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テレビが来た 2


 ホームルームを終えた後、私は一息つく間も無く、第一多目的ルームへと鷲崎先生に連れられた。


 取材は放課後も続く。


 逆を言えば、放課後さえ乗り越えれば、今後取材を受けることはない。


 事前に応援団長と副団長に事情を話してあるから、放課後の練習は特別に大目に見てもらってるので大丈夫だ。


 滞りなく終わらせるために、向かう途中、トイレによって、マジック道具を制服に忍ばせた。この後、マジックを披露することになると予め伝えられていたので、その準備である。


 室内での披露になるので、調合に調合を重ねて出来上がった室内用のミニミニ爆発マジックを今回は用意した。それに加えて、あまり披露してこなかった、テーブルマジックも披露予定である。


 取材は面倒でも、マジックを披露するのは全然苦ではない。今の私はやる気に満ち溢れている。その気持ちのまま、テレビの人たちが待つ、多目的ルームへと向かった。





 ドアを開けると、ライティングに椅子などのセッティング、カメラの位置がすでにあるべき場所にスタンバイしていた。準備万端って感じだな。


 鷲崎先生の説明によると、授業中のように取材陣が一斉に撮影するのではなく、ここからは時間を決めて、各組ごと1組ずつ相手するといった感じになるようだ。


「まずは私たちの『ヒルカラ!』というワイド番組のミニコーナーに使う映像を撮らせてもらうね。あそこにいるお姉さんが色々と質問するから、それに答えていけば大丈夫だよ。それじゃ、荒木道奈ちゃん、準備はいいかな?」


「その前に、一つだけお願いがあります。―――私の出身に関わることは、一切触れないと約束してください」


「え? …理由を聞いてもいいかい?」


「理由も言いません。インタビュー中にこれに関して一度でも触れれば、問答無用で帰ります」


 真剣な表情で、子供の悪い冗談ではないのだと、訴えた。


 これは私の死活問題だ。カメラの前でごまかせても、それを見て気になった人たちが何人もあの手この手で聞き出しに来てしまったら堪ったものではないし、それが原因で私の周りの人たちが怪しみ出してしまったら、最悪学校を去ることも辞さないつもりだ。


「…わかった。私から伝えておくよ。―――じゃ、あの椅子に座ってね」


 はい、と返事をしておめかしした女性に対峙するような位置の椅子に座る。先ほどの男性は、女性に私のお願いを伝えているのか、ごにょごにょと何か話してから、撮影が始まった。


 アナウンサーと名乗る女の人が自分の自己紹介をした次に、私の紹介をする。その時、予告もなしにミニミニ爆発マジックを炸裂させた。


 ポポポポポポポポンッ、ポンッ


 連続で可愛らしい爆発音がなるとともに、カラフルな紙吹雪を舞い散る中、無から小さな花束を出したように見せて、アナウンサーに渡した。


「遠いところまでお越しいただき、嬉しく思います」


 妖艶な雰囲気を醸し出すように、この前に見た天雷会長のを再現するように、笑みを浮かべる。

 性格に難がありすぎる人だが、あのなんとも言えない妖しい雰囲気はマジックの演出に使えると思ったのだ。


「あ、ありがとう、ございます」


 サプライズマジックはちゃんと成功したのか、頬を赤らめて花束を受け取るアナウンサー。


 反応はまあまあだな。師匠のキッドなら気絶させるほど喜ばせるだろう。

 私もまだまだだ。いつかは絶対に観客の気を失わせよう。


「すごいですねぇ。突然の素敵なマジックに、思わずときめいてしまいましたが、ここで、荒木道奈さんに気になることをいくつか聞いていきたいと思います」


 簡単なマジックの反省をしていると、アナウンサーが気を取り直したように軽いインタビューを始めた。


 マジックを始めたキッカケ。

 いつから練習し始めたのか。

 どんな練習をしたのか。


 というマジック関連の質問から、学校の生活に関したものへと変わっていく。


「学校は楽しいですか?」


「はい、今は体育祭の準備の時が一番楽しいです」


「いいですね。学校行事の他に楽しいことはありますか? 例えば、恋とか!」


 なぜ恋一択なのか。ははん、さては、このアナウンサー、明菜と同じで他人の恋時を聞いて楽しむタイプと見たっ。


 だが残念だったな。私は恋愛未経験のピュアッピュアな乙女なのだ。自分で言うのもなんだが、これに関してはひよこにすらなりきれていない卵といえよう。


「親しい友人たちと一緒にケーキを食べに行ったりとか、ですかね」


 だから、知らないふりして当て外れな答えをしてやったぞ。


「女子ですね〜。もしかして、彼氏くんと一緒に食べに行ったりとかもしたのかな?」


 なぜ恋人がいる前提なのだろうか。しかも話を逸らしたのに戻された!


