クールなキャラが周囲からクールと思われるとは限りません
「……お姿が一瞬で変わった!?」
――意識が世界に帰還する。
彼は低くなった視線で、正面に立つ五人の美しい少女たちをながめた。
視線をおろす。
腕がある。人の、腕が。
脚がある。人の、脚が。
顔をさわる。
飾り気のない顔立ち。ヒゲはなく、骨格はやや丸みがあるか。
髪は襟足程度。
前髪はおろしてある。
色は黒。
目も、黒い。
顔立ち自体は――『中性的』にしてあるはずだ。
ゲームを始めて、男になろうか、女になろうか、決めかねていた。
無限と言える自由度に、ゲームを始めたばかりの彼は、翻弄されていたのだ。
なんでもできるということは、なにをするか自分で決めなければならないということだ。
だけれど彼は、なんとなく始めた――のちにキャラメイクガチ勢になるなどとは思わずに。
だから彼は、個性を消した顔立ちを作製した。
『キャラメイキングのテンプレート』などという親切な、当然あるべきものさえないゲームだったから、自分の思う『男でも女でもないキャラクター』をいちから作製しなければならなかったのだ。
有志が作った『メイキング表』はあったけれど、それに頼る気はなかった。
そうして、彼が一生懸命考え、いちから、まだパーツの少ない時に作ったこの中性的な少年が、彼の最初のアバターとなったのだ。
その名は。
「……僕は、『ゼロ』だ」
――キャラメイキングデータのセーブスロットは、なぜか『1』ではなく『0』から始まる。
だから、ゼロ。
一生懸命作るうちに、すっかり『自分だけの自分』を作る喜びに目覚めた彼は、他にもキャラをメイキングするつもりでいた。
その際に『いちいち名前を考えるのはめんどくさいな』と思った彼は、セーブスロットの番号をそのまま名前としたのだ。
のちに喜んで『いちいち名前を考える』ようになるとは知らず……
そうだ、彼には『素養』があった。
なぜならば、初めてのキャラを作ったその時、すでに『キャラごとに違った名前を考える』という決定は無意識のうちになされていたのだから。
「一瞬でお姿を変えるだなんて、さすがは『竜の化身』です!」
黄金の精霊が感涙しながら言う(よく泣く)。
彼はまた新たな発見をする――どうやら、キャラメイキング空間で費やした時間は、この世界においては『なかったこと』になるらしい。
……ただ、彼自身の疲弊は『なかったこと』にはならないようだ。
向こうで寝オチとかしないようにしなければいけない。
「かわいらしい!」
「健気そう!」
「守ってあげたい!」
精霊たちには、ドラゴンの姿よりうけがいい。
ただ、彼はゼロを『クールで斜に構えた言動をとる謎めいた少年』と設定している。
着ている黒いコートや、指出しグローブなんかも、『クールで謎めいた』雰囲気を出したくて身につけさせたものだ。
だから『かわいらしい』とか言われると、ちょっと違う感じがする。
しかし、ここで『いや、僕はクールなんだ。かわいらしいという表現はやめてもらおう』とか言うのも、クールから遠ざかる感じがして、言えない。
彼は悩み――
「かわいらしい……か。フッ。僕の本気を見てもそんなことが言えるかな?」
――視線をうつむけ、口の端をわずかに笑ませた。
クールだ。
しかし精霊たちはぽかんとしていた。
どうやら、ゼロのクールさは、少々理解が難しいもののようだった。
「ともあれ――僕の姿は一つではない。そのことを君たちにもわかってもらいたくてね」
「理解しました、竜の化身、ゼロ様! ご尊名をうかがえて嬉しいです!」
「違う。ゼロは名前の一つで、僕の名前は他にもある……」
「え、えっと……はい!」
「……まあ、おいおいわかればいいさ。……どうせ僕は、人から理解されないからね」
クールに言い放った。
精霊は対応に困っていた。