ついに理事長からも
約一年ぶりの更新です。
待ってくださった方々、ありがとうございます。
ストックがやっと溜まったので放出します。
生徒指導室で鳥羽なんとかと指切りをしてしまった次の日の放課後。
さてさて今日こそはっ! と予てから心に留めておいた『裁縫部へのお詫び』をしに行こう思ったら、担任の鷲崎先生から呼び止められた。
「理事長先生からマジックの件でお話があるそうなので、えー、今から一緒に来て下さい」
…何の用だろう。心当たりがありすぎる。
靴箱の手紙の呼び出しに続き、天雷会長、生徒指導室、と再三呼び出しが続いた私。
流れからして、生徒指導室での説教に加え、理事長からもミニ爆発マジック(煙多め)を廊下で爆破したことに物申すつもりなのだと予想する。
貴様ああ! 我の学園でマジックなど好き勝手にやりおってええ! 退学じゃああ!!
みたいなことを怒鳴られるのだな。
ま、会ったこと無いから、勝手な妄想なんだけど。
いやでも、前向きに考えると、もしかしたら私のマジックの評判が耳に入って直に見たくなっただけなのかもしれない。
そうなのである。あのマジックの動画の広がりように比例して、私のマジックの評判も高くなっている、気がする。最近ずっと褒められっぱなしの所為で、そう思うようになってしまった気もする。
いかんな、最近考えがたるみがちだ。引き締めよう。
「…おい。あいつに呼ばれたのか」
気を引き締めていると、鷲崎先生の話が聞こえたようで、弟子が私に聞いてきた。
『あいつ』というのは弟子の父親である理事長を指すのだと解釈する。
「うん。何の用かわかんないけどね。というわけだから、創也、今日は無理っぽい」
前半は弟子に、後半は一緒に私と裁縫部に行こうとしていた創也に伝えた。
「…念のために、終わったら電話で何があったか教えてほしい」
「俺にも教えろ。…あいつが何企んでんのか知っときてぇ」
私よりも深刻な表情で言う二人。弟子に至っては彫り込まれたように深い眉間の皺を作っているし、その発言は恰も今から起こるのは悪い事だと言っているようだ。
「う、うん。わかった。とりあえず、行ってくるね」
そんな二人に感染したように余計不安になってしまって口吃る。
かと言って、学園の頂点に君臨する者の呼び出しから逃げられるはずもなく、大人しく鷲崎先生と一緒に教室を出た。
鷲崎先生が大きくて立派な両開きの扉をコンコンと叩いて入室の断りを入れてからガチャリと開ける。
扉上の札には、これまた立派で上品そうな文字で『理事長室』と書かれていた。
それを横目で見ながら鷲崎先生に続いて私も部屋に入る。
入ってすぐ、目に入ったのは、大男。
部屋の正面奥に座るその男。机や周りの物とのサイズ感が合わない。備え付けられた物単体で見れば、あぁなんて立派で重厚感のある机なんだ、とか思うはずなのだが。大男の所為でそう思えない。残念な感じだ。
「こちらが、えー、私が担当している一年A組の生徒の、えー、荒木道奈さんです」
鷲崎先生に紹介されたので大男に向かって、ぺこりとお辞儀した。
流石の私も気づいているぞ。この大男がこの学園の理事長であり、弟子の父親だな。弟子の身長の高さは父親譲りのものらしい。顔も強面な感じがどことなく弟子を思わせる。
「鷲崎先生、ここまでありがとう。さあ、そこのソファーに座りたまえ」
そう言って、理事長自身も立ち上がりソファーへと向かう。立ち上がると余計にその人の大きさが目立った。
促された通りに、ソファーに座る。私は鷲崎先生の横に座った。が、座った瞬間、半分体がソファーに沈んだ。これも他の物同様、上質な物らしい。前の世界とは技術が格段に上の地球で作られたソファー。上質すぎて座り心地が合わないと思う自分が複雑だ。
大男の机の側に控えていた男性がどこからともなく用意した人数分のお茶を机の上に置いたのを合図に、理事長が口を開く。
「君が荒木君だね。噂はかねがね聞いている」
お腹に響くような低い声。そして座っていても目線をあげないといけないくらいの巨漢。だが今まで私が見てきた人の中で一番…濁った瞳をしているように見えた。
「実はだね、テレビ局や雑誌からいくつか君の取材と出演依頼がきていてね。特に、学校での君を是非取材したいそうだ」
…ん?