「現在恋人はいないので、それはないですね。今は恋愛よりも友情を楽しんでいる感じです」


「またまた〜、紳士なイケメンくんとずっと一緒にいたの、私は見逃しませんでしたよ? その可愛いヘアゴムもその彼からのプレゼントらしいですね」


 ずっと一緒にいた紳士なイケメンくんと、ヘアゴムをくれた彼に思い当たるのは創也くらいしかいない。どうやらこのアナウンサーは勘違いをしているようだ。ここはきっぱり教えてあげよう。


 創也は私のことを妹みたいに考えているようだが、私にとって――


「――創也は一番親しい大切な友人なのです」


「呼び捨てで呼び合う仲なんですね。今はそういうことにしてあげましょう」


 納得がいかない。なんでそんな解釈をしてしまうのだ! 私はきっぱり言ったはずだぞ!


 訂正してもらおうと私が声を出す前に、アナウンサーに先を越されてしまう。


「まだ他にも用意してくれたマジックがあるようなので、ぜひ披露していただきましょう。どうやら未公開な新しいマジックだそうなので、期待大ですね!」


 軽いインタビューから始まった撮影は、アナウンサーの要望でマジックを披露して、あっという間に40分くらいで終わってしまった。


 途中で意味のわからないことになったが、取材はまずまずだな。


 この調子で片付けていこう!


 この人たちに放送日を聞いてから、挨拶をして、隣の第二多目的ルームに移動する。けどその前に、ちゃっかりトイレに戻って、別のマジックを制服に忍び直した。同じマジックを披露したら、番組は違うけどテレビに映るのは全て同じマジックになる。それはなんだか、それしかマジックができないように見えるから、レパートリーの違うものを複数用意したのだ。


 テーブルマジックの評価はとても良かった。アナウンサーも本格的ですごいと褒められた。


 気分がよくなる。


 だがっ!!!


 油断はしないぞっ!

 一回失敗すれば、一気にシラケてしまうのがマジックの恐ろしいところなのだ。


 気を引き締めて残りの取材を片付けることにした。



 ****



「はい、お疲れ様でーす」


 最後の組みの取材が終わった。


 インタビューと写真撮影がメインだった雑誌の取材に対して、それぞれの番組が違うように、撮影する内容は若干違っていて退屈しなかった。小さなゲームをしたり、クイズをしたりと視聴者を楽しませるような趣向を凝らしたものが多かったのだ。


