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水合戦準備 2

 何度目かの体育の授業。


 教室の机を半分ほど隅に移動させてスペースを作り、そこに水合戦に使う武器や道具を広げて使い方の確認をしているところだ。クラスメイトが皆、その周りに集まって盛り上がっている。特に男子。


 そんな中、私も何種類かある武器の内一つを手に取り持ち上げて眺めてみた。


「おおお。これが、水鉄砲。なんだかカラフルでかっこいいね」


 実物を見るのはこれが初めてだ。写真で見たものよりも、大きい。他にも色々と形状の違うものはあるけど、これは特にだ。どれくらい大きいかというと、両手で持たないといけないくらい大きい。これに水が入ったら重そうだ。


「道奈、それ2L入るやつだよっ。重すぎて道奈じゃ使いこなせないと思う」


 隣にいる瑞樹がすかさず教えてくれた。


「2Lも入るんだね。どうりで大きいわけだ。水鉄砲見るのが初めてで見てただけだよ」


「水鉄砲が初めてだなんて、一体どんな場所で育ったのよ」


 その瑞樹の隣にいる真子が聞いてきた。


「そんなの、水鉄砲がない場所に決まってるじゃん。それより、瑞樹と雨倉さんはどれにする?」


 真子の質問に、事実を交えたものを冗談めかして流した。まさか水鉄砲は皆一度は使ったことがある代物だったなんて。次は発言に気をつけよう。


「ウチはこの(ちゅう)くらいの水鉄砲かな?」


「私はこれね。あとは水風船で補うわ」


 私の質問にそれぞれが選んだ水鉄砲を手に持ちながら二人とも答えてくれた。それを参考に自分が使う水鉄砲を決めよう。


「うーん、私はもう少し大きめのにしとくかな…」


「道奈、気合が入ってるねっ。あの天雷会長が何か仕掛けてくるかもしれないから?」


 真剣に悩む私の姿を見て、瑞樹が聞いてきた。視線を机の上に並べられた水鉄砲から瑞樹へと移して答える。


「それもあるけど、せっかくだから全力で頑張りたいなって思って」


 そしてそのついでにクラスのみんなで力を合わせる計画を成功に収める、ということはまだ内緒だ。


「そうなんだ。ウチはなるべく平穏にただ過ぎて行ってくれればそれでいいかなっ。この水合戦も、鬼山様と林道様に従えばそうなるならって感じでウチは頑張ってるよ」


 瑞樹の発言は、水合戦で勝とう、とか、負けたくない、とか、そういった思いが全く感じられないものだった。それを聞いた私は返答に困ってしまう。


「道奈は道奈なりに、ウチはウチなりに頑張ろうって話だよっ。だから頑張ろうねっ!」


「…そうだね」


 やっと口に出せた返事は、中身の無い空っぽな言葉になってしまった。


 なんとも言えない感じになったこの気持ちを紛らす為にも、良さそうな水鉄砲は他にないかと探しているところで、創也がクラス全員に聞こえるように話し出す。


「水合戦では一人一人に無線機が配られることになっている。これについて今から――」


 無線機と呼ばれる簡易的な電話の説明を、クラスの前で堂々とする創也。初日の水合戦の話し合いの時から思っていたが、キリリと表情を引き締めて話している時の創也はかっこいいなと思う。いつもの優しい創也とはまた違った印象だな。そんな友達を持てて私は誇らしく思うぞ。

 ちなみに、どうやら説明等は創也が主に担当することになったらしい。大将の鬼山は創也の近くで座って紙束に目を通していた。


「――では早速今から手にとって試してくれ」


 創也が一通り説明を終えて、無線機が入ったケースを開けてみんなが取りやすいように教室の真ん中にある机の上に置いた。


「林道様、つけ方が分かりません。教えてくれますか?」


 そしてら立花さんがいち早く創也に向かい、話しかけた。心なしか距離も近い気がする。


「私も教えていただきたいですわ!」


「なら私から!」


 立花さんに続くように次々と創也に群がる女子たち。あ、漆原さんもいる。これが真子が言っていた、狩人たちか。


「僕の話を聞いてなかったみたいで、残念だよ。二度説明するつもりはないから、話を聞いていた人に教えてもらってね?」


 そんな狩人たちに対して、創也は冷ややかな笑みで軽くあしらい、弟子がいる方へと戻って行った。それを見て思わずにはいられないことがある。


 そ、創也が女子に、冷たい態度、だとっ。


 ついにお花卒業か!?