てっきり説教されるのかと思って身構えていた私は、肩透かしを食らってしまった。
ホッとしつつも、ついにテレビに映る事態にっ、余計に広まるではないか! と私にとってあまりよくない話には変わりないと判断する。
それに、そう話を切り出す大男は未だ私に挨拶も自己紹介もしていないぞ。紳士とは言えない言動だ。
「先に君の保護者である祖父に伝えたんだが、判断は君に任せると言われたよ」
なんと、じっちゃんは既に知っているのか。
「我が学園にとって、これはとても光栄なことだ。私は学園での取材を全面に協力するつもりだから、君も気兼ねなく承諾してくれて構わない」
上から目線でちょっとムカつく。ま、学園の頂点にいる人だからこれがデフォルトの態度なのかも。
それにこの人、すでに私が取材を受ける前提で言っている気がする。何か勝手に決めつけてないか? 気兼ねなく承諾するもなにも、
「その取材依頼は、お断りしますと、伝えてください」
理事長の笑みに驚きが少し混じる。
「…それはなぜかね?」
「授業に支障が出そうですし、これ以上私の素性が広まるようなことをしたくありません」
姿勢をピンと伸ばしたまま、大男の濁った目から逸らさず、少しの誤解も招かないようにはっきりと理由を伝えた。
「基本は君の日常の風景を取材するのと、インタビュー、そして噂のマジックを披露してもらうのと、途中から我が校の宣伝を少しだけ。その日の授業に関しては気にしなくてもいい。私が大目に見るからと、私から先生方に伝えておこう。それに、既にここまで知られているんだ。これ以上広まっても変わりはないだろう。もう一度よく考えてみてくれ」
学業をおろそかにして苦労するのは私だ。この人ではない。
他人事だと思っているのが丸わかりの意見だな。
自分本位な貴族を思い出してムカつきが増した。
複数取材が入っていたと言っていたから、内容からして一日では終わらないものなのだろう。この人の口調からして、私の授業時間を消費してでも取材時間を確保させたいらしい。
でもなんで?
依頼を受けているのは私のはずだ。その本人が嫌だと言っているんだから、もうそれでいいじゃないか。
この人がそうする理由が分からないので、聞いて見る。
「なぜそんなに私に依頼を受けさせたいのですか?」
「なぜもなにも、我が学園にとって、とても光栄なことだからに決まっているだろう?」
テレビが来ることは、そんなに光栄なことなのか?
未だよく分からないが、きっぱり断ってなお、こうして説得してくるくらいだから、どうしても私に取材を受けさせたいのは理解した。
でも私は嫌なのだ。
だから、ここはお父さん直伝の妥協点探しを開始する。
「…条件をいくつか飲んで下さるのなら」
「…聞こう」
少しだけ面倒臭そうに表情が動く。
微笑んでいるようで、目が全然笑わなくなった。
「今後の取材や出演依頼は一切受けないことを前提に。出演依頼はまず全て断ってもらいます。取材するのは授業一コマだけで。取材依頼はいくつかあると言いましたよね。その全てを一日で一気に終わらせられるというなら、前向き考えましょう」
これが私の押す折衷案。
テレビ取材というのは非日常のことだと知っている。そんなものが何日も学園に来れば、平和な学校生活が余計に送れなさそうだ。よって、これを手っ取り早く済ませる案に、大男の要望を少しだけ入れ込んで出してみた。
「はっはっは、随分と無茶なことを言う。大人には大人の事情というものがあるからね、それを知らない子供は黙って大人の言うことに従うのが一番だ」
増えつつあったムカつきは、この発言を境にドンっと肥大化したが、ここは抑えて相手を追い込む。
「ならこの話は聞かなかったことにします。無理にでも私に取材を受けさせようとするなら、学校、休みます」
「君、大人を困らせるんじゃない」
先ほどの発言が未だ頭にこびり付いていた所為か、
これだから子供は、と副音声で聞こえた。
こいつ、それでも教育者か。
弟子があんな風になった理由がなんとなくわかったぞ。
「先ほど、授業に関しては気にしないでもいいと、おっしゃってたようですが。そう思える程度の時間で取材が終わる根拠が欲しいのです。授業一コマだけ取材するなら、確かに授業に支障はないと思えます。なので、その取材依頼した人たちには、この条件を飲んで頂かなければ依頼は受けない、と伝えてください」
「そうか。それなら、授業に支障の出ない昼休みや放課後は取材を受けれるね?」
気の良さそうな笑顔を作って少しでも取材時間を増やそうと試みる大男。
放課後はともかく、このままでは私の休み時間が脅かされそうだ。
「昼休みも勉強しているので、放課後でしたら」
嘘ではない。昼休みは社会勉強という名の雑務をテレビ男の元でしている。
それに、放課後なら色々と理由を作って途中から切り上げたり融通が通せるかもしれないので、これは妥協してあげた。
「ひどく勉強熱心なようだが、一日に限定するとその日の負担が大きくなってしまう。本当にそれでいいのかね?」
確かにそうだが、嫌なことは一気に終わらせるタイプだ。
それに一見気遣っているようにも聞こえるこの発言。最初に自分の学校の宣伝とか言ってたし、加えて今までの私を軽く見るような態度から考えるとと、ただ単に、数日にわたって一つ一つゆっくり取材させて取材時間を伸ばしたいだけなのだろう。
ふん! 思い通りにさせてたまるか!
「構いません」
即答で言ってやった。
「…」
頑なな私にこれ以上何も言えなくなった大男からフッと表情が消える。強面で無表情だと迫力が増すのだな。話も終わったことだし、この状態の大男から何か言われる前に速やかに帰ろう。
「この後も帰って勉強しないといけないので、帰りますね。さようなら」
すくっと立ち上がって、返答も待たずに扉に向かう。
「…詳しくは鷲崎先生を通して伝えよう」
背後で何か言っていたが、重要なことではないだろう。
鷲崎先生と一緒に帰らないといけない訳ではないので、先生も置いて一人でスタスタと部屋を出た。
週一のペースで投稿予定です。
また、大まかに今での投稿分を全て改稿・修正しましたが、ストーリーに変更はありません。
よろしくお願いします。




