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結果だけ話すと、合格しました

今日は3話連続投稿です。

3/3話目。


 あの後、ひたすらスキルを使いながら勉強を続けた結果。


 無事に合格することができた。


 その分、食費が重なってしまったことに負い目を感じる。

 じっちゃん、ごめんね。学校を卒業したら、いっぱいお店の手伝いをして稼ぐよ。


 奨学金も貰えるそうで。


 結果が届いてそう知った時はじっちゃんと二人で喜びながら飛び跳ねた。

 それから、試験前に交換した創也の番号に電話をかけて、報告したのだ。


「もしもし」


 なぜだかは分からないが、電話をかける時は必ず「もしもし」と言うのが暗黙のルールらしい。この世界での決まり事は変わってる物が多いと思う。


 こんな風に電話をかけることも今では慣れたものだ。


 初めてじっちゃんから携帯をもらった時は、衝撃を受けたのをよく覚えている。遠くの人と会わずに話せると知って、家の中でもじっちゃんに電話をかけまくった。かける人がじっちゃんしかいなかったので、すぐに飽きてほったらかしにしてしまったがな。その後、ベッドの下で埃をかぶった携帯が発見されたのはじっちゃんに秘密だ。


『もしもし、道奈? もう結果来た?』


 電話をする度に思うのだが、耳元で聞こえる電話越しの声はなんだかいつもと違う気がして少し変な感じだ。違和感を感じつつも、創也の質問に感情のまま答える。


「うん! 合格したよ! 奨学金も貰えるみたい!」


『よっしゃああああ!!』


 私よりも嬉しそうだ。自分の事のように喜んでくれるのは嬉しいけど、少し勢いに押されてしまう。それに、前から創也と話していて思っていたが、創也は普段から柔らかい口調を心がけている気がする。夢中になった時とかに、時折それが剥がれる事があるのだ。今みたいに。


 こっちが素かな?


 友達なのに素を隠しているようで、少しだけ寂しく思う。


「これも創也の助けがあったお陰だよ。本当にありがとう」


『違うよ、道奈が一生懸命勉強したから合格できたんだ。本当に嬉しいよ』


「へへへ、実は創也にお礼を用意してあるんだ。店に遊びにおいでよ」


『行く。今から行く』


「え、今からはちょっと…準備とかあるし…明後日が一番準備しやすいかな!」


『あ、ごめん、嬉しくて気が早すぎたね。…明後日かあ』


「創也は明後日、学校だよね。学校が終わった後はどう? 空いてる? 時間遅すぎかな?」


『明日の放課後は…う―ん。まぁ、大丈夫かな?』


「…本当に? 嘘じゃない? 嘘ついたら針を千本飲まなくちゃ駄目って聞いたよ。私、創也にそんな物飲ませたくない!」


 本当に恐ろしい習慣だと思う。嘘をつく方も、つかれる方にもダメージを与えるなんて。日本の人たちは嘘が相当嫌いとみる。


『いや、確かにそんな歌い文句はあるけど、それを実行に移そうとするなんて、恐ろしい事考えるね』


 なにっ。「嘘ついたら針千本飲ますぞ」と歌いながら文句を言うだけなのか。


 なんだ、ただの脅しか。いやそれでも十分怖いな。


『実はその日の夕方は両親が知り合いのパ―ティ―に招待されていて、俺は行くかどうか迷ってたんだ。俺は招待されてないから、別に行かなくてもいいけど、将来の事を考えると付いて行った方がいいんだよね』


