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応援団入団


 腕時計をみると、昼の1時前を指していた。


 ちょっと早いけど、いいよね。

 1時前も1時も待ち合わせの時間としては大差ないわいっ。


 意気込んで『第3多目的ルーム』と書かれている教室のドアに手をかけた。


 そう、私は応援団に入ることにしたのである。


 理由はもちろん、探求部の研究が終わったからだ!! そう、終わったのだ!!


 嬉しいことなので、二度心で唱えた。


 余談だが、昨晩、研究を終わらせた後、表紙に『蒼い炎の貴公子』と書かれた演劇部の台本に初めて目を通してみた。これからコツコツとセリフの暗記に取り掛かるために、毎晩一通り音読をすることにした。そして、余った時間に応援団で使えるマジックをいくつか選んでおいたのだ。


 よって今日の準備は万端だ!


 一言、気合いをを込めて「失礼します」と言って開けた。


「えぇ?! 祈ってはいましたが、まさか本当に来るとは…!」


「おおお、ほしもとおおお、感謝するぞおおお!」


「これで魔法少女ゲットっ…」


 開けた途端に一人は感激したように手を叩きながら喜び、また一人は膝を床につけて祈るように手を合わせてから天井に向かって「ほしもと」に感謝を示し、もう一人はガッツポーズで魔法少女獲得を宣言している、計3名の生徒が目に入った。


 その所為で挨拶をするタイミングを逃してしまった。


「ささっ、どうぞ遠慮なさらず、こちらへ。荒木道奈さんでしょう? 歓迎しますわ!」


 ドアの前で立ち尽くす私に先ほど感激していた女子生徒が声をかけてくれた。突っ立っててもしょうがないので、言われた通り中に入る。


「後ほど他の団員が揃った時に、もう一度自己紹介する予定ですが、まず簡単に、私が副団長の水谷伊里江(みずたにいりえ)と申します。こちらが団長の安倍邦之(あべくにゆき)さん。そして、この陰キャラが石川(つとむ)さんです」


 どうやら、先ほど膝を付いていたのが団長で、ガッツポーズをとっていたのが『陰キャラ』か。


 『キャラ』はキャラクターの略称だと推測して、影にいるような性格の人と伝えたいらしい。


 目が見えないほど長く伸びた前髪にボサボサ頭を見たら、確かにそんな性格の人に見えなくもないな。


「オレは断じて陰キャラじゃない」


 ふむふむ、と私が陰キャラ男子生徒を眺めながら頷いていると、訂正された。


「だったら髪を結ぶなりヘアピンで前髪を留めるなりしろ」


「もう、面倒だからといって、毎回伸ばしっぱなしにするからですわ。その癖直したほうが良いですと、昔からいってるではありませんかっ。視力が悪くなっても知りませんわよ?」


 親しげに陰キャラに話しかけているところをみると、とても近い友人関係のようだ。


「邪魔だと思った時に結ぶ。今は邪魔じゃない。そして面倒だと思うオレも、オレの一部だ。オレがオレであるために、オレはまだ髪を切らない」


 オレオレ言い過ぎだな。今の所、陰キャラではなく俺俺キャラな印象だ。


「初めまして、みなさん、私のこと知ってるようですが、一応私も自己紹介しますね。一年A組荒木道奈です。よろしくお願いしますと共に、火曜日と木曜日の放課後は一時間だけ遅れてもいいですか? リレーの練習が入ってまして」


 ずっとこの三人のやりとりを聞いているわけにはいかないので、私も自己紹介をした。そして、制服のバッチの色から三年の先輩だということが判明している。よって敬語で丁寧に話した。ちなみに、私は私服だ。膝丈の、スカートだ。


