三大国会議
――それは災厄を告げる鐘の音。
けたたましきアラート音。
神代から鳴ることがなく、古文書にのみ記されているその音が、『王国』『帝国』『合酋国』――
この世界を分割する三つの国家、それぞれの首都に、同時に鳴り響いた。
これを受けて三大国は数十年ぶりに中立地に集まり、会議を行うこととなる。
なにせそのアラート音は、『世界を滅亡の危機に追いやる超越存在が目覚めた時に鳴り響く』とされているのだ。
国家間にいかような関係性があろうとも、世界のためには力を合わせねばならない。
「神話時代の『災厄を告げる鐘』が鳴ったからなんだというのだ。そんなはるか昔のもの、故障しているに決まっている! だいたい――実際に来たところでなんだ!? 古代のかびのはえた脅威など、我が帝国が討ち滅ぼしてくれるわ!」
沼沢地の中央にあるのは、あたりの景色に見合わぬ、つややかな光沢を放つ石でできた円卓だ。
その北側に座る『将軍』が、傲然と言い放つ。
大柄な肉体に、戦でも始めるのかというような漆黒の全身鎧を身につけている。
円卓に着けども大剣は手放すことなく、なにかあればすぐさま卓を叩き斬ると言わんばかりに肩にかつがれていた。
燃えるような赤毛の彼こそは『帝国』の将軍にして――帝王。
『もっとも優れた武力を持つ者が統べる』という伝統を持つ帝国に君臨する、『炎武帝』アダルブレヒトであった。
「そう『いきり』なさるな、帝国の。……傲慢ですよ。我らはまだ、神にいたっていないのです。その神の世から来た脅威。油断することはならぬでしょう」
円卓の南西に座る、年若い優男が、メガネの位置を直しながら穏やかに言う。
彼こそは『神聖王国』の最大司宰、チェーザレ――宗教によりおさめられる王国の、実質的な最高権力者である。
「そうとも。儂らは平穏なる暮らしを望む。……しかし、その暮らしを乱す者あらば、全力でこれにあらがわねばならぬ。各国の『神代からの脅威』に対する対応を報告しあうことは、世界の今後を決めるために重要であろうよ」
円卓の南東で、杖を椅子に立てかけた、小柄な老人がささやく。
その人物こそ様々な種族を統べる合酋国大総統シルバヌスだった。
三国の首脳が集まっている。
……そして会議をしている沼沢地、円卓から離れた場所には、それぞれの国家が誇る軍隊が控えていた。
神聖王国の司宰のそばには、まだ幼い少年が――国王がいるが、それ以外には、三人のほかにここでの会議を聞こえる位置にいる者はいない。
それゆえに、ここは首脳の『本音』を話し合う場所とされていた。
「ジジイと青臭い学者小僧は、どうにも古代の脅威が怖ろしいと見える。くだらん! ……いいか、覚えておけよ。貴様らは、有益だから攻め滅ぼさぬだけのこと。この三大国会議に俺が出てやっているだけで最大限の譲歩なのだ。これ以上の要求を俺にしようというなら、その首を今ここで叩き斬るぞ!」
「まあまあ、帝国の。牙を剥く相手を間違っていますよ。……見なさい。あなたが獣のように咆えるものですから、私の陛下が怖がってしまっているではありませんか。神より王権を授かりし我が陛下への『暴力』は、たとえ言葉だけのものであろうとも許せませんよ」
帝国と王国のあいだで、不穏な空気が流れ始める。
それを見て、合酋国大総統が笑う。
「ほっほっほ。……じゃれ合うのは、そのぐらいで。しかし、その様子では、各々答えが出ているようですな。会議は必要ないと見た。……では、儂らの『古代の脅威』への対策から最初にお伝えいたしましょうか。我らは合酋国は『静観』いたします。儂らは、穏やかな暮らしさえ守れれば――相手が攻め込まぬ限りは、争いなどという愚かなことは、したくありませんのでな」
「帝国も静観だ。……そもそも、本当に『神代の脅威』など実在するとは思えぬ。存在を信じるのも馬鹿馬鹿しい。それに、そのような古くさいもの、攻められてから対応したところで、我が帝国ならばなんの問題もないわ」
「では、攻めるのは我らだけですね」
最大司宰チェーザレが微笑む。
そばの幼い国王を抱き寄せ――
「陛下はこうおっしゃっております。『神代に、神と敵対した脅威。これを放置しては神聖王国の名に恥じる』と。なにせ、王とは神からその権利を賜った存在なのですから、神の敵を放置するわけがございません。ねえ、陛下」
幼い国王は、無表情でうなずいた。
それを見て他二国の主は嘲るような、あるいは哀れむような顔をする。
会議は終わり、結論はくだった。
神聖王国が『災いの鐘』――
――『古代竜』出現を全プレイヤーに報せるための専用BGMの鳴った原因、すなわち『古代竜』討伐に乗り出そうとしていた。
一方、専用BGMを鳴らした原因は――
◆
「エルダードラゴンってどんなんだっけ……くそ、画像見ながらいじれればなあ」
外界の時間と切り離された空間で、キャラメイクの仕上げなどしていた。