 さて、これで帰れる、とひと段落ついた私に、先ほどから壁際で待機していたスーツ姿の男の人たちが三人、お互いを牽制するようにものすごい速さで私に向かって来た。


「初めまして、私はこういうもの――」


「道奈ちゃん! マジックすごかったねー。よかったらこの後お話でも――」


「荒木道奈さん、話なら是非、まずは私と――」


 お互いがお互いの話を被せるように話すので何の用なのか、さっぱりわからない。

 このまま黙って聞いていては、埒が明かない。放課後の時間がどんどん消えて行きそうだ。


「あの」


 だから少し大きめに声で、目の前で繰り広げられているこの無意味な争いを止めさせて私に注目してもらった。


「時間がないので、話は一人ずつここで、手短にお願いします。あ、順番はじゃんけんで」


 また我先にと話しかけられたら先ほどと変わらないので、順番を手っ取り早く決めてもらった。


「君、芸能界に興味ない?」


 じゃんけんに勝ったらしいスーツ男Aが開口一番に言って来たのは、芸能界、つまりテレビの世界へのお誘いだった。


「ほら、この通り、私はちゃんとした事務所のものだ。怪しいものではないから、安心していいよ」


 小さな厚紙のカードを渡された。そこには文字が書いてあり、この人の情報が大まかに記してあった。


「今村、プロダクション?」


「一度は聞いたことあるんじゃないかな? なにぶん大手事務所で有名だからねえ。実はうちの社長の息子もこの学校にかよっているんだ」


 へぇそうなのか、としか言いようがない。

 そして、もちろんその事務所を私が知るはずはないし、この質問は悩む余地もない。


「芸能界に興味はありません。お誘いは丁重にお断りさせて頂きます。―――もしかして、他のお二方も同じような要件ですか?」


 ぺこりと腰を曲げて伝えた後、他の二人に確認してみる。


 あぁ、やっぱり。そうだったのだなと表情で分かった。


「…おしいなぁ。芸能界に入れば、学校中の人気者になれるのに?」


「それだけでなく、荒木道奈さんなら一気に売れっ子なること間違いなしです。お金もたくさん入るので、君のお爺さんに楽させてあげれるんじゃないかな?」


「それに、マジシャンのキッドに憧れているのですよね? 彼とも会えますよ?」


 先ほどまで牽制しあっていたのに、手のひらを返したように三人で協力して私の考えを変えさせようと説得しだす切り替えの速さに驚いた。

 しかもインタビューの時に手に入れたであろう情報を活用しているぞ。


 だが、そんな誘惑で屈する私ではない。


 そもそも学校で人気者になるのが私の目的ではないし、テレビに出る人の一員にならないと一生キッドに会えないわけでもないし、じっちゃんには金銭的な楽はもちろんさせたいけど、そんな間接的じゃなくて、お店の手伝いとか、直接なにかしてあげたい。


「どれも悪くない話ですが、私の考えが変わることはありません。この後宿題を終わらせないといけないので、失礼しますね」


 もう一度お辞儀をして、そそくさと逃げようとしたが、それでも『名刺』だけは持っていって、気が変わったら是非自分に連絡してくれとぐいぐい渡された。先ほどの厚紙カードを名刺と呼ぶのだとここで学んだぞ。


 渡された名刺を仕方なしにポケットに突っ込んで教室を出る。すると、私が出るのを待ち構えていたのか、数組の取材班が廊下で突っ立っていた。私の姿を視界に捉えた途端に向かってくる。


 スーツ三人組の次はこの人たちかっ?!


 撮るものは全部とったはずだぞ、となかなか寮に帰れない状況に少し苛立ってきてしまった。

 それが表情に出てしまっていたようで、それを見た大人たちが慌てて腰を低くし、機嫌を損なわないように言葉を選んで話しかけてくる。


「荒木ちゃん、良かったらでいいんだけど、寮の中での君を撮らせてもらえないかなー、なんて。どうだろうか」


「えええ」


 取材の延長の話に嫌だという声が漏れた。


「ほんっの数分で構わないんだ。終わったらすぐに私たちは引き上げると約束しよう」


「…数分というのはどれくらいの時間ですか?」


「10分はどうだ!」


「うーん」


「…いや6分でどうだ!」


 なおも引き下がる気を微塵も見せず、粘る大人たち。


 …このままお願いだ嫌だを繰り返して、損をするのは、時間が消費され続けている私だということに、ここで気づいた。


 妥協探しの出番だな。


 私がどうしても譲れないのは部屋での撮影だ。こーんな今日会ったばかりの沢山の大人の人たちを部屋に入れるなんて、絶対に嫌だ。周りの寮生に迷惑だしね。


 なら部屋以外の寮はどうだ。


 食堂とかは? あそこなら元々賑やかな場所だから大人たちが来ても食事の邪魔になるほどの騒ぎにはならないだろう。


 あとは管理人の木本さんから自分たちで許可をもらえれば、問題ない。


 大きなため息をついてから、伝えた。


「…今から夕食を食べに寮の食堂に行くので、そこならいいですよ」


「「おおお!」」


「その前に、約束してください。食堂で撮ったら、すぐに帰ると。…お願いします。今日勉強する分、全然始められてないんです。早く始めないと後で苦しむのです…!」


 ぐいぐいで粘り強い大人たちに心からお願いした。

 また食堂の後、こんな感じで取材を延長されたら無視して逃げ出してしまうくらい参っている。


「もちろんだ。こちらの要望をのんでくれてありがとう」


「こんなことをお願いして本当にすまない」


「迷惑をかけたかったわけではないのだ。本当に申し訳ない」


 この人たちも仕事だから仕方ないのだと、自分なりに理解して、全員と指切りをした。小指が筋肉痛になりそうだ。小指をさすりながら、スタスタと大勢の大人たちをまた引き連れて寮へと向かった。


