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救出と救出?


「まず、お前が提案したこれらの種目。意図はなんだ」


「初等部での運動会の話を聞いたら、ほとんどが個人戦だと言われて、せっかくだからクラスみんなで力を合わせれるような種目があればいいなと思っただけです」


「他意はないんだな。…サバゲか…」


 しばしその人は考えたのちに、私を見る。


「少しこちらでアレンジさせてもらえるなら考えてやってもいいだろう」


「本当ですか!?」


 試してよかった! 諦めなくてよかった!


 ここまで来るのに苦労を重ねた――特に今日――甲斐もあって、達成感は倍になった。先ほどまで警戒で引き締めていた顔を思わず綻ばせて、お礼を伝える。


「ありがとうございます!」


「…おかしいな」


 私が喜んでる側で妖美な顔に困惑した表情が足される天雷会長。


 スルーしてさっさと立ち去るか。あ、その前に着替えないと。


「お前は俺といて、何も感じないのか」


 帰りを提案しようとしたところで唐突に聞かれる。

 フェロモンのことか。


「今のところはまだ。距離があるからじゃないですか?」


 人が二人立てるくらいのスペースを空けて、お互い座っている。言いなりになりたいと思うような気は全く起きていない。


「さっきまで近くにいただろ。すでに効いているはずなんだが」


 そんなこと言われても私が知るわけなかろう。


「もう一度試してみるか…」


 立ち上がり、私に再度接近して来る妖しい奴。反射で私も立ち上がり、距離を取るが、狭い倉庫の中でとれるような距離もさほどなく。あっけなく接近を許してしまった。


「何か。心拍数が上がったりとかは」


「…ないですね」


「顔に赤みも出ずか。まさか俺のが効かない人間が身内以外で存在するとは」


 そして何か良からぬことを企むような顔に変貌する。


「…効かない人間は、どうすれば思い通りにできるんだろうな?」


 急に雰囲気が変わった。潜在的な私が逃げろ!と言っている。


「あの、じゃあ、私はこれで――」



 ブーー。ブーー。ブーー。


 ガチャガチャガチャ、ドンドンドンドン!



 ポッケに入っていた携帯のマナー音と共にドアを叩く音が突然けたたましく倉庫内に響く。



『もしもーし。みっちゃーん、電話に出よっかあ』



 携帯の方は自動的に通話になり、この状況に全くそぐわない呑気なテレビ男の声がポッケから出た。



 ほ、本当に3コールで出た…! 怖っ!



 さっきまでの動揺がテレビ男の恐怖に塗り変わる。



「道奈! 俺だ!」


「創也!」



 そして創也の声もドア越しに聞こえて、安堵の気持ちに今度は包まれた。



 …感情の振り幅がせわしない。



「邪魔が入ったか。続きは今度だな」


 不穏な言葉を残して、天雷会長はドアへと向かい、ガチャリと鍵を開けた途端にドアが勢いよく全開に開かれた。創也が反対側から思い切りドアを開けたらしい。



 薄暗かった部屋に明かりが差し込み少し眩しく思いながらテレビ男に返答する。


「もしもし。どうしました。今取り込み中なんですけど」


 本当にこの機能どうにかならないものか。


『んー、あ、研究の進み具合はどんな感じかなあって思って?』


 そんな理由で電話をかけないでほしい。と不満の一つでもこぼしたいところだが、早く通話を終わらせたい。素直にテレビ男の質問に答えた。


「順調です。体育祭が始まる前には終わるかと」


「そっかー、早いねえ。それとー………男と狭い空間で二人きりにならない方がいいよ?」




 ――これが、今日で一番恐怖を感じた瞬間だった。




 ゾーワワワワワッ!!!



 背中の駆け回り具合から、毎度お馴染みの悪寒さんですら怯えてるようだ。



 なぜこの場にいないテレビ男が知ってるのかっ。



 …天雷会長とか全然比べ物にならないくらいこいつの方がやばい。危険だ。鳥肌が立ちまくった腕をさすりながら、そう確信した。


「…き、切りますね」


『バイバーイ』


 電話を急いで切って。周りを見渡す。


 防犯カメラはどこだ! それしか方法が思い浮かばない!


