キャラメイクのあの謎空間なんなの?
宇宙かと思うような場所に、彼の意識は投げ出されていた。
そう、ここは慣れ親しんだ『キャラメイク空間』なのである。
彼の視線の先――斜め上から見下ろすような視線の先には、『古代竜』の姿があった。
あらためて見ると、なかなかいい出来だ。
しかし、まだ途中――首の長さとか、目の位置とか、そういう微調整がまだまだ行われている最中なのであった。
(……今、本気でいじり始めたら、たぶんまずい)
『引っ越しのために荷物整理をしていて、アルバムを見つけてしまったら?』
今エルダードラゴンのキャラクターメイキングの仕上げを開始するのは、ようするにそういうことなので、彼はいじりたい気持ちを必死におさえる。
視線を動かせば、空間が『ぐるり』と移動する――ゲームそのままに。
そして次に彼の正面に現れたのは、今まで彼が作り込み、セーブしたキャラクターのメイキングデータたちだった。
色々ある。
男キャラがいて、女キャラがいる。
サイズの小さな動物もいたし、最大サイズに挑戦した時の巨大生物もいる。
本当に幅が広い。
まあ、サイズが小さなキャラで剣などを振ると、剣が浮いてしまってサイコキネシスで操ってしまっているみたいになるので、小さいキャラは主に観賞用だ。
その逆に大きいキャラも、武器が身体に埋まってしまうので、戦いには向かない。
……そもそも大きなキャラは他プレイヤーの画面占有率が高くなり、巨大キャラでクエストに挑むと『この過酷な労役に巨大キャラで来るとは、命がいらねえらしいな』などと渋いオジサンキャラに言われたりする。
遠回しに『画面が埋まって敵が見えない。邪魔』と言われているのだ。
……楽しかった記憶がよみがえる。
ストーリーも、スキルやアイテムを使う時のUIも、もうなんかほんと『クソ』としか言えないようなゲームだったけれど――
『違う自分』になって、他プレイヤーとわいわいするのは、本当に楽しかったのだ。
メイキングデータの一つ一つには、思い出が詰まっていた。
システム上、キャラクター名は一つだけしかつけられなかったけれど、彼や仲間たちは、キャラクターの容姿ごとに呼び名を変えていたものだ。
数々のメイキングデータをながめ、思い出を呼び起こすだけで、いくらでも過ごせそうだ。
そして、そういうことをするのは、もうちょっと色々なことが判明してからでいいだろう。
だから彼は、メイキングデータの『0番』を呼び起こした。
視点が変わり、エルダードラゴンが再び現れ――その姿が変わっていく。
データを呼びおこしているのだ。
ロード時間はゲーム内よりだいぶ短い。
黒いウロコを持つ巨大な竜は、ほんのわずかの時間で、人間の男性になった。
それは、彼が初めてこのゲームに挑んだ時に作ったメイキングデータだ。
やはり後期の自分に比べて、少々いびつなできばえだ。
彼は簡単に、もとを損わない程度に、眉のかたちや目の角度などをいじっていく。
アッサリとした作業だった。
それでも数時間はかかったと思う。
しかし、仮にエルダードラゴンを仕上げようと思って作業したら、たぶん四日ぐらいかかるだろうから、それでも短い方と言えた。
――キャラメイクは、できる。
メイキングデータの呼び起こしも、できる。
新たなクリエイトは――データが作れることは、わかった。
(あとは、この空間から普通にあの世界に戻れれば――)
――ここは、彼にとっての楽園たりうるだろう。
ゲームそのままに、視界の右下に表示された『キャラメイクを終了する』に視線を向ける。
すると、カチリというフリー素材みたいなSEがして――