創也の気に食わないこと
創也視点です。
父さんと二人、居酒屋で話したあの日から、どうするか自分なりに考えた。
まず、俺が道奈にどうこうする以前に、そもそも道奈は恋愛に全く興味がない。今までの言動から十分にそれは理解した。だからそこから崩していこうと決めた、のだが…どうしたらいいのか分からない。ましてや相手はあの道奈だ。今までの他の女の子達のように通用しないことはすでに何度か経験済み。試しに恋人にするような行動を何度かとって意識させようとしてみても綺麗に流されるのがオチだった。
よって考えた挙句、引き続き、焦らずじっくりと、俺が側にいることが当たり前だと認識させながら、道奈が好ましいと言った『優しい』を続けることにした。これなら、俺をより好ましく思ってくれるかもしれない上に、道奈についてもより知っていける。そして何より、次の段階に進むまでの間、周りの牽制にもなる。
――――こんな面倒なことせずに、いっそのこと自分の気持ちを道奈に伝えてしまえばいいのではと、思った時も何度かあった。けれども、いざ言おうとすると、なぜか脳裏に道奈が悲しい顔をして離れていく姿が浮かんで、本能が待ったをかけるのだ。
しかし、現実はうまくいかない。
そう決めて、2ヶ月が経とうとする今日この頃。
日に日に、気に入らないことが増えていく。
例えば、この現在進行形で職員室前の廊下で道奈に話しかける別のクラスの男子生徒。
そいつを遠目から視界に確認しつつ、記憶の中の虫どもと照らし合わせる。
…こいつが道奈に近づいたのはこれで四度目だな。
懲りない虫にだけ効く殺虫剤とかあったら楽なんだが、そんなものないから俺が追い払う。
「――でさぁ、道奈ちゃぁん、せっかく体育祭で同じ紅組、しかも同じ種目に出れることになったわけだからさぁ、ここは勝つためにも今度良かったら一緒に」
「道奈。待った?」
「あ、創也」
ニヤニヤと気持ち悪い笑顔で話していた男子の話を敢えて遮り、道奈に声をかけた。道奈は俺の存在に気づいた途端に駆け寄り、俺の背中に隠れる。道奈が俺を頼っているのだと実感して思わず少しだけ口角が上がる。けどすぐ元に戻して平静を装った。
「遅れてごめん。先生の話が少し長引いてしまったんだ」
「全然待ってないよ」
ああ、背中越しに俺を見る道奈が可愛い。
「…えっと、お誘いはありがたいのですが、リレーの練習は同じクラスのリレーメンバーとやっているので大丈夫です」
道奈は俺に話した後、先ほどまで絡んでいた男子にきっぱりと断りを伝える。その間もずっと俺の背中に隠れ気味なところがたまらない。
「確か、君はD組の山下さんだね。リレーの練習なら先ほどD組が運動場でやっているって聞いたけど、そっちには参加しないのかな?」
穏やかに穏便に。けど貴様の魂胆は見え見えだと虚実を交えて暗に伝える。そして早くこの会話を終わらせて道奈と二人で帰りたい。
「え、あ、ああぁ、そういえば。今日、でしたか、ねぇ、はははは――」
「お互いとても忙しいと思うから、僕らはこれで。リレー、頑張ってね?」
二度と道奈に近づくなと目で威圧しながらも、やはり穏やかな態度は変えない。この方が色々と都合がいいからな。
「あは、はは。さ、さようなら!」
無事に波を立てずに今回も追い払うことができた。
「道奈、何もされなかった?」
「うん、大丈夫。相手は妖怪ナンパ野郎の予備軍だって創也が教えてくれたからね、警戒はずっと保ってたよ。…(創也がいなくても妖怪退治できるように何か方法を考えた方がいいかも…。)」
道奈は少しでも目を離すとすぐ絡まれる。それが一つ目の気に入らないこと。現に放課後の帰り途中で職員室に用事があるからと、廊下で少しの間、道奈に待ってもらっただけでこれだ。
以前、ナンパ野郎の話を使って警戒してもらうことに成功はしたが、道奈は流されやすいから油断できない。口車に上手く乗せられて悪い虫に連れてかれないか心配でしょうがないんだ。
…次は職員室の中で待ってもらった方がいいかもな。
