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体育祭種目決め&裁縫部


 暁人が黒板に体育祭の種目を書いていく。それを私はじっと眺めていた。心なしか、クラス全員が緊張している面持ちで暁人が書く種目に注目している気がする。


 現在は放課後前のホームルーム。体育祭の種目がついに決定したということで、誰がどの種目に出るのか、決めることになったのだ。ちなみに私たちA組とD組が紅組、B組とC組が白組だそうだ。



 ・大玉転がし


 ・玉入れ


 ・リレー


 ・障害物競走


 ・水合戦(一年クラス対抗)


 ・借りもの競走


  以下省略



「こちらが今年の体育祭の種目になります。種目決めを始める前に、体育祭の応援団団長よりお知らせで、入団希望の生徒は今週土曜日の昼1時に第3多目的ルームに集まるように、とのことです。詳しくは靴箱前の掲示板に貼ってあるので、興味のある人はそちらを読んでください。―――では、上から順に種目を読み上げますので、希望するものに挙手を。人数が多すぎる場合はじゃんけんで決めます。今回は団体戦のものもあるので、こちらは最後に大将決めを行う予定です。ではまず大玉転がしから――」


 勢いよく数名のクラスメイトの手が挙がる。そこから怒涛のじゃんけんが繰り広げられ、負けたものは膝を床につけて絶望し、黒板の種目を眺めてから『いや、まだだっ、まだ種目は残ってる…!』と希望を見つけ、大人しく席に着いた。


 そんな空気の中、私も早く選ばなくてはっ、とこれ以上遅れをとらないように決める。


 何にするか…。創也達の話だと、この中に天雷発案の種目が隠されているらしい。聞いた話は全て悲惨なものなので、なるべく当たりたくないところだが…どれがそれなのか見当がつかない。


「創也はどれにする?」


 よって創也の意見を参考にすることにした。


「…どれも嫌だ」


「…団体種目は除いて、最低一つは出なきゃダメなんだよね」


「…そうだ」


 創也が全て嫌だと思うものなら、どれを選んでも同じか。


「じゃあ、ここは女神様の言う通りで――――リレーかぁ」


 前回歌って言語補正が暴走してしまったので、今回は心の中で歌うに留めた。そして女神様はリレーをお選びになった。確か走って棒を渡していくルールだったか。シンプルなものがやはり一番だな。


「道奈はリレーか…あまり良い予感がしないな。本当にそれで決定?」


「うん。揺るぎないよ」


「そうか…じゃぁ、俺もそれにするよ」


「次はリレー希望の人、挙手をお願いします」


 創也も決めたところで、丁度リレーの番になった。


「はいっ!」


 女神様が選んだ種目になり気合を込めてなるべく高く挙手をする。人数オーバーでじゃんけんをすることになったが、ここは女神様が選んだ種目。無事に勝てて要望通り、私はリレーに出ることが決定した。がしかしっ、創也はじゃんけんに負けてしまったっ。


「……借りもの競走にするか……いや、やっぱり、ここはあえて障害物競走か…」


 じゃんけんの後、席に戻ってすぐに顎に手を添えて、黒板の文字を凝視しながらブツブツと悩みだした創也。切り替えが早い。そしてその悩む姿は真剣そのもの。うん。こっちはまだ決まるのに時間がかかりそうだ。



 その後も上から順番に種目を決めていき、創也は結局、障害物競走に決まった。他のみんなもそれぞれ決まり、団体種目である水合戦の大将決めへとうつる。


「こちらは初めての種目になるのでまずはルール説明から――」


 ちなみに、この種目。私が苦労して提案した種目の内の一つである。結局採用されたのはこの一つだけだった。ま、ゼロではないだけましだな。


 図書室で調べている時、サバイバルゲーム――通称サバゲ――という競技が目に留まったのがこの種目を提案したきっかけだ。2チームで対戦し、守りや攻撃などの役割を分担させて攻め合うところが、私の狙いである『力を合わせる』に近い気がしたのだ。

