大した意味はない。今回使用したのはダンジョン産のものではなくこちらで用意したいつも使っている器だ、それで問題は中に入っていた水のほうだ』


「そうなのですか?」


『ああ、あの水は【聖なる水】といってエリクシール薬の原料となっているものが溶かし込んである特別な水だ』


「あれが……それであの水はあのような不思議な色をしていたのですね」

とハリーテは納得する。


『その通りだ、それであの聖なる水に様々な材料をいれて攪拌(かくはん)したものがエリクシールと呼ばれる万能薬になる。 その薬を攪拌するために特に相性のいい魔力を持つ者を毎回聖女として選んできたのが【聖女選抜の儀】だ。 

歴代の聖女は、大体秘密を守りやすい法家の家系の女子から選ばれていたが、そうでない場合は、普通の名誉職としての聖女として活躍してもらうことになっておる』


「では今回は名誉職としての選抜だったのですね」


『その通りだ。 だから聖なる水があそこまでの反応を示すとは思っておらなんだ』


戸惑ったように法王は言う。


「反応……ですか?」


『ああ、普通はあの聖なる水はそこまで反応しないしあのような黄金色になることもないのだ、キャサリン嬢の適合の儀での反応が一般的だ。 だが先代から直に聖女の継承を受けたものはあのように黄金色の水に変わるのだ、今回の見届け人は信頼できる口の堅いものを選んでおいて本当に良かったぞ……』

と法王はため息をつく。


「それはまた……しかし継承を受けたものはなにが変わるのです?」


『魔力が変質し、鍵を開けることができるようになる』


「鍵ですか?」


『ああ、エリクシールの原材料が入っている場所へいたる鍵だ』


「なっ!? そ……それはウォルセアにとって一大事ではないですか! 万が一悪用されたらとんでもないことになりかねません……それを他国の公女へ受け渡すなどとは……なんと大胆な真似をあの方々はなさったのか」


動揺するハリーテへ法王は


『大魔導士と先代聖女が、万が一真実を知ってもハリーテ公女なら大丈夫だと信用して継承させたのであろうが、せめて事前にこちらへ教えておいて欲しかったものだ……てっきり先代聖女が継承せずに亡くなったものだとばかり思っていたからな……』


その様子を申し訳なさそうに見ていたエドワードが言葉をはさむ。


「その事につきましては大魔導士に代わりお詫び申し上げます……しかし先代聖女と大魔導士が話し合い、鍵の継承者が途絶えた時の事を考えたバックアップとして密かにハリーテ様に継承させることにしたと言っておりました、何事もなかった場合でもハリーテ様にそのうち事情を話し、密かにウォルセアへ返してもらうつもりだったとも……」


『そうか……確かに法家でも鍵を継承している者は少なくなっている故に配慮には感謝せねばいかんな……では、ハリーテ公女が結婚される前までにはこちらで次代の聖女を立てるから、その聖女へ継承してやって欲しい』


「承知いたしました」


『それで、今後なのだが聖女として一つ頼まれてやってはくれぬか?』


「はい、お聞きいたします」


『実は、『ダンジョンの都』より新しい階層を発見したという知らせがきておる。 そこに冒険者が休める聖域を作り祭壇を祭ったので、その祭壇へ聖女の祈りを願いたいと依頼が来ておるのだ』


「聖女の祈りですか?」


『特別な事はしなくても良いので、普通に祈って来てくれればよい。 ただダンジョンの奥へ行かねばならんので危険があるやもしれん、そこで今回は【冒険者】としてエドワードとアドルファスへハリーテ公女の護衛を依頼したいのだ』


エドワードは驚いたように


「護衛ですか?」

と尋ねた。


『そうだ。 まぁ其方たちの事ゆえ見当はついているであろうが、ただの依頼ではない』


「そうおっしゃるという事は、ダンジョンの都でなにかあったのですね」


とハリーテは緊張した面持ちで答える。


『正直に言えば全容は全くつかめてはおらん、だがあの都でどうもただならぬ動きがあるようなのだ……ヘタをすれば戦争が起こるかもしれん。 エドワードよ、一つ其方の目で確かめてきてはくれぬか?』


「戦争とは穏やかではない話ですね……前回の大陸会議のときは特に変わった様子は見られませんでしたが……分かりました。 ならば直接現地で確かめることにいたします、ですが危険なようでしたら祭壇への祈りは中止して即引き上げますがよろしいですか?」


『当然だ、事前に即時帰還の許可は出しておこう』


と法王は頷いた。


「しかし法王聖下にすら全容がつかめないとは一体何が起きているというのですか?」


『確かな事は分からん……【神託】はいまだ降りてこぬ故大事ないのかもしれぬ……だが魔族が裏にいる気配がするのだ』


「それは……確かにただならぬ動きですね……分かりました。 お任せください」


『本来であればこちらで対処すべきなのだが、ウォルセア内にも魔族に関して詳しいものはもう多く残ってない。魔王と戦った勇者の弟子である其方達ならば我らよりは詳しいのではないかと思ってな……済まぬが頼んだぞ』


と法王は真剣なまなざしで二人を見ながら頼んだのであった……。



* * *


 ……ハリーテが退出していった部屋に残った法王とエドワードは残った問題を片づけるべく話し合っている。


「では聖下、お約束どおりこちらの品をお渡しいたします」


とエドワードは飾り気のない箱を法王へと渡した。 

法王は中身を確かめることはせず


『確かに受け取った。 大魔導士に心から感謝すると伝えてくれ』


と礼を言った。


「承知いたしました。 ……しかしお師匠様も大胆な真似をなさったものです、まさか先代聖女からレシピを聞き出してご自分で作れないか実験し成功させてしまうのですから……」


エドワードが苦笑する。


『その話を初めて聞いたときは度肝を抜かれたぞ……まさか【伝説の大聖女の残した髪】以外でもエリクシールが作れるとは……』


「つまり原材料は【大聖女の】ではなく【召喚された異世界人の毛髪】で良いのだという結論が出てしまいましたからね……この話が世に広まったらまた条約をやぶり召喚を試みるものが出かねません」


『それは主神ウォルセアも良しとしない行為だ、決して行ってはならん……』


そう厳しい顔で言い放つ法王を見ながらエドワードは


「しかし、好奇心からマサタカ師匠の毛髪でエリクシールを作り出して成功した後は、マサタカ師匠の髪を切った時にそのうち使うかもしれないと、こっそりその毛髪をすべて貯めておいたとは……」


そう言いながら何とも言えない顔で法王へ渡した箱を見るエドワード。


『大魔導士のおかげで今後もエリクシールを作り出せるのは、こちらとしてはありがたいが其方には複雑かもしれぬな……だが約束通りハリーテ公女の身の安全はできる限り保障するし婚姻に無理やり介入させるような真似も許さぬから安心して欲しい』


そういいながら深く法王は頷いた。


「はい、よろしくお願いいたします聖下」

そう言いながらエドワードは法王へ深く礼を取るのだった。


こうして紆余曲折あった聖女選抜の儀は無事幕を閉じたのであった……。

・法王様が、後半息子の尻ぬぐい以上にここまで積極的に動いてくれたのはエリクシールの原材料であるマサタカお爺ちゃんの髪の毛と交換条件だったからというのが大きいです。


二度と手に入らないと思われていた原材料ですから法王も張り切って動いてくれました。(大魔導士実は帰還前にルイス邸で切ったゴトー君の髪の毛も回収してこっそり持ってます)


エドワード達は最初からそれを利用して聖女になったハリーテの自由と安全を守る予定を立てていました。



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