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追放された勇者ですが、婚約者である聖女様は俺が嫌い

作者: 八瀬ドージ

「なんで婚約なんてしないといけないのか、分かりませんわ!」

 聖女クララは顔を真っ赤にして声を荒げた。



「悪かったな。」

 勇者シュティルは、もう何度目になるかわからないやりとりにウンザリしていた。



 ◇◇◇◇◇◇


 隣国との国境近くの辺境の地に住み着き、周辺の村に被害を出した、暗黒龍。サリデン国王の勅命で討伐の旅に出た勇者パーティーが無事勝利して凱旋したのはほんの数日前のことだった。


 勇者がサリデン国に到着するやいなや、隣の大国エルリーエから、

「暗黒龍はうちの国では古くから伝わる守護神だったのだ。

 殺さずとも無力化して国に連れ帰れたものを、どうしてくれる。」と言いがかりをつけられた。

 国境ギリギリだったんだからウチに連絡してくれても良かったんじゃない?被害があった村には弁償するから、殺した暗黒龍の分ウチにも弁償しろよ!とごねられたのだ。


 お金はある大国なのに勇者がいないので、サリデン国に嫉妬して何かと言いがかりをつけて嫌がらせをしてくるのだった。



 今まではそんなの気にしなーいと適当に対応していたサリデン国王だったが、最近重用している相談役の占星術士が


「暗黒龍の呪いです!このままではエルリーエが攻め入ってくるでしょう。いえ、勇者がいればこの国にそれどころではない大いなる災いが起きるでしょう。」

 なんて言ったので


「勇者をこの国から追放する!」

 と宣言した。


 王城のあらゆるところには、邪気を払い運気を上げるパワーストーンがこれでもかと飾られている。全て相談役の言う通りにすれば問題ない。王はもう占星術士の傀儡であった。




 あれよあれよと言う間に、世論は


「脳筋勇者が暗黒龍を短慮にも殺したせいで、龍の呪いが降りかかり隣国が攻めてくる。この国を思うなら、勇者は出ていくべきだ!」


 となってしまった。





 勇者パーティーは、〈殺しても死なない〉最強勇者シュティル、〈聖なる狂犬〉の聖女クララ、〈全知の変態〉の魔術士カインで構成されている。


 勇者に直接ケンカを売るものはいなかったが、無理やり国に残ったところで、普通に暮らしていけるような雰囲気ではない。それに、守るべき国民に疎まれるのはキツかった。



 勇者はサリデン国を去ることにした。



 占星術士の言いなりである王は隣国エルリーエに、

「諸悪の根源である勇者を追放したのでそれに免じてまた仲良くしてくださいよ(揉み手)」

 と言ったとか。








 持ち出せたのは馬1頭と、装備していた武器防具、旅の道具一式。討伐から戻ったばかりの荷物をほぼそのまま持ってきた。路銀は最低限あるが、勇者がサリデン国で働いてきた分の報酬(未払い分多し)と持っていた財産は没収された。



 魔術士カインは早々に、異国における性的欲求についての研究を進める旅に出てしまい別行動だ。彼の口癖は


「全知なんて二つ名は過分だよ。僕にはわからない事がたくさんあるよ、そう女体の神秘とかネ。」だった。




 この国の王女でもあったクララは、悪に染まった勇者を見張り、正しい道に戻すようにという建前上の使命を与えられた。

 ゆくゆくは勇者と婚姻を結び、次代の勇者をこっそり育てて有事の際には国に戻れとも言われた。



「私は道具じゃありませんわ!こういう事は気持ちが大事ですわよね!」


 耳まで赤く染めて、クララが怒っている。


「馬上であまり大声を出さないで欲しい。」


 勇者は少しかがんで、自分の腕の中にいるクララの耳元で囁いた。


「ふみゃっ!」


 クララが目を回した。


「あぁ、悪かったな。」


 クララは勇者の声を耳元で聞くと、失神する程ゾクゾクと寒気がするらしいのだ。だからやめてくれと言われていたのに、また怒られてしまうな。失神したクララを優しく抱きかかえながら、勇者はため息をついた。