 創也からのアドバイスも盛り込んで、武器を水鉄砲に変えるなどしてから提案した。


「――そして先に大将が脱落した方の負け、というものとなってます。次回から体育の授業を使って作戦などの話し合いや練習の時間が設けられる予定です」


 作戦…ここは紅組が勝つためにも後でいくつか考えておくか。…そうしないと鳥羽なんとかとの約束を果たさないといけなくなる。


「大将希望の人、誰かいませんか?」


 勝つための策を考えていると、暁人が尋ねる。が、誰も挙手しない。暁人はやっぱりそうなるか、と言いたげな、諦めを含めた困り顔で教室を見渡す。


「…では推薦、」


 別の方法に切り替えて決めようとしたところで、一人の生徒がすっと手をあげるのを暁人の目が捉え、発言を途中で止めた。


「鬼山さん、質問でしょうか」


「…いや。誰もやんねぇなら、俺がやる」


 鬼山の思いがけない主張にクラスがざわめき出した。その聞こえてくるざわめきからは主に驚愕と不安が混じっているのを感じる。


 そんな周りとは違って私は弟子に感心していた。


 うむうむ、ちゃんと師匠である私の指示通り、紳士本に書いてあることを実行しているようだな。今のは、大将決めが難航しそうで困り気味の暁人を助けたことから、紳士第五カ条にある『困った人には手を差し伸べよ』を実行したと私はみた。


「お静かに願います。他に希望する人はいませんか?」


 暁人の問いで教室がしんと静まる。


「他に希望や異論がないのでしたら、水合戦の大将は鬼山さんに決まります。よろしいですか? …では大将は鬼山さんで」


 なおも静まったままの教室を見渡してから、決定を告げた。


「大将に続き、副大将も一人選ぶことになってまして。こちらは鬼山さんの推薦で決めることにします」


 暁人の『推薦』という言葉で一斉に弟子から目をそらすクラス一同。


「…林道、お前やれ」


「……わかった」


 渋々、といった調子で長い溜めの後、了承した。


 創也に決まるや否や安堵の息がそこかしこから聞こえた。

 みんな体育祭が始まる前から一致団結してないか。


 それにしても創也を副大将に選ぶとは、弟子もなかなか見る目があるな。創也はなんでもそつなくこなせるような万能人間だと私の中では思っている。加えて優しいし、きっと弟子の力になってくれるだろう。


 けど気がかりなことが一つ。


 ここまで紳士本を実行できたのはいいけど、無理してないかな? いきなり大将なんて大変そうだ。




 というわけで、寮の部屋でやること終わらせた辺りで、昨日に続き電話で聞いてみた。




「もしもし。今大丈夫?」


『あぁ、どした』


「ほら、大将することになったでしょ? 大丈夫かなぁって思って電話した」


『あれか。心配すんな。本に書いてあること守れば基本問題ねぇんだろ』


「まあ、そうだけど、人をまとめるのって大変なことだと思うから、何かあったら創也とか私に言ってね。力になるよ。ちなみに今から水合戦の作戦をいくつか考えようと思ってたところ」


『そりゃ頼もしいな。だが俺はやれるとこまでは一人でやってみるつもりだ。…それに天雷が考案したやつかもしれねぇからな。他の奴らもみんな必死に協力してくれるだろ』


「うん。当たり。そうだよ。『水合戦』は私が天雷会長に提案した種目なんだ。そこからアレンジするとか本人が言ってたから間違いないよ」


『…気、引き締めれたわ。あんがとな』


 弟子との確認を終え、電話を切る。


 少しの不安はまだぬぐいきれないが、着実に紳士の道を歩もうとしている弟子をみて師匠の私は鼻が高いぞ。この調子で行けば、弟子と友達になれる日はそう遠くないのかもしれないと思った。




 ****




 時は少し遡り、体育祭の種目決めをしたホームルームの後。


 創也父に呼ばれて先に帰ってしまった創也と別れて、


 私は裁縫部の部室の前に一人で立っていた。



 ついに、お詫びを成し遂げる時がっっ。



 お詫びの品と言っては何だが、差し入れのアーモンドチョコを3箱奮発して買っておいた。


 勝手に服を着てしまったお詫びをして、チョコを渡す。これだけなのだが、許してくれないのではないかという考えが頭を占めてしまっていた。あの服は出来がとても良かったのだから、職人気質な性格の可能性が高いとみた。きっと自分の作品に対する情熱もプライドも高かろう。


