とあるゲームの隆盛と衰退
『キャラクターを好きにメイキングできるうえに冒険もできるゲームがあるらしい』
そう揶揄されたVRMMORPGがあった。
VR。
ざっくり言えば『キャラクターに自分の精神を乗り移らせて、キャラクターの視点でゲームをおこなえるオンラインゲーム』。
正確に述べれば『精神を乗り移らせる』というオカルトではなく、『そのように感じる』VRゲームなのだが、そのあたりはもはや、どうでもいい。
彼は乗り移ってゲーム世界に転移までしてしまっているし。
そのゲームの運営は『広い世界での大冒険』を売りにしていた。
しかし、彼や、他のプレイヤーはメインの楽しみを『キャラメイク』に見出してしまった。
なぜならば、ストーリーや操作性、ユーザーインターフェイスが『クソ』だから。
しかし、その最悪なUIに耐えてでもやる価値があるほど、キャラメイク関連は充実していたのだ。
『一人称のゲームでキャラメイクをしてなにが楽しいのか?』
VRMMOより前の世代のオンラインゲームをプレイした人々は、そう言って首をかしげた。
三人称視点で自分のキャラクターをながめ、愛でる――そういう文化を持った人々には飲み込みがたかったのだろう。
そう、文化が違う。
愛でるのではなく、変身する。
冴えないおじさんは、バーチャル世界において『のじゃロリ狐耳巫女』になれる。
現実世界では脂肪カンスト勢、バーチャル世界では『かわいさカンスト勢』になれる。
機械の身体(見た目だけ)を選んだ者もいたし、不定形の生物になり、チャットの際には『ヌルーン』『ウニョーン』しかしゃべらないことでキャラ立てにこだわるような者もいた。
さすがに(運営資金の都合で)声優の喉は持ってくることができなかったけれど、変声ボイスチャットとプレイヤーのロールプレイにより、声の質感や高低はある程度操ることもできた。
そのゲームは『変身願望をもった人々』のあいだで、大ヒットしたのである。
……ところが、一つのところがヒットを出せば、他のところでも似たようなものが作られるのがゲーム業界だ。
しかも、いつだってユーザーと運営のあいだには、深い深い溝がある。
『俺たちはキャラメイクをやりたいんだ。そこだけ充実していれば、他になにもいらない』
ユーザーの血を吐くような叫びを運営は聞いてるんだかいないんだか、次々追加される新要素、難易度、ストーリー。
おまけに『ストーリー攻略でキャラクターメイキングの幅を広げよう!』などという、一番のクソ要素とされるストーリー攻略を強いる運営の謎すぎる舵取りまで行われた。
そう、温度差があった。
ストーリーを楽しんでほしいと、運営は考えていたのだろう。
ところが、ストーリーを楽しみたいと思っていたユーザーは、いなかったのだ。
……そんなすれ違いを繰り返し、他にもある程度キャラクターメイキングに幅があるゲームも増えた時代。
課金アイテムを含む様々なキャラクターメイキング用パーツ、さらに愛した自分が消えてしまうことに精神を病む者まで出しながら――
『サーバー維持費も捻出できない』『もっとストーリーを楽しんでほしかった』『あなたたちがもっとゲームを愛してくれればよかったのに』という運営の長く燃え上がりそうな宣言とともに――
――そのゲームは、終了した。
しかし、ゲームプレイヤーの九割を占めるキャラメイキングガチ勢たちの中に、キャラメイキング空間にこもりっきりで、『運営からのお知らせ』にまったく目を通していない者がいた。
それが、彼であり――
ゲーム終了後に気付かずログインしたところ、なぜかゲーム世界に転移することになったのだ。