「あ、もし管理人の木本さんがダメと言ったら、私はどうしようもないので、許可は皆さんでもらってくださいね」


 途中、言い忘れていたことを伝えた。でも、それはもちろんだ、という感じで大人たちは全然怯んでいなかった。


 なるほど、なんども撮影の許可はもぎ取って来たという経験が自信に繋がっているのだな。


 そんなことを思っていると、寮に到着した。



 ****



 自分の部屋に戻って早々、ベッドにダイブする。


 ボサっとマットレスが潰れる音がして全身の力を抜いた。


「つぅぅかぁぁれぇぇたぁぁあああぁぁぁ…」


 もうこのまま寝てまえっ、と小デビルな私が誘惑する。


 ダメダメ! 宿題が残ってるでしょうっ、と小エンジェルな私が反対した。


「…宿題もだけど、じっちゃんに放送日、伝えなきゃ」


 小エンジェルな私に従ってのそりとベッドから降りて、カバンから携帯を出す。


「着信が入ってる」


 ずっとマナーモードでカバンに入れっぱなしだった所為で全然気づかなかったぞ。


 確認すると創也からだった。これはじっちゃんよりも先にこっちにかけた方がよさそうだな。


 ぽちぽちっと創也に電話をかけた。


『もしもし、撮影はもう終わった?』


 創也はかけてすぐに電話にでた。どうやら取材について聞きたかったらしい。


「うん、終わった。すっごく疲れた。放課後の後も撮らせてくれってお願いされて、さっきまで食堂で夕食食べてる時もカメラで撮られてたんだ。周りからじっと見られる中、食べるのって、やっぱり疲れる」


『寮にまでいったのか…放課後の取材はどうだった?』


 創也に詳しく聞かれたので、ついでに恋愛頭の勘違いアナウンサーの愚痴も混ぜてあったことを話した。


『そうか…お疲れ様』


 なぜか複雑そうな声色を乗せて呟いたあと、私を労う創也。


「創也、どうしたの?」


『…試合には勝ったけど、勝負はまだまだ延長しなきゃなと、思っただけだ』



 は? ひふへほ?



 頭の中が『?』マークでいっぱいになった。


「創也…全然意味わかんない。もっとわかりやすく説明してよ」


『まだ伝える時じゃないから、言わない』


 またこのパターンか。いい気はしないが、もう慣れてしまった自分がいる。


「もういいや。この後じっちゃんにテレビの放映日を伝えて宿題も始めないとダメだから、もう切るね」


 加えて疲労困憊の私は、早々に電話を切ろうと話を終わらせにかかった。


『あ、その放映日、俺も教えて? 俺の母さんも見たいって言ってるんだ』


 なるほど。プリントでクラスの親御さんたちも今日テレビがきてたことは知ってたみたいだから、その経由で創也母に興味をもたせたらしい。


「いいよ。一番最初のものは、明々後日のお昼のワイドショーのVTRとかいうものの一つとして放映されるって言ってた。これは授業中で私たちは見れないけど、次に放映されるものは二ヶ月以降の水曜の夕方七時のバラエティー番組だったかな? 忘れないようにどのテレビ局かもメモしておいたから、それを後でメールで送るね」


『うん、ありがとう。じゃぁ、宿題頑張って』


「うん、また明日」


 手短に創也との電話を終わらせて、そのままじっちゃんにかける。


「もしもし、じっちゃん! テレビの日にち決まったよ!」


 この前、取材を受けると伝えた時は、嬉しそうだったな。

 その嬉しそうなじっちゃんの顔を想像したら、私も嬉しくなって声が思わず弾んだ。


『そうかそうかっ。今メモのペンを準備するからちょっと待っ――おぉ、あったあった』


 ガチャガチャと机の上を片手で探しているのが音でわかり、笑みになる。

 それから創也に話したものより、もっと詳しく、メモに書いておいたテレビ番組の日時と雑誌の分まで全て伝えた。創也のようにメールで済ませないのは、じっちゃんは私と同じでメールが苦手だからというのと、私がもっとじっちゃんと話していたいからなのだっ。


「――これで全部だよ」


『…結構な数、受けたなぁ』


 予想以上の数だったらしく、じっちゃんの呟きに心配の声色が伺えた。


「うん、私が無理言って今日で全部終わらせたの。ちょっと大変だったけど、私は大丈夫! 勉強に支障だけは出したくなかったから、もう取材は受けないつもり」


 だから、心配ないよって付け加える。


『道奈が考えて決めたことだから、私は何も言わないさ。――最近のリレーの練習はどうだ? 明日は応援団の練習の日だったね。体育祭の日が待ち遠しいなぁ』


「リレーの練習は順調だよ! 菊月さんは何も知らない私の練習に付き合ってくれるし、なぜか今でもおどおどしてる井上さんと坂倉さんは、妖怪ナンパ野郎が話しかけてきたら毎回助けてくれるの。良いクラスメイトに恵まれたなーって思ってるよ。それで応援団の練習はね――」


 宿題はあるけど、もうちょっとだけ、じっちゃんと話すことにした。頑張った自分へのちょっとしたご褒美ということにする。


 小エンジェルな私によって、それも数分だけにして、宿題にやっと取り掛かったのだった。


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