「遅れた分頑張ってくれるなら大目に見よう」


「ここかな」

「失礼します」

「時間に間に合ってよかったー」


 偉そうに俺俺キャラが承諾してくれたところで、わらわらち他の団員希望者が集まってきた。


「ありがとうございます」


「あぁ、皆がそろってから詳しく色々と説明する予定だ。それまで早く着いた者は、先にこれを読んでいてくれ」


 そう言って、俺俺キャラは机の上に置いてあった薄い紙束を見せてきた。他の生徒にも配っていく。


「俺が考えた、俺の力作、『鳳凰学園紅組演舞、血龍の巻』だ」


 なんとも物騒なネーミングセンスである。


 ま、名前よりも内容だな。パラパラとページをめくり、他の生徒が集まり終えるまで目を通しながら待つことにした。





「…おかしいですわね」

「…そうだな」

「…まさか、ただ遅れているってオチだろう」


 応援団を率いる立場である二人の不安な呟きに、今日集まってきた生徒も不安な表情になってきた。


 未だ開始すらできていないのにも関わらず、すでに雲行きが怪しい理由。


 それは、



「あれ? まだ全然集まってない。(これでは遅れて登場した意味がないじゃない)ここ、紅組応援団の待ち合わせ場所ですよね? 1時待ち合わせですよね?」



 1時半を過ぎた頃に、堂々と入ってきた立花の第一声の通り、待ち合わせの時間をとうに過ぎたにも関わらず、集まった人数が少ないのである。


 私は比較対象がゼロなので、どれくないの人数が多いのか少ないのか、ピンとこないが、全校生徒の約半分を応援するには足りない人数なのだろうと、なんとなく察した。


「…もう少し、待って見ましょう。待っている間に自己紹介とパフォーマンスの説明を致しますわね」


 少しでも、まだ望みはあるのだと、前向きに捉え、せっかく来てくれた団員希望者に向かって副団長が明るく話しかけた。


 その笑みに元気付けられた周りが、輪になるように集まる。途中、立花が私の存在に気づいたようで、思いっきり殺気を投げつけられた。あれ以来一度も私と口を聞いていない。面倒なのは避けたいので、ここでも今まで通り関わってこないようにと心の中で祈った。


 それぞれが学年と名前を言い終わったところで、俺俺キャラの石川先輩が説明に入った。


「―――そして、統一された動きにより、遠くからみると、一体の龍に見えるフォーメーションが肝となっている。説明は以上だ。本格的な練習のスケジュールを伝える前にここに名前を書いてくれ。正式に団員として体育委員に提出する」


「あの…」


 一通り話し終えたところで、立花がわざとらしく遠慮がちに挙手する。


「はい、立花さん、質問ですか?」


「はい…、ここにいるみんなの不安を代表して、私が聞こうと思います。その演舞は大人数でないとできないもの、ですよね? …すでに2時を過ぎたのですが、本当にそれくらいの人数が集まるのでしょうか…?」


 両手を握って、口元を隠すように寄せながら、上目遣いで団長、副団長、そして石川先輩を眺めた。か弱い女子生徒が勇気を振り絞って発言したという演技をしたいのだなと解釈する。


 立花の臭い演技はともかく、指摘したところは私も気になっていた。自己紹介の時に人数を数えてみたら団長たちを合わせて八人だった。石川先輩が考えた『演舞』というやつは、最低でも、もう十人から二十人ほどは必要になるだろう。


「俺も、そこが気がかりなんだ。例年では、だいたい二十人から三十人は集まっていたんだが…どういうことだ」


「今はそれを考えても仕方がないですわっ。まだ時間はあるのですもの、もう少しだけ、もう少しだけ待ってみましょう?」


 団長の困惑した声に、反比例するように副団長は明るく励ます。


「来ないと思います。1時間も経ってるんですよ? 演舞もこの人数では到底できそうではないですし…(私が考えたものも、この人数では無理そう。応援団が使えないなら、今年は体育祭に出る意味もないかも)…心苦しくはありますが、私、抜けますね」


 そんな副団長の心遣いは無駄だと主張するように立花は一刀両断で否を唱え、残念そうな顔を一瞬だけ作ってから、ここにはもう用はないとでも言いたげにスタスタと口を挟む隙もなく教室を出て行ってしまった。


 それをみた他の団員がちらちらとお互いに顔を見合わせる。

 彼、彼女らも抜けるのか迷っているのだとわかった。


 …このまま人数が減れば、できるパフォーマンスの種類もゼロに近くなって、紅組に入るポイントも減り、勝率が下がることに直結する。



 それは阻止せねばっ!



「はいっ!!」


 教室にいる全員が私に注目する。

 意気込むあまり、思ったよりも大きな声が出てた。


「提案があります!」


 しんと静まり返ってしまった教室の中で、少し間を開けて副団長から発言の許可をとった。


「この演舞を、少しアレンジするのはどうでしょう! パフォーマンスで使えるマジックはいくつか考えてきました! ―――人数は予定より少ないのかも知れませんが、だからと言ってパフォーマンスができないと決めるのは早いと思います!」


「良くぞ言った!」


 私の提案に石川先輩が加勢する。


「お前がここに来た時から、お前のマジックを取り入れれたらとずっと考えていたんだ。それに、人数の少なさは小道具でカバーできる。心配しなくても俺が作った演舞で観客がシラけるようなことは、絶対に! ない!」


 話しながら、ポケットからヘアゴムとヘアピンを取り出し、髪を留めていく。最後に、露わになった強い瞳で周りに訴えた。


 風貌はテレビでみた昔の日本人といった雰囲気に似ていた。さむらい、だったかな?


「わかったなら、ここに名前と、連絡用にグループチャットを作る予定だから、ロインのIDも書いてくれ!」


 まさに勢いでゴリ押し作戦。


 紙を端に座っていた生徒に渡して一人ずつ書かせていった。作戦は成功したのか、私を含めた全員が団員になった。ちなみに、ロインなんてもの私が知るわけないので、堂々とメールアドレスを書いてやった。


