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元国王さまと元宰相さまの諸国を漫遊しにいくはなし  作者: 流花@ルカ
第二章 聖女選抜の儀編

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真相の裏側

 ウォルターが退出していったドアを見ながらエドワードは考えていた、キャサリン嬢達へ、あまり情報を与えすぎても本人たちの為にならない。

今のところは、表向きの理由に納得してもらって聖女選抜戦へ挑んでもらえばいいだろうと。


 そんな事をつらつらと考えているとノックもなしにいきなりドアが開いた。相変わらず粗野な仕草にもかかわらず物音ひとつ立てずに入ってくるアドルファスに


「一応ノックくらいはしましょうよ、まったく……」


と呆れた表情で、用意していた酒とつまみをテーブルに乗せていく。


「で、執事の坊やは上手く言いくるめたのか?」


ソファにドッカリと腰かけたアドルファスは、さっそく注がれた酒のグラスを手にしてグビグビと飲み始めた。


「相変わらず人聞きの悪いことを……現状教えられる表面的なお話はいたしましたよ」


と嫌そうな顔でグラスに手を伸ばした。


「で、ご令嬢の出発は騎士付けて先にいかせんだろ?」


「ええ、キャサリン嬢の様変わりは向こうには知られておりませんので密かに送り出します」


「俺たちはいつ出るんだ?」


「彼女の元の体格の影武者は流石に用意できませんから、布をかぶせた荷物で代用することにしたので、キャサリン嬢たちが出発した3日後に出ましょう」


「ああ、分かった」


「ところで、()()()はあったんですか? まさかあの何だかわからない養成ギブスとやらを取りに行っただけなんてことはないでしょうね」


とじとりとアドルファスを見る。


「テメェ、俺を何だと思ってんだよ……子供の使いじゃあるまいし、いつだってちゃんとやるべき事はやって来ただろうが」


と、不機嫌そうに言いながらゴソゴソと取り出した何かをぽいっとエドワードへ放り投げた。


「バッ……バカじゃないんですかもう! 割れたらどうするんですか!」


慌てて受け止めたエドワードが投げられた小瓶を割れてないか確かめている。


「これ、間違いなく本物なんですか?」

と、美しい薄青色の小瓶をしげしげと眺めた。


「自称大魔導士の婆さんがそうだっていうんだから本物なんだろうよ。 状態保存の魔法も完璧だそうだ」


「あぁ、お師匠様がそうおっしゃるなら間違いないですね」


とあっさり信じるエドワード。


「テメェあのババアの事信用しすぎじゃねぇのか? あんな喰えねぇババアのどこに信用する要素があんだよ?」


と不機嫌にガブガブとグラスの酒を飲み干し乱暴につぎ足していく。


「何を言ってるんですか、勇者マサタカの生涯の伴侶であり名を秘したる大魔導士として魔王討伐に赴いたお師匠様ですよ? 正直アンタよりよほど信頼度が上に決まっているではありませんか」


と、自慢そうな顔で言うエドワード。


「テメェは弟子だから可愛がられたんだろうがよ、俺なんかマサタカのジジイと一緒にあのババアにどれだけ追い回されたことか……」


「それは自分たちが悪いんでしょうが、二人してしょうもない事ばっかりやって師匠を怒らせてたんですから」


とエドワードは肩をすくめる。


「まぁそんな昔話はともかくとして、なんでブサイーク侯爵はこんな物もってたんですか?」


「昔マサタカのジジイに貰ったらしいぜ『これで奥さんの病気治してやれ』ってな」


とエドワードの手に持っている小瓶をじっと見つめるアドルファス。


「マサタカ師匠と侯爵ってお知り合いだったのですか!?」


意外な交友関係にちょっと驚いたエドワード


「あぁ……侯爵の父親が魔王討伐の時に、危険も顧みずに自らマサタカのジジイの後方支援に当たってたって縁があったとかでな、婆さんも覚えてたぜ」


「なるほどそれで……しかしそれならなぜ奥様に使って差し上げなかったんでしょうか?」


「それがなぁ……あの侯爵の奥方が拒否したんだとよ」


と真顔でグラスを見ながら話すアドルファス。


「一体どうして……」


「あのキャサリン嬢な、今でこそあんなだが生まれた時はいつ死んでもおかしくないほどめちゃくちゃ虚弱な子供だったらしいぜ。 しょっちゅうその看病に明け暮れてた奥方は、『いつかこれがあの子に必要になるときが来るかもしれないからその時は頼む』って、侯爵がどんだけ泣いて頼んでも頑としてこいつを拒否してそのまま逝っちまったんだとよ」