 これは今度創也母に、創也が女の子を人として扱ってましたよー! と報告すべきことかもしれない。


「道奈、ボーッとしてないで、ウチらも無線機取りに行くよっ」


 創也の成長を感じて嬉しさに浸っていた私の腕を瑞樹が軽く引っ張った。それに従い、気持ちを切り替えて無線機の入ったケースに向かう。


「道奈ちゃん! 見ろよ! 耳に装着型の無線機だぜ! 映画みたいでかっけぇよなぁ!」


 そこで無線機をすでに装着してる涼に話しかけられた。いや、無線機を見せびらかれたのか。


「普通の無線機とは違うの?」


「スタンダードなタイプは手に持って話すんだよ。でもこれはイヤホンを片耳にはめて話すんだ。スパイ映画じゃ定番のタイプだぜ!」


 説明が進むにつれて熱を込めながら話す涼。以前もスパイ映画に関して熱弁してたな。好きなものの一つのようだ。そんなに興味はないが、話に付き合ってあげよう。


「じゃぁ、この無線機の使い方は完璧だね」


「まあな。あと、無線機ならではの話し方も知ってるぜ! 聞きたいか? 聞きたいか?」


 二度聞かれた。興奮してか、顔も近づけてきた。聞いて欲しいのだな。良識の乙女はそんな気持ちを汲んであげるものなのだ。


「じゃぁ、私も無線機つけるから、使いながら教えて?」


 ずっと涼の話だけを聞いているわけにはいかないので、無線機の使い方に慣れながらすることにした。


「実践講座だな! 任せろ!」


 涼の返事を聞いてから、無線機を手に取る。イヤホンの部分を左耳につけて、そこから繋がってるの本体をクリップで制服に留めた。電源を入れた段階で様々な声が聞こえる。あれだな簡易的な電話とは言ったが、これはラジオというものに近いな。

 さて、説明にあった通りに左手でイヤホン部分にあるスイッチを押して何か話してみよう。


「もしもし」


「はい、全然、ダメー」


 適当に話しただけなのに、涼から駄目出しされた。


「…何が?」


「無線機で『もしもし』はかっこよくないぜ」


 だからなんなのだ。私は無線機にかっこよさは求めていない! ということを私が伝える前に涼が続ける。


「いいか。複数の人が無線機を使っている時は基本、自分の名前と話したい相手の名前から伝えるんだ。誰が誰に話してるのかを示さねぇと、他のみんなにも聞こえてるわけだから混乱しちゃうんだよ」


 意外と理にかなったことを教えてくれた。あの涼が。


「なるほど。確かにそうだね」


「んで、話が終わったってことも伝える為に、話の最後に『オーバー』ってつけるのがロマンだ!」


 理にかなってはいるが、涼は涼なのだと理解した。


「この場合、言い方がとても重要になってくるんだ。その為にも今から特訓しよう! 俺の後に繰り返すように!」


 ふむふむ。ニュアンスというやつか。珍しく涼なりに真面目に説明してくれたんだ。無線機事情に詳しい涼を信じてここは従うことにする。



 こうして涼の迫真の演技込みで特訓が始まった。



「まずは戦闘で負傷した時に言う『オーバー』……はぁ、はぁ、オォバァ」


「はぁ、はぁ、オォバァ」


 足をかばうように体を少し傾けて息も絶え絶えにそう唱える涼。

 少し不審に思ったがとりあえずそんな涼を真似て私も繰り返した。


「次、敵にバレないように無線で連絡する時に言う『オーバー』……ォバ」


「ォバ」


 周りをキョロキョロと警戒しながら、さりげなく片耳を押さえて、口をあまり動かさないように唱える涼、と、同じく真似て繰り返す私。


「そんで次は――」


「涼」


 ノリノリで私に教えていた涼を遮る創也の声が私の背後から聞こえた。声色からして、いつかの凍結する笑みを浮かべてた時のことを思い出させる。よって振り向こうとしたのをやめた。


「それは俺の話よりも大事なことか?」


「マジでそれこえぇから。わかったから。お願いだその顔やめろ」


 創也の発言に対する涼の少し慌てた反応からして振り向かなかったのは英断だったな。


「道奈をお前の()()に巻き込むな」


「へぇへぇ」


 ここで軽く返事が出来るのは涼くらいだ。


「水合戦のフィールドについて説明を始めたところだから、ちゃんと聞くんだぞ」


 どうやら涼の無線機講座に集中している間に、創也が次の説明に入っていたようだ。創也と涼の会話が終わって、且つ、創也の顔が元に戻ったであろうタイミングで振り返る。


「説明中に邪魔しちゃってごめんね。私も大人しく聞くよ」


 反省の意を込めて創也に伝えた。涼なりだが、私の為になることを教えてくれたのだ。私も共犯だろう。


「道奈は謝らなくていいよ。向こうから見てたから、涼が一方的に巻き込んだだけなのは知ってる」


 見てたのか。ていうか、周りの様子に注意しながら説明を進めていたのだな。複数のことを同時に出来るなんてさすがだ。


「じゃ、説明に戻るよ。またあとで話そう」



 そして対戦場となるフィールドの説明を再開した。



 黒板に貼り付けた簡単なフィールドの地図を指しながら創也が進めていく。


「フィールドで確定しているのは、平地で、相手チームの陣地と俺たちの陣地の間に多数のバリケードがあり、水を補充する水道が両側にあること。この三つだ。ここから天雷対策として――」