「石川…わざわざ俺を団長にしなくても、やっぱお前がした方がよかったんじゃないか?」


 それを見ていた団長が石川先輩に話しかける。


「いや、団長なオレは、オレじゃない。それはオレが良くわかっている」


 また俺俺な理由で押し通してる。


「それより荒木、その使えそうなマジックというのをここに立って教えてもらえないか」


 体ごとこちらに向き直ったかと思いきや、私の腕を掴んでホワイトボードの前、つまりはみんなを見渡せるところまで引っ張っていき、ホワイトボードのペンを持たされた。


 これを使えと言っているらしい。


「…コホン」


 なんだか俺俺のペースに流されている気がするので、一つ咳をして一旦自分を落ち着かせた。


「マジックをパフォーマンスで使うに当たって、まずは私と約束をしてもらいます」


 どんなマジックが使えるかと考えていた時、パフォーマーとして同じ立場に自分以外が複数いるという点の所為でなかなか悩まされた。理由は然り、タネがバレてしまう恐れが十二分にあったからだ。


 そこで、私はリスクをなるべく下げるべく、オリジナルのものは今回使わない。既存のマジックに限定して選んだ。


 だからと言って、タネがバレても良いというわけでもない。


 ・マジック道具の下準備は全て私がする。

 ・タネについて詮索しないし、知ろうとしない。

 ・私たちがどんなマジックを演舞に使うかは本番まで極秘とする。(あっと驚かすため)

 ・破ったものは誓いの通り、針千本飲んでもらう。


 よって、以上のことをこの場で私と指切りしてもらった。


 指切りという恐ろしい誓約のお陰で、破るものはそうそういないだろう。


「――では、マジックの説明に移ります」


 一段落ついたところで、本題に入った。


 この後、パフォーマンスのアレンジ会議に移り、それぞれがアイディアを出し合って、集まった意見を石川先輩がまとめて後日『鳳凰学園紅組演舞、血龍の巻・改』を発表することになった。


「次回は早速練習に入る。掲示板に貼ってあった通り、部活と両立できるように、部活動時間をなるべく避けた、毎日夕方8時から2時間と、日曜の午前中からは紅組応援団の練習として、第2運動場を貸し切っている。時間通りにテント下に集合してくれ」


 団長の話を聞いた団員がザワザワしだした。「え?」「あれ?」「でも」と困惑している。私もその中の一人だ。


「団長、張り紙には変更と書かれてたんですが、違うんですかー?」


 団員の一人が聞いてくれた。

 困惑の原因はこれである。


 私も張り紙は確認してあるから知っていた。そこにははじめ決められていたであろう日時に細く横線がひかれてあり、隣に小さく『放課後から7時まで練習、日曜日の練習日時は変更予定』と書かれていた。第2運動場を整備するとかなんとかで、変更されたそうだ。


 その説明を団員から聞いた団長、副団長、石川先輩は目を見開いて驚いた。


「き、聞いてないですわ」


「…だからか…時間帯がまんま部活と被ってる」


 団長の指摘通り、明菜はこの前、C組とD組は部活生がほとんどだと言ってた。A組は勉強に特化した生徒が多いとも言っていた。一緒にリレーの練習を約束している坂倉さん、井上さん、菊月さんも塾やら家庭教師やらで放課後は夕方から忙しい感じだった。


 これが、人が集まらなかった最大の原因のようだ。


「…体育委員長に問いただしてくる」


 俺俺キャラの石川先輩はというと、静かな怒りを瞳に宿していた。


「石川、俺も行く。水谷も、来るだろ」


「えぇ、もちろんですわ。どういうことなのか聞かないと気が済みません!」


 団長と副団長もやはり怒っていた。


「張り紙の件、教えてくれて感謝する。練習の日時ははっきりと分かった時点で各自の連絡先に送る。今日はひとまず、解散だ!」


 そう言い残して、三人は多目的ルームを怒りのオーラと共に出て行った。


 三人が怒る理由は十分に理解できる。報告もなしに、勝手に練習時間を変更されて、しかもそれが原因で人数が集まらなかったのだから。


 練習日時もハッキリしていない中、私にできることは何もない。あとは三人に任せて、私も寮に戻ろうとカバンを手に取る。


 途中他の団員に話しかけられたが、それぞれと軽い会話をした後、用事があるのでと最後に伝えて、なんとか寮に戻ることができた。



 あれから数時間後。



 机に向かっていた私は、スキルの効果が切れた際に、携帯が点滅しているのが目に入った。応援団関係だと、すぐに気づく。


 メールは以下の内容だ。


『日時確定: 放課後、〜夕方7時。土曜、朝9時〜夜8時(1時間休憩挟む)

 場所指定: 第2運動場内、テント下。


 時間厳守。用事がある場合は予め連絡すること。


 では、また月曜日に』



 …結局変更後の日時になったようだ。 



 始まって早々、大丈夫だろうか。少し不安になってしまうのは仕方ないと思う。でも、初日とはいえ、マジックにアイディア会議と、ここまで足を突っ込んだのだ。後戻りはできない。やるからには、拍手喝采クウォリティーに加え、紅組の士気をどどんと上げて、得点も手に入れられるような演舞になるよう、とことん目指すぞ!


 よしっ、と改めて意気込みを入れて、その日は大人しく片付けられる勉強を片付ける前に、創也から見学できるか聞いてくれ、と言われていたのを思い出して、団長から来たメールに返信して聞いてみた。



 後日、見学はダメだって、と創也に伝えたのだった。


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