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生徒指導室で天雷と再度接触


「困るんだよねぇ。こんなことされちゃぁ」


 今は放課後。私は、説教と言うものを生徒指導室で受けている。


「おかげで消防を呼ぶ寸前までいったんだから」


 昨日の放課後。天雷からの逃亡に使ったミニ爆発マジック(煙多め)が問題になっていたようだ。特に煙多めというのがいけなかったらしい。防犯カメラで監視していた警備員の人が火事だと思い、現場に職員を向かわせて状況を確認する等、私が知らない間に騒がせてしまった。


「すみません…」


 謝るしかない。言い訳もしない。


「それに中庭の倉庫の上を渡ったそうじゃないか。落ちたらどうするんだね。ちゃんと渡り廊下を通りなさい」


「…ごもっともです」


「次、同じようなことがあったら、保護者も交えて話し合うことになるからね。二度としないように」


「はい…。本当にすみませんでした」


 逃げるためとはいえ、周りに迷惑をかけてしまった。罪悪感でいっぱいである。首はずっと下げ俯き気味に謝り続ける。


「はあぁ。天雷くんに感謝するんだね。彼のおかげでこの一件が大ごとにならずにすんだんだから」


 爆発マジックを使用した要因である天雷会長が手を回してくれたらしい。感謝したいところだが、素直にありがたいとは思えない。


 複雑な気持ちになっていると、ガララララと背後で生徒指導室のドアが開く音がする。


「失礼します」


 背後から聞こえた声で瞬時に誰なのか分かった。


「おぉ、天雷くん。悪いねぇ、本来は私たち教師がやるべきことなのに」


「いえいえ。どうってことありません。先生もお忙しいでしょう。この後は私に任せてください」


 え。


「助かるよ。この後同じ学年担当の先生方と話し合いが入っていたところだったんだ。そうさせてもらうね」


 教師は説教を中断し、天雷と交代するように部屋から出て行った。


 …私は天雷会長からも説教を受けるのか。


「さて。今日なら邪魔が入らないな」


 そう言って、先ほどまで教師が座っていた正面の席に座る天雷会長。


「…先生から説教を受けるのは分かります。あなたから受ける筋合いはありません。ただ、昨日の件を対処して頂いたことには感謝します。ありがとうございました」


 説教に関しては拒否するが、一応お礼は伝えた。助けられたのは事実だ。そしてすぐに帰ろう。創也から昨日注意を受けたばかりだ。


「構わん。それに俺は説教をするつもりはない」


「なら帰っていい――」


「お前、体育委員会に入れ」


 人の話を聞かないか。しかも急に何を言い出す。そんなもの、


「お断りします」


 これ以上スケジュールが入ると私がパンクする。


「ふっ、即拒否するとは」


 …人の話を聞かずに言い出して、よく肯定される前提になれるな。


「用が終わったなら帰りますね」


「待て。俺の話はまだ――」


「待ちません」


 向こうが人の話を聞かないのなら、こっちも聞かないまで。立ち上がり、部屋を出ようとドアを開ける。が、そこにはまた壁が。


「よう。もう話終わった?」


 壁でなく人だった。猫のような目を見て思い出す。この人は昨日放送で創也と呼び出しされていた鳥羽なんとかって人だったか。


「まだだ。そのまま席に連れ戻してくれ」


「りょーかい。道奈ちゃん、彼の話、最後まで聞いてあげよ?」


 質問してる風に言う割には、ドアの前から動いてくれるつもりがないのが見て取れる。


「はあぁ…。手短にするのでしたら」


「ありがと。じゃぁ席に戻ろっか」


 渋々了承し、また席に座るが、後ろから鳥羽なんとかの視線を感じる。その人も部屋に入りドアの前で立って私を見てるようだ。


「もう一度言う。体育委員会に入れ」


「お断りします」


「鳥羽。また断られてしまった。どうしたらいい」


「あはははは、霈が今までそれに頼りすぎなんだ。時には頼らず人を説得するくらいしてみろ」


「説得か。やってみよう」


 フェロモンとやらが使えないと実感した今、ますます怖くない。むしろ天雷会長が間抜けに見えてきた。


「お前、好きなものはなんだ」


 また唐突な。


「空です」


「…欲しいものは」


「平穏」


「…他に具体的な物で」


「あ、ノートが使い終わりそうなので、そろそろ新しいものを買おうと思ってます」


「よし。体育委員に入れば俺が買ってやる」


「自分で買えます」


「ぷっ。くくくく」


 背後から笑いを堪える声が聞こえてきた。


「…あぁ。面倒だ。もういっそのこと手っ取り早く――」


「霈、昨日の俺の言葉覚えてっか?」


 立ち上がりかけた天雷を言葉で抑えるように鳥羽が話す。


「…はああぁ」


 浮いた腰をまたおろし、ため息をつきながら片手で頬杖をついて私を見た。


「…どうしたら体育委員になってくれる」


「まず、なぜ私を体育委員会に入れさせたいのか理由を教えてください」


 天雷会長が何がしたいのか未だ分かりかねる。そんな状態で『入りましょう』などと言えるわけがない。


「効かない人間でも思い通りに動かせるようにしておきたい」


「ひーさーめー、それをやすやすと教えちゃったら余計に逆効果だよ」


 鳥羽の言う通りだ。そんなこと知った上で誰が入るもんか。


「…なら鳥羽。お前がしてみろ」


 天雷は少し苛立ち気味で席を立ち、近くの壁に寄りかかった。


「はああぁぁ。わかった。よく見てろよ」


 そして今度は鳥羽が私の正面の席に座る。…いつまでこれに付き合わされるんだろう。


「道奈ちゃん、体育委員会に入れば、手紙で提案した種目を全部盛り込んであげる。どう? 入る気になった?」


 なるほど。取引で入れる作戦か。だが、


「とても魅力的なお話ですが、お断りします」


 スケジュール的に無理なのだ。他にも断る理由はあるが、それが一番大きい。


「ふっ、鳥羽、お前だってできてないぞ」


「霈は黙ってて。――道奈ちゃん、断る理由は何かな?」


「時間的に余裕がないのと、楽しくなさそうなのと、体育委員会が何をするところなのかいまいち分からないこと。そして体育祭に出るのは今回が初めてで力になれる気がしないこと。他にもまだ理由はありますけど、全部聞きます?」