 予めみんなで考えておいた作戦に当てはめながら、創也の話を聞く。


 これならあの作戦が。ならこの作戦は。と改善点を洗い出したところでふと気づいた。


「――以上が説明だ。何か質問のある人は」


「はい!」


 創也の説明が終わるのを待って挙手をする。クラスに注目されているのを感じながら、気づいたことについて話してみる。


「道具や器具を持ち込むのはルール違反だと思う?」


「持ち込みか…例えば?」


 顎に手を当てて聞き返す創也を見ながらいくつか例を挙げた。


「大きめのハシゴとか。それがあれば、相手がどこにいるのか見えやすくなるでしょ? 攻撃を防ぐための盾とか。あと、錯乱作戦は音のなる防犯ブザーみたいなのを使えばもっと効果的になると思う」


 私の話を聞いた創也が暁人に視線を送る。受けた本人は創也の意図を察して、創也に代わり私の質問に答えた。


「盾は勝敗がつきにくくなる要因になりかねないので難しいかと。それ以外の物でしたら、大丈夫だと思いますが、念のために会長にメールを入れてみますね」


「一応決まりだ。作戦に加えるぞ」


「作戦の幅が広がるな。他にも持ち込めれる、または、使えるものを今から話し合おう」


 暁人の返答を聞いた弟子が決定を下した。そして創也の提案で話し合いへと移る。


 話の内容はもしハシゴの持ち込みが大丈夫なら、高さはどれくらいか、高いことが逆に標的にならないか。その場合は届かない高さのものを選ぶか。などというものから、防犯ブザーはどんなタイプが良いか。というところになったところで、また私は挙手をした。


「はい! 防犯ブザーなら良いものがあるよ」


 発言した途端に、創也はすぐに心当たりが見つかったようで、表情が僅かに動く。


「この、anatanokawarini-sakendeageru0224タイプの防犯ブザーは使えると思う!」


「…確かに、相手を狼狽えさせる効果は期待できそうだ。…ある意味だけど」


 創也の反応はともかく、大音量で金切り声を鳴らす機械は使えると思うのだ。

 熱弁していたら、暁人が挙手をしたので、話の番を譲る。


「お話のところ、すみません。会長から返信がきたので、報告です。ハシゴと防犯ブザーの使用許可がおりました。他にも面白そうな提案があれば教えろとのことです」


 天雷の基準は面白いか面白くないからしい。

 生徒のトップに立つのなら、ここは公平か不公平か、とか、立派な基準であるべきなんだろうけど、提案が通ったので口は噤んでおいた。


「なら、明日の予行演習で早速試してみたいところだな…」


 ふむ。応援団の練習が放課後にあるけど、私ならこの防犯ブザーを買ったことがあるから、ここは私が適任だ。あとで団長にメールを入れておこう。放課後、終わってすぐにホームセンターに行けば、もしかしたら二時間くらいで戻ってこれるかも。


 頭の中でスケジュールを確認してから手を挙げた。


「私が今日の放課後行くよ。この防犯ブザーを売ってるホームセンターなら知ってるし、えっと、名前はなんだっけ。ホームデッパだったかな?」


「ホームデップだ」


「私も行きます!」


 創也がホームセンターの名前を訂正した途端に、瑞樹が元気よく挙手をする。ピキンと伸ばした手も含めて、一本の矢のようだと思わせるほど、直立の姿勢だ。その隣で、真子が「ペットショップにいる猫が狙いね」とため息混じりにボソリと呟いたのを私の耳は逃さなかった。


「じゃぁ、道奈と新海さん、よろしく頼んだよ。数は四つほどでいいだろう」


「領収書の宛名を学園の体育委員会にして頂ければ、費用はそちらが負担します」


 創也と暁人の言葉に頷きながら私は、せっかくの機会だ、真子も誘ってやるぞ、と意気込んでいた。

 

 その後も、話し合いは続き、作戦の肉付けがなされたところで、今回の体育の授業が終わった。


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