 それだけでも不安なのに、部室の中から怒声と奇声が聞こえるのだ。


「キエエエエイイイィィ!!」


「そるぇが終わったら次はこるぇぇだああぁぁ!!」


「「「サー!! イエッサアアアァァー!!」」」


「フウウウウゥゥゥ!!」


 その所為で、私は裁縫部の部室のドアを叩けずにいた。


「…中が変なことになってるけど、同じ学校の生徒だから、大丈夫大丈夫。心を込めて謝罪するのだ。許してくれなかった時は、どうしたら許してくれるのか、聞けばいい。大丈夫大丈夫――――」


 自分に言い聞かせるようにブツブツとドアの前でつぶやきながら。


 不安でどうしようもない気持ちに頭が占められている片隅で、未だ自分を客観的に見れる冷静な自分が、『なーにウジウジしてんだよ! 早く行け!』と嫌気がさしたように急かし出す。


 せめぎ合う二つの気持ちでパニック気味の私は、



 ―――えええい!! もう成るように成れだっ!!



 ヤケになってノックをすっ飛ばして勢いよくドアを開けてしまった。


 内心焦りながらも、取り返せない行動も引っ括めて、どうにでもなれえええ!! と、口を開いて出てきた言葉は、




「たのもおおおおおお!!」


 喧嘩腰だった。




 なんで喧嘩腰になるのだ私いいいい!!


 ドアを乱暴に開けて叫んできた女子生徒に、部員たちは思わず作業をしていたであろう手を止めて私に注目する。


 …流石にこれは、どうにでもなれええ、とはいかないぞ、私。


「え、えっと、驚かせてごめんなさい……ノック、では聞こえなさそうだったので…大声で、呼ばさせて頂きましたっ!」


 頑張って頭を回転させて絞り出した言い訳がこれである。


「…荒木さん?」


 この後どうしようか、ああしようか、いやそれもアウトだ、と頭の中で会議をしていると聞きなれた声がして視線を向ける。


「…早乙女先輩?」


 そこにいたのは寮の同じフロアに住む早乙女詩織だった。


 入学前に親睦会で知り合った後、寮で顔を合わせる度に挨拶をするくらいの仲なのだが、裁縫部に所属していたとは初耳だ。


「詩織、この子って例の子じゃない。知り合い?」


 早乙女先輩に質問していたこの生徒、口調だけ聞けば女性に聞こえる。が、声の低さと声の主を見れば、そうでないことが分かる。


 ま、色んな人がいるよね。


「同じフロアの後輩なの」


「い、一年A組の荒木道奈です! 今お時間大丈夫ですかっ?!」


 早乙女先輩の説明に、慌てるように自己紹介をして付け加えた。


「…ご覧の通り、取り込み中よ。キリの良いところで休憩に入るから、それまで待てるんなら、そこで座って待っててちょうだい」


 男子(?)生徒からそう言われたので、「はいっ!」と返事をしてから、部員の視線を引き連れて指定された席に座った。


 気にせずに宿題でもして待つか、と鞄を開けたところで、廊下で聞こえてた怒声を合図に奇声のオンパレードが再開される。


「気を取り直して、作業再開どぅああああ!!!」


「「「サー!! イエッサアアアァァー!!」」」


「キョエエエエエェェェイ!!」


 思わず部室を見渡すと、奇声を発している生徒の顔に心当たりがあった。



 …落合先輩。



 早乙女先輩と同じく、親睦会で知り合った落合美鈴。怪しい笑みを浮かべて奇声を発しながらミシンと呼ばれる布を縫う機械をガンガン操るその姿は、平常時の無表情からは程遠い。


 ま、まぁ、色んな人が、いるよね。


 若干引きつつ、この人たちが休憩に入るまで宿題をして時間を潰すことにした。

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