「そんなに…一つ一つ説得したいとこだけど、時間が足りないね」


「私も時間がありません。もう帰ってもいいですか? あとできれば今後関わらないで頂けると助かります。するなら文通で」


「んな面倒なことできるか。用があればまた呼びに行く」


「なら普通にしてください。昨日みたいにわざと私が警戒するようなことされると困ります」


 創也を職員室に呼んで私を一人にしたり、周りの生徒を遠ざけて無音の廊下にしたり。


 そんなの誰だって警戒してしまう!


「少しは怯えてくれると思ってやったんだが、怯えるどころか元気に逃げ出したな。そこはがっかりしたが、逆に楽しめたところもある。次は新しいパターンで望もう」


 こやつも人の話を聞かない類か。


「…なおさらそちらの要望は受け入れられません」


「霈、俺の話が終わるまで黙ってて。――道奈ちゃん、ならさ、高等部に上がった時に生徒会に入るのはどう?」


「高等部…?」


 急に三年後の話が出てきて困惑する。


「俺としては、霈のが効かない貴重な生徒(人材 )は体育委員に入ってもらう(で消費する )よりも生徒会に入って欲しいと思ってるんだよね。今年は役員がすでに揃ってるから無理として、高等部の生徒会なら火宮くんもいるだろうし、道奈ちゃんが入れば林道くん(君の番犬)も一緒に入ってくれるかも」


 生徒会か。よりたくさんの人に出会うきっかけになれる気がするし、暁人がいるから入っても別に構わないかもという気持ちはある。創也も入るならなおさら。だけども、


「高等部に私が進んだ場合に、また改めて考えてもいいですか?」


 中等部を卒業した後は学校を辞めてじっちゃんの店の手伝いを重点的にしようと思っている今、私が高等部で生徒会に入る姿が全く想像つかない。


「え? このまま鳳凛学園の高等部に進まないの? わざわざ他校受ける気?」


「他校に行くというよりは、高校に上がるかどうか、まだ決めかねてます」


「中卒予定!? それはやめた方がいいよ。道奈ちゃんはA組にいるくらいだから、成績はいいんでしょ? なのにあえて中卒になろうとするとか…。親御さんは何かそれについて言ってない?」


「まだこれについては話してないです」


 私の一言にしばらく黙って何か考え込み出した鳥羽なんとかさん。


「…実はね、負けたチームにはペナルティーを用意してあるんだ。その方がみんな体育祭で勝とうと必死になると思わない?」


「…そうですね。ほどほどに嫌がる程度ならいいのでは?」


 突然の話題転換に少し戸惑ったが、確かにそれならクラスみんなで力を合わせやすくなりそうだと同意する。


「それと同時に、体育祭の優勝賞品として学食無料券を出したら、もっと頑張ると思わない?」


「私も頑張ると思います」


 ご褒美があった方が頑張るに決まってる。そしてその無料券はご褒美としてとても魅力的だ。


「でも出すかどうか迷ってるところなんだ。予算的にキツいからね」


 そうか…。確定事項ではないらしい。無料券…欲しいな。いつもはテレビ男に遠慮して、いや借りを作りたくなくて、値段が高めのご飯は注文できていないのだ。いつも安めのものを日替わりで頼んでいる。無料券があれば…食べたことのない高級料理を味わえるのに…。


「ぷっ、ここでがっかりしてる道奈ちゃんに提案。体育祭で道奈ちゃんのチームが負けたら鳳凛学園の高等部で生徒会に入ってくれると約束してくれるかな? そしたらなんとか優勝賞品に学食無料券を出せるように奮発して頑張るとこちらも約束するよ」


 こやつ、交渉のなんたるかを心得てるな。


 ここで約束しても勝てば問題ないと思わせられる。逆に負ければ相手の思い通りになってしまうわけだが、そこはお互い平等に我慢ができる内容だ。


「いいでしょう」


 小指を前に出した。


「成立だね」


 鳥羽なんとかさんも小指を出して絡ませる。


「「指切りげんまん、嘘吐いたら針千本飲ます。指切った」」


 指切り、してしまった。もう後戻りはできないな。脅しの歌で約束に重みができた気がした。


「……」


 私たちの話をずっと黙って聞いていた天雷会長から不機嫌なオーラが放出され出す。


「な? 俺の手にかかればこんなもんだね。後はー、それまで色々と(根回しとか)しなきゃいけないことができたところだし。霈、ぶつくされてないで帰るぞ。道奈ちゃーん、またあおーねー」


「……」


 ぶつくされたまま無言の天雷会長と一緒に、鳥羽なんとかさんは、ひらひらと手のひらを揺らしながら、上機嫌に生徒指導室から出て行った。




 部屋に一人残された私。




 …約束してよかったのだろうか。一人になって今更後悔しだす。


 ま、要は勝てばいいのだ。勝てば。体育祭の準備として体力作りも隙間時間にするとするか。


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