 クララは男装をして馬にまたがるところまでは頑張ったのだが、今までは馬車での移動が多かったのでどうにも危なっかしかった。嫌がられると思いためらっていたが、結局勇者が一緒に乗ることになったのだった。


 クララの後ろに密着して座り、腕を回し手綱を取ると、


「はひゃわわ。」


 と言葉にならない苦情を言われた。それからずっと耳まで赤く染めてご立腹のようなのだ。



 勇者は複雑な面持ちだった。本来は王女として聖女としてちやほや大切にされて生きていけたはずのクララに対して、巻き込んでしまった負い目と、自分を追放したあの王の娘であるのだという逆恨みのような気持ちもある。

 しかしそれ以上に、旅の仲間としての情があった。

 聖なる狂犬なんて二つ名はあるが、誰も怪我をしなければバーサク状態にならないし、基本的に弱い者には優しいし悪いやつではない。そしてとても可愛い。身内(パーティー)のひいき目ではなく、皆に好かれる愛らしい少女だ。

 勇者だって、初めて会った時から聖女を好ましく思っている。ただ、勇者に対して不快感があるのか常に向こうが怒ってばかりいるのだ。


 田舎者の勇者の立ち振舞いが気に入らないのか、生理的に受け付けないのか分からないのだが。



 こんな気にくわない男と婚約させられるなんて、かわいそうに。勇者はクララに同情していた。


 実は勇者は、追放される直前にカインにこっそりとクララの事を相談していた。


「俺が旅立ってすぐ死んだことにしてどうにか国に戻してやれないか。」


「殺しても死なない勇者が死んだって?無理でショ。」


「クララが望むなら、正体を隠して彼女だけでも他の国で暮らせるように手配してもらえないか?」


「狂犬が望むことは、お前と一緒にお前が望む道を進むことでショ。お前ってほんとアホだよネ。」


「俺は学がない田舎者だ。アホアホ言うなよ。」


「アホだもん、仕方ないよネ。」


 結局、まずはどこかに定住してひっそり暮らしているアピールをすること。その間にカインが何か案を考えておくということになった。

「自分の研究の合間の暇な時にネ!」

 とは言っていたが。



 ◇◇◇◇◇


 暗黒龍がいた場所とは反対側の国境の砦を抜け、隣国コティッスへ入る。山を越えて、大森林を抜けた先の小さな村ロクシシ。


 フードを被った怪しい男と、とても愛らしい少女は、ある日突然村に挨拶をしにきて、村からさらに森の奥に小さな小屋を建てて暮らし始めた。


 時折ちょっとした雑貨の買い物をしに、二人は村に降りてくる。少女は誰にでも優しく、人気者だった。村の若い男が少女に話しかけているときは、付き添っているフードの男が不機嫌そうなのが恐ろしかったが。


 彼らが住み着いてしばらくした頃。サリデン国が大国エルリーエに突然戦争をしかけ、すぐ降伏したと噂が流れてきた。サリデン国王は自分の国の臣下に処刑されたらしい。

 それを聞いても、クララにショックを受けた様子はなかった。

「私は養子でしたの。聖女の資質があったので無理やり養子にされたのですわ。ずっと道具扱いでしたから、これで解放されるという思いですわ。」


 サリデン国の状況について詳しいことまではわからなかったが、もう王命は無視して良いのではないだろうか?


 シュティルは、クララにどうしたいかを聞いた。


 クララは、シュティルにどうしたいかと聞き返した。


「もう俺のことを気にする必要はないんだ。嫌いな俺に囚われず、自由にしていいんだぞ。」


「ほんっとティルはバカですわね、バカバカバカ!大っ嫌い!私ははじめから好きなように自由にしていますわ。」


「そうか。俺の望みは、俺の事を嫌いなクララとずっと一緒にいることだ。」


「わかりましたわ。貴方のことを嫌いな私とならずっと一緒にいて下さるのですね!」


 何か間違った気がしたが、シュティルはクララと結婚することにした。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 毎日クララは、シュティルにおはようのキスをしながら

「大嫌いなあなた、起きて下さいまし。」

 と囁く。


聖女編を書けたら、いつか。

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