「それは……私たちがキャサリン嬢には聞かせていい話ではないですね……」


しんみりした空気があたりに漂い、二人はしばし無言で酒を飲んだ。


「とにかく、そんなわけでずっと侯爵の手元にあった()()をなんでウォルセアは嗅ぎつけたんだ?」


と、アドルファスは空気を変えるようにエドワードへ問いかける。


エドワードは微妙な顔で


「犯人は侯爵本人ですよ、ほら何年か前に()()で今は放逐した元王太子(ばかおうじ)の『成人の儀』を祝う式典やったじゃないですか」


「あぁ、そういえばあいつら今何やってんだ?」


「……王族から平民になって、財産も没収し放逐された後に『自称王妃』が城へ無理やり入ろうと押しかけて問答になり、結局門番に切り捨てられたそうですよ。 それ以外にも街中で『自称王族』が歩いている人から金銭を奪い取ろうとしたり食い逃げを働いたりもあったようですが、騎士団の警備の手を広げさせておいたので大きな問題は起きなかったようです」


その言葉を聞いてアドルファスは唖然として


「まさかとは思ってたがあいつら本気で馬鹿だったんだな……」


とポツリとこぼしたが


「何を言ってるんですか、あいつらの馬鹿さは嫌というほどわかっていた事でしょうに」


とエドワードが呆れる


「いやだけどよ、自分から自殺しに行くとか普通おもわねぇだろ?」


「まぁそれはそうですけどね、それでアンタの元息子なんですけど」


「だから俺の子じゃねぇって言ってんだろうが」


「今ウォルセアにいるみたいですよ」


「はっ? どういうことだよ、監視はなにやってたんだ」


とギラリと目を光らせるアドルファス


「どうやら私たちがエルピスへ赴いている間に監視が緩んでいたようで、そこを突かれたようです」


と、忌々し気に話すエドワード


「しかも、どうも王宮の暗部に買収された者がいたようなのですよ。 これは王が処分したようなのですが嘘の報告で監視が緩んだ隙を狙われたと連絡が入りました」


「まぁやっちまったもんはしょうがねぇ……で、侯爵はなにやらかしたんだ?」


渋い顔でアドルファスは続きを促した。


「成人の儀が終わった後のパーティーで、元王太子(ばかおうじ)侯爵の娘(キャサリン嬢)を社交辞令で軽く褒めたら調子に乗ってポロっと喋ってしまったらしいんですよ『娘を嫁に出すときはエリクシール薬を持たせてやる』と、まぁ元王太子(ばかおうじ)は本気にしなかったようなんですが()()がその話を聞いてなにやら企んだようですね」


「ほう……アイツの親父誰だかわかったのかよ」


「ええ、ウォルセアの新大司教様でしたよ」


「まじかよ……完全にゴミ掃除の後始末しそこなってるじゃねぇか……よりによってフィルドに赴任してた元神殿長かよ……あのハゲ碌な事しねぇとは思ってたが本気で消しておくべきだったな」


ギリギリと音を立てるグラスに


「壊れるからグラスにあたらないでくださいよ、アンタが掃除するわけじゃないんだし……」


と嫌そうな顔で酒をチビチビ飲むエドワード。


「で、あのハゲなに企んでるんだ?」


「あの新大司教、キャサリン嬢を拉致して侯爵を脅してエリクシールを奪う算段をしているみたいなんですよ」


「どういうこったよ?」


「ウォルセアの中枢にはいても『エリクシールの製法を知らない程度の有象無象たちにとっては』喉から手が出るほど欲しいものでしょう? キャサリン嬢の身柄は確保しておけば候補の1人は脱落させられる、それと同時にエリクシール薬を餌にやつらは、自分の推す聖女候補をごり押しして勝たせる。そんな計画を立てたようですねぇ……賢老会に踊らされてるとも知らずご苦労なことです」


「ふーん……まぁなんとなくは分かったけどよ? じゃあ、あのハゲの息子呼び寄せた理由ってなんなんだよ」


「あれでも顔だけはいいですから、手駒として聖女候補を篭絡させるなり上手く転がす要員にでもつかうんじゃないですかね?」


「篭絡とか、そんな大層な技術もってるとは思えねぇんだけどよ……」


「まぁ私も確信があるわけではありませんが、妻帯が許されていない立場ですし公に出来ないにしても自分の息子に何かしてやりたい思いがあった可能性もまぁ……妻帯してても会いに行きもしなかったアンタには分からない感情でしょうがね」


とエドワードは肩をすくめた。


「ウルセェ! ゴミと結託して王宮を好きにしようとしてたやつらの手先の女に手なんか出せる訳ねぇだろうが」


と不機嫌にグラスの酒を一気にあおるアドルファスであった。



最後はやっぱりしまらないアドルファスなのでしたw

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