「じゃあ、なんで迷うの?」


『面白くないから? …そうだ! 道奈、明後日一緒にパ―ティ―に行こう!』


「えええ!? なんでそうなるの!?」


『道奈と一緒なら絶対楽しいはずだ! それで早めに抜けて一緒に道奈の家に行けばいいだろう?』


 あ、また少し素が見えた。興奮しているようだ。


 創也のお礼の準備は昼から始めても夕方までには終わる予定だ。

 しかも、お世話になった創也からのお誘い。断るのもなんだか気がひけるし、時間的にも行けるが、


「おめかししなくちゃ駄目なんだよね? 一人じゃどうやるのか分からないし、そんな服もないや」


 前の世界では、お父さんの仕事が儲かってたおかげか、家に使用人がいた。パ―ティ―のお誘いも時々あって、その時は使用人達に任せっきりだったから、髪のセットもドレス選びも一人ではできない。そして、パーティー用の服も、今の私が持っているはずもないのだ。


『明日の放課後、車で迎えに行くから一緒に買いに行こう。僕から誘ったから、お金は僕が出すよ。その心配はしないでね』


 創也の提案に、思わずにはいられない。


 お金は大事だ。じっちゃんが一生懸命働いている姿を私は見てきた。お金を稼ぐのは大変な事なのだと日本に来て学んだのだ。その貴重なお金をこんなに簡単に使ってもいいのだろうか。学力テストを受けに創也の家にお邪魔した時はお金持ちなんだなあ、とは思ったが、それとこれとは話が違う。


 私の良心が痛む。ズキズキだ。


 前の世界では基本ドレスやワンピ―スだったけど、日本では見た事がない服がたくさんあった。余計に値段の相場が分からない。それでもなるべく安いものを自分で買おう。


「創也に悪いよ。それは自分で買うね」


『気にしなくていいのに。僕からの合格祝いだと思って?』


「う―ん…わかった。ありがとう」


 ここまで言われたら、今度はこれ以上の遠慮は今度は創也の好意に悪いなって思ってしまって、受け入れた。


『じゃぁ、明日の夕方5時くらいに迎えに行くよ。帰りは遅くなりそうだから、ついでに一緒に夕食も食べよう』


「この前行った美味しいところ?」


『いや、違うとこ。買い物の場所から近めの所にする予定だよ。楽しみにしてて』


「うん! じゃ、また明日!」


『また明日』


 明日がとても楽しみになった。


 電話が終わった後、このことについてじっちゃんに伝えに向かう。


「電話は終わったのか?」


「うん! とっても喜んでた。明後日の夕方一緒にパ―ティ―に行くことになったよ! それで明日の夕方は一緒に買い物に行くんだけど、創也がお金を出すから気にするなとか言い出して、遠慮したんだけど、合格祝いだって。だから、明後日のお礼の準備は気合を入れてもっともっと頑張る予定!」


「そうか。無事にお礼ができるといいな。それと、これは私からの合格祝いだ」


「え?」


 じっちゃんから小さな布の袋を手渡された。


 袋の口を開けて逆さにする。自分の手のひらの上に出すと、涼しげな首飾りが出て来た。


 キラキラ光る細めの銀のチェ―ンの真ん中に一つだけ雫の形をした小ぶりの青いガラス玉がついている。絶妙な角度でカットされており、光の加減で色が濃く薄く、変化する。反対の手で持ち直して見てみると、ガラス玉の中に入っている少量の星屑型の真っ白な砂が重力によってサラサラと中を動いていった。


 青色に白色。表情が一つ一つ変わって、ずっと見ていて飽きない。


 これって、まるで、



 ―――小さな空みたいじゃないか。



「気に入ったか」


「うん…とても綺麗。お空みたいで好き」


「古い友人にガラス職人がいて、作ってもらったんだ。性格は雑だが、なかなか繊細な仕事をするから不思議だ」


「じっちゃん、大好き! ありがとう! 一生身につけるね!」


「はっはっはっ、そうか。一生つけてくれるか。それは嬉しいねえ」


 じっちゃんが目尻のシワを深めて笑った。




 プレゼントを貰ったのは私なのに、


 じっちゃんの方がとても幸せそうなのを見て、不思議に思った。


次回から、入学までの付箋など、色々な下準備に入ります。

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