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元国王さまと元宰相さまの諸国を漫遊しにいくはなし  作者: 流花@ルカ
第一章 召喚勇者編

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彼方への希望

「なぜだ……なぜ何もかも上手くいかん…」


グサークは自室のベッドへ腰かけ深く項垂れもう何も考えられてくなった。

するとガチャガチャと騒がしい音があたりに響き渡り、グサークの私室の扉が乱暴に開け放たれた。


「ショカンシタ王グサーク……もう貴様に逃げる場所などない、おとなしく捕縛されるがいい」


と言いながら部下ともに部屋へ入ってきたルイス。


「なっ!? お前はフィルド騎士団長ルイス! なぜお前がここにいるのだ!」


驚いたグサークは立ち上がり詰め寄ろうとしたが、ルイスの指示により兵士に拘束され膝をつかされる。


「ショカンシタ王グサーク!第一級条約違反、および召喚勇者ゴトーへ真名の強制奪取を試み、あまつさえそれに失敗したからと事実を隠蔽するために旅先で殺害しようとした事実により、緊急条約会議で貴様を拘束するようにと満場一致で結論が出た。」


その言葉を聞いたグサークは震え声で


「し、証拠がないではないか、ゴトーなどという者は私は知らんぞ!」


と、言い募ろうとしたが


「テメェと違って、証拠もなしにノコノコ訪ねてくるようなおめでたい頭の人間はここにはいねぇよ、グサーク」


とズカズカと足音を立ててアドルファスが部屋へと入ってくる。


「フィルド王アドルファス! これは何のマネですかな!」


「……あぁ、この程度の他国が公式発表した情報すら知らないとは()()()()()のようですなぁグサーク王」


と侮蔑とも哀れみともつかない表情でアドルファスが答える。


「俺はもう王様は辞めちまったんでな、今はフィルド王国全権大使アドルファス様だよ」


とニヤリと笑う


「しかし大した器でもねぇくせに随分と大それた真似したじゃねぇかよグサーク」


「私は何も知らぬ!すべて家臣どもが勝手にやったことだ……」


アドルファスは心底バカにしたように


「テメェが知ってようが知らなかろうがどうでもいいんだよ、まぁ証拠は暗部の女がかき集めてやがったから書面と共に会議で提出済みだがよ」


「……。」


「とりあえずこのショカンシタ王国はもうテメェの国じゃなくなった、王様じゃなくなったモン同士仲良くしようじゃねぇかなぁグサーク」


「…どういうことだ、この国の国政に口をだすなどお前になんの権限があるというのだ」


とアドルファスを睨みつけた。


「さっきルイスが説明しただろうがよ、その若さでボケちまったのかぁ?」


「いくら条約会議で決定されたからといって他国を蹂躙するようなことが許されるはずがないではないか!」


と叫ぶグサーク、だがアドルファスは


「あぁそのことだがよ、この国はもうショカンシタっていう名前じゃなくなったんだよ」


「はっ? なにをいっておるのだ?」


「この国は新しい王の発令によって名前が変わったんだよ」


とニヤリと笑う。


「民衆の支持を受けて、新王オズワルドを擁する新しい国家が樹立されたんだよ。 そして条約会議において満場一致で国家として認められたのさ」


「民の支持だと……そんなもので勝手に国を作ったというのか!」

と、グサークは叫ぶ。


「民衆どころか家臣の支持すら自分で得られないテメェには分からねぇだろうなぁ可哀想なグサーク君よぉ」


馬鹿にされたグサークは怒りのままにアドルファスを睨みつけるがアドルファスは構わず


「無能なら無能らしく黙って古参の家臣の言う事聞いてりゃ良かったものを……息子可愛さに、無能と知りつつあらゆる手を尽くしてテメェに王位を継がせた前王もバカな真似をしてくれたもんだ……グサーク、テメェが処刑した宰相や前騎士団長アドルが前国王に『息子が道を誤らないようにくれぐれも頼む』って何度も頭下げられたって話してくれてたぜ」


少し遠い目をしてアドルファスが語った。


「そんな…父上は私にそんなことは一言も……」


「そりゃあ可愛い息子に『お前は無能だし、まともに王様やれなそうだから家臣に国政まかせることにする』なーんて言えるわけねぇだろうがよ」


と、またバカにしたようにニヤつく。


 様々な事が一気に起こりガリガリと気力が削られていた所にその一言である、もはやグサークは抵抗するどころか虚ろな目をして茫然となにやらブツブツと呟いている。


「かわいそうになぁグサーク、だがテメェがやった事から逃げられると思うなよ……これから死ぬよりつらい地獄の日々が待ってるんだからなぁ……気が狂うことも死ぬこともできずに償いの日々を送ってくれや」


真顔でグサークにそう告げたアドルファスは、傍で黙って横にいたルイスへ目で合図を送る。


「連行しろ!」


とルイスが兵士へ指示を出し、連れていかれるグサークの背中へとルイスが一言


「貴様が消し去った人々の命の重さをその身で知るがいい」


と怒りを抑えて言い放つのだった。


……兵士達が出て行った部屋にアドルファスとルイスは二人だけで残っていた。


「グサークの処分はもう決まっているのか?」


とアドルファスへ問うルイス


「ああ、あいつは犯罪奴隷として生きて行ってもらう」


「奴隷か……あんな貧弱な者、すぐ死んでしまうのではないのか?」


「そこは生かさず殺さずさ、徹底した管理で長く人生楽しんでもらおうじゃねぇか」


「しかしそれだけでは民は納得しないのではないか?」


「かもなぁ……だからそこにオマケもつけることにした」


「オマケ?」


「あぁ、真名を強制奪取してあいつの額になにかで隠そうとしても、光って浮き上がる魔法処理で刻み込んでやろうと思ってるぜ」


「なっ……それでは万人に自分の真名を知られてしまうではないか」


「あぁ、見られたら最後誰にも逆らえなくなるなぁ」

クックックッと楽しそうにアドルファスは笑っている。


「これでたとえ奴隷から逃げ出して街へ出たとしても地獄だし、真名が知られまくってる愚王では神輿にショカンシタ再興もできんだろ?」


「なるほど……」


「生かさず殺さず真綿で首を締めるほうが死ぬよりつらい……だから憎しみを捨てろとは言わねぇがあんな野郎のことでいつまでも後ろ向いてるより未来に希望もっていこうや」


とルイスの肩をポンポンと軽く叩く、ルイスは見透かされていたのが少し恥ずかしく思ったが素知らぬ振りをして


「希望か……だからこの国の名をエルピスと名付けたのか」


「あぁ、昔ジジイが教えてくれた異世界の神話を思い出してな……」


「確か神から決して開けてはいけない箱を貰った女性の話だったな、好奇心に負けて箱を開けたらありとあらゆる災厄が飛び出してきたと」


「そうだ、そして最後に残ったたった一つのものが希望(エルピス)だってな、この国にふさわしいだろ?」


「ああ……そうだな良い名前だ」


と、ルイスは微笑んだ。




・Elpis - ギリシャ語で「希望」、もしくはギリシャ神話の希望の神の名前です。詳しくは『パンドラの箱』で調べていただけると分かりやすいと思われます。

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