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元国王さまと元宰相さまの諸国を漫遊しにいくはなし  作者: 流花@ルカ
第二章 聖女選抜の儀編

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第二の襲撃者

 あれからアドルファス一行は襲われることもなく順調にウォルセアへの道を歩んでいた。


 明日にはウォルセア国内へ入ろうかという、最後の比較的大きな街で、偽装も兼ねて街一番の豪華な宿を手配していた一行は、荷物を幻影でコーティングしたキャサリンをエドワードが浮かせて運び入れようとしていた。


 そのあまりの巨漢ぶりに入り口付近にいた、宿の従業員はギョッとしたように『荷物キャサリン』を見て、はっとしたように目をそらしそそくさと礼をしながら避けていく。


そんな様子を死んだ魚のような目になりながらエドワードは運んでいく。


宿の手続きを済ませ、従業員に先導されてロビーを通り過ぎようとした時に


「待て!キャサリン・ブサイーク!」


と後ろから呼び止めてる声が聞こえ、エドワードはどこかで聞いたような声だ……と眉を顰めた。


 面倒ごとの予感に、嫌々後ろを振り向くとやはりそこには元フィルド王太子であったフールが仁王立ちしてこちらを指さしているのが見えた。


エドワードは痛む頭を押えつつ仕方なく声をかけてやる。


「これは、廃太子にして実は王族ですらなかったフール殿ではありませんか……見たところ供の者すらお連れで無い様ですが何用ですか?」


「……むっ……貴様は元宰相エドワード! 貴様が父上を騙し我ら王族を追放したことは知っておるのだぞ! 観念してその令嬢を引き渡し縛につくがいい!」


となにやら恰好つけながらエドワードへ指を突き付けてくる。


「……は? 私がなんですって……?」

エドワードはフールの言葉を脳で理解するのを拒否した。


「とぼけてもムダだ! その方が父上に嘘を吹き込みすべての王族を追い落とし、継承権を奪い自ら王になろうとしていることは明白だ!」


と得意げに胸を張っている。


「貴方があの大司教になにを吹き込まれたのかは知りませんが、今の自分の立場を全く理解していない事だけは分かりましたよ……」


 怒りも一周回って呆れに変わるほど、愚かな発言しかしないフールを眺めながらエドワードは、フールが自分に向かって突き付けている指をガシッと掴み、そのまま電撃麻痺の魔法を叩き込むのだった。



* * *


 気絶から意識が戻ってきたフールは、目の前に父である元王アドルファスが不機嫌そうに来客用の椅子に片膝を立てて腿に肘を置き腕で顔を固定しながら自分を見ているのが見えた。


「陛下……いえ、父上!お久しぶりでございます。 私です息子のフールでございます!」


その言葉にも無言でじっとフールを眺めているアドルファス。


「ちちうえ……?」


「……それだけどよ」


「えっ?」


「俺はなんで赤の他人に父親呼ばわりされないといけねぇんだ? そもそもテメェの父親はあの大司教のハゲじゃねぇか、なんにも教えてもらってねぇのかよ」


とアドルファスは無表情でフールを見ながら答えた。


「父上、何をおっしゃるのですか?」


「だからテメェの父親は俺じゃねぇよ、大体俺はテメェの母親にすら直接会ったことはねぇ。 テメェは神殿であの大司教に母親が授けてもらった種で出来た子供なんだよ。 だからそもそも王族ですらねぇんだ」


「そんな……嘘です! 大司教は私にすべて元宰相が仕組んだ事だと教えてくれました! 父上!どうか目を覚ましてください!」


と、縛られたまま叫びもがいている。


「なぁ……もういいんじゃねぇか……話が通じない奴にこうしてるだけ時間の無駄じゃねぇか」


うんざりしたようにアドルファスがフールの後ろに無言で立っているエドワードへ問いかける。


「そうですね……ただこの先どうなるかだけは最後の情けで、アンタがキチンと教えてやるべきだと思いますよ」


「元宰相ごときが軽々しく口出しをするな!」


とエドワードに吠え掛かるフールに


「うるせぇよ」


アドルファスがフールの胴体へ軽い蹴りを入れる。


「ゲフッ!……ゥウウ」


とつぶれた小動物のような声を上げのたうつ。


「しょうがねぇ、どうせもう二度と会うこともねぇだろう。 教えてやるよ、テメェはこの後フィルドへ送還されて正式な裁判を受けることになる」


「ゲッ……ゲホッゲホッ……さいばん……?」


「あぁ、罪状は大司教のハゲに加担した内乱幇助と王族の詐称、ついでに継承権保持者に対する不敬罪もつけとくかぁエド?」


「いりませんよ馬鹿馬鹿しい」


「まぁテメェはどう足掻いても処刑される。 これは国の決定だ」


冷たく射貫くような目でフールを見ながら断言するアドルファス。


「そんな……うそだ……なぜ……」


本気を悟ったフールはガクガクと震えながらブツブツとなにか呟いている。


「廃太子にした上で平民に落としただけのありがたーい温情をかけてやったのによ……いくら実の父親とはいえ、勝手に国離れて他国の大司教の手駒になられちゃかばい様がねぇ、処刑の日にちが決まるまで精々短い命を楽しむんだな」


アドルファスは無言でエドワードを眺め、エドワードは心得たようにフールを眠らせる。


「大人しくしてりゃあ無駄に死なずに済んだのによ……」


フールの眠っている顔を見ながら何の表情も浮かべることもなくアドルファスは呟いた。


 そのまま二人は騎士に見張りを任せて部屋を出てアドルファスは無言で宿を出ていき、エドワードはルイスの所へむかった。


「追っ手……というのか迎えといえばいいのか……そういう者の気配は?」


ルイスへエドワードが訪ねると


「エドが捕まえたときはあったが、今はもう付近からは完全に消えたようだ」


「なるほど……恐らくあのフールが指示役だったんでしょうが、先走ったせいで捕まった為に新たに指示を仰ぎに戻ったのでしょうね」


「今夜仕掛けてくると思うか?」


ルイスは真剣な表情でエドワードへ問いかけるがエドワードは黙って首を振る。


「そうか……アドはどこへ?」


「さぁ……。まぁ、放っておきましょう」


エドワードも思うところがあるのか言葉少なにルイスへと答えた。


「できるだけ早くフールをフィルドへ送っていただけますか?」


「あぁ、取り返しに来られても面倒だからな。 任せておけ」


「よろしくお願いしますね」



……こうして第二の襲撃とも呼べないものは終わりを告げたのであった。




・フールが目覚めるまで、嫌がった二人がどっちが話をきくかでお互いに押し付け合って揉め、あまりのしょうもなさに呆れ果てたルイスに二人とも放り込まれたためにエドも部屋にいました。


その辺も少し書いたのですが流石に要らないかなと割愛しました。

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