次回のことは後で考えるとして、今は道奈との時間を楽しみながら、一緒に靴箱へと向かった。
「え、応援団?」
靴箱で靴を変えながら、道奈が唐突に言い出したのを鸚鵡返しで聞く。
「うん、もし今週の土曜日までに探求部の研究が終わったら、入ろうと思ってる」
「…」
道奈の行動を俺が制御できる訳ではない。
応援団に入るかどうかは、道奈の勝手だ。
だが、俺の目の届かないところで一人など、大丈夫だろうか。
心配なら俺も入ればいい話だが、応援団の張り紙によると、毎日の放課後と土曜日が消費されるらしい。
スケジュール的に難しい…。
無言になった俺を不思議に思ったのか、首を傾けて顔をのぞいてきた。可愛い。
「どうしたの?」
「…いや、ちょっと考え事してただけだ。――その応援団の練習って、見学とか行けたりできるか知ってる?」
「うーん、どうだろうね。聞いてみるよ」
一度なら、まだなんとかなるか。と頭の中で計算して尋ねてみた。
もし見学を拒否された場合でも…、うん、問題ない。応援団の練習に顔を出して、どんな人間がいるのか、見定めておこう。
そう決めてから、道奈とまた他愛もない会話を楽しむ。
来週からは道奈と放課後、こうして一緒に帰れなくなるということでもあるので、よりこのひとときを堪能することにした。
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「テレビ取材、来週の金曜日に決まったよ。あとでお知らせのプリントが配られるみたいけど、暁人と涼にも前もって知らせとくね」
昼休み。不破間圭の部室でいつものように昼食をとっていたら、道奈がテレビに関して伝えた。俺はあらかじめ電話で知っていたからいいものを、そんな重大なことをサラリと口にする道奈は相変わらずだと思った。
テレビ取材。これが二つ目の気に入らないこと。
そんな事態になってしまったら余計に虫が増えてしまうではないか。
「マジか! やべぇな! テレビ来んのかよ! …ふっ、その日はいつもよりキメてかねぇとな」
そんな俺をよそに、涼がなんとも呑気なことを言い出した。
「荒木撮りに来てんのに、なんでお前がキメんだ」
「鬼山はわかってねぇな。そうすれば、気持ち3倍はかっこよく映るはずだぜ」
「んなもん誰も気づかんだろ」
「いや。俺が気づく」
涼と鬼山の軽いやりとりを聞きながら、二人はだいぶ打ち解けたなと感じる。きっかけはやはり水合戦か。そういう俺も、前より鬼山と気軽に話すようになったな。むしろ親しくなった気がする。
「テレビですか…何事もなく済めばいいのですが、心配ですね」
「暁人もそう思う? 私もあんまり乗り気じゃないんだ。勉強を終わらせる時間が減りそうだし」
「今よりも騒がしくなりそうで、俺もあまりいい感じがしないな」
暁人と道奈の意見に俺も賛同した。
「三人とも心配性だなぁ。たまにはこういうのも刺激になっていいと思うぜ? な、鬼山もそう思うだろ?」
「別にそれで授業が面白くなるわけじゃねぇんだ。テレビが来ようが、俺には関係ねぇ。…ただ、あいつが絡んでんだと思い出すだけで、顔をぶん殴りたくなるがな」
久しぶりに慣れ親しんだ鬼の鬼山を見た気がした。
豹変が早いな。
確か、父親と不仲だったっけか。
「どうどう。オニ・ヤマ、紳士はいざって時以外はスマートに言葉で対処するものなのだぞ」
「わぁってるよ。だからまだ殴ってねぇだろ」
「うむうむ。良い弟子を持って、私は鼻が高いよ」
この二人のおかしな師弟関係は置いといて、腕を組み大きく頷きながら誇らしげにしている道奈が可愛い。
話が脱線してしまったが、テレビに関してはいつも通りで構わないと判断した。俺が何しようと編集でいいように変えられてしまうのがテレビだろうからな。
でも一応保険で一つだけ、対策をとることにする。これが果たしてどれほどの効果を持つのかは全く予想できないけど。それでもできることはしておくことにした。
少しでもこの気に入らない状況を変えるために。