 案の定、天井の隅に一つあった。


 い、いつから見てたんだ。どうしよう、着替えが――


 そこまで考えて止める。ないないない。はっはっは。私が認めない。ほら、着替えた場所はちょうど防犯カメラの死角の位置ではないか。やれやれ、早とちりも困ったものだ。


 なんて私が一人であたふたしてる間に、どうやら天雷と創也は何か話していたみたいだ。


 そして天雷が部室から出て行く。それを創也は距離を取りながら睨みつけていた。天雷のフェロモンは男にも通用するものらしい。厄介だな。


「道っ…道奈?」


 創也は私に駆け寄ろうとしたのを止めて私の姿を上から下まで眺める。


 あ、そうか。擬態したままだった。それよりもまず、


「創也! 来てくれてありがとう!」


 創也に近寄ってお礼を伝える。


「これはマネキンのふりをしてたんだ。創也に貸してもらったカツラも使ったんだよ?」


 そして今の状況を説明しながらカツラをとった。これって意外と蒸れるものなのだよ。


 カツラをとった拍子に中にしまっていた私の黒髪がサラリと肩に流れる。


「……やばいな」


 私の姿から目を離さずそう呟いた。そして顔はほんのり赤みがかっている。もしかしたら、学園の規則を破ってまでして走って来てくれたのかもしれない。

 そう思ったら嬉しくなった。


「ここまで来てくれて、嬉しい」


 素直に出来た笑みと一緒に伝える。


「…」


 創也は無言のまま、未だに私の姿から目を離せていない。


 えっと、私はどうすればいい。そろそろ帰りたいぞ。


「…創也?」


 創也は私が今着ている服から、私の目へとゆっくり目線を合わせると、ハッと我に返ったように私に近づき、切羽詰まったような言い方で私に詰め寄った。


「道奈! 大丈夫?! あいつに近づいたろ?!」


「何もされてないし、フェロモンも効かなかったみたい」


「え…フェロモンが、効かない…!? 本当に!?」


 目を大きく開いて驚きをあらわにする創也。声色には安堵も少し混じっていた。


「うん。それが逆に興味持たせちゃったみたい。また今度、とか言われた」


「はああああぁぁぁ」


 創也は深く嘆息しながら私の肩に頭をもたれかけた。

 ここまで来る為に疲れさせてしまったようだな。


「…今回のは本気で焦った」


 大分心配かけてしまったようだな。


「…でも本当によかった。あいつのフェロモンに当てられたらと思ったら気が気じゃなかったよ」


「言いなりになるらしいね。でも暁人とかも平気みたいだったし、意外と…あ、でもフェロモンが効かない人は身内以外で初めてって言ってたかな。どういうことだろう」


「あいつは基本、自分の部下には使わないんだ。指示通りにしか動かない部下は業務的には不便だからな」


「…創也、本当に私と同い年?」


「ははっ、そういうのも徐々に習い始めただけだよ」

 

「そっか。創也も大変だね。――そろそろ帰ろうかな。やることあるし」


「そうだな。でもその前に…ちょっと動かないで」


 なんだ。何をするつもりだ。


 そう思って創也の行動を目で追っていく。


 ポケットからスマホを取り出して?

 裏面を私に向けて?


 カシャリ。



 …写真か。また突然な。



 太眉猫さんを撫でてる時も写真をとってたな。そういえば、その時はスマホの新事実に気を取られて言いそびれたことがあったんだ。


「創也、写真撮るなら一緒に撮ろう?」


「…そうだな」


 とても嬉しそうな笑顔で言ってたので、提案してみて正解である。


 創也の隣に近寄って創也が高めに持ち上げたスマホの画面を見た。そこには、私と創也の姿がっ!


 カシャッ。


 撮った写真には驚いた私の表情とほんのり顔の赤い創也。


「えっと、もう一回いい? あと、私の携帯でも写真撮ってみたい!」


 カメラ機能を使う時がきた!


「もちろん。たくさん撮ろう」


 え、いや。そんなには。何回かで十分かと。


 そうは思っても口に出せないほど、先ほどとは違って、創也の表情はとても良いものになっていた。




 あの後、撮影会を少しの間して、創也には部屋を出てもらい、制服に着替えた。もちろん防犯カメラの死角で。そして裁縫部の人の作品を、流れではあるが、勝手に使ってしまったことに少し負い目を感じた。


 うーん。良識のある乙女としては謝りにいくべきか?


 などと考えながら帰る支度を終わらせた。


「お待たせ。遅くなったね。今度こそ帰ろっか」


「うん」


 二人で寮まで帰りながら、ポツポツと話した。


「…天雷と何があったか詳しく教えて欲しい」


 話の中にはもちろんさっきあった出来事も含まれるわけで。


 廊下で待ち伏せていたこと、中庭の倉庫の屋根を伝って北校舎に向かったこと。そこでマネキンに化けて隠れたこと。見つかって、話し合い、提案を承諾してくれたこと。


 順を追って創也に説明した。


「…」


 説明を終えた後も創也は黙って考えにふけっている。


「ねえ、さっき創也も何かあの人と話してたよね? 何話してたの?」


 私の声で考えから抜け出した創也が私を見る。


「…話ってほどの内容じゃなかったな。道奈は気にしなくてもいいよ」


 何か私に隠してる感じがする。つまり、私に聞かせたくない話をしてたということか。

 今は追求しないでおこう。無理やり聞き出すほど野暮ではない。


「何はともあれ。目標は達成できたから、もう関わるつもりはないよ」


「…道奈はそのつもりでも向こうがそうじゃないなら意味ないだろ」


「フェロモンは効かないみたいだし、創也たちもいるし。何より、天雷会長。そんなに怖くなかったかな」


 今のところ、偉そうで妖しい靴下大好き人間だ。


「油断されると余計に心配なんだけど」


 創也からジト目をもらった。


「なんかね。どうしてもテレビ男と比較しちゃうんだよね。テレビ男よりもやばい存在って人族ではいない気がする」


 あ、そもそもテレビ男は人族のカテゴリーに入れちゃダメだね。得体の知れない、いかれた思考回路を持ったテレビ族だ。


「…油断の原因は不破間圭か」


「テレビ男に比べたらまだ天雷会長は人間に近いから。全然まし」


「…でも道奈、忘れちゃダメだよ。ナンパ野郎の予備軍の存在を。もしかしたらもうすでにナンパ野郎に成り果ててるけど隠してる奴もいるかもしれない」


「ハッ、そうだった! もしかして天雷会長もそうかもしれないってこと?!」


「大いにありえるな。だから警戒は怠らないように。あと、今回みたいに二人きりになるような場所にも一人で行かないように」


「わかった」


 真剣に深く頷きながら創也に答えた。


 そうだな。油断禁物だ。現に最後の方で天雷会長の様子がおかしくなってたしね。ナンパ野郎の本性を出す予兆だったようだ。




 けれども、再度ナンパ野郎に近づかないように気をつけると心に刻んだその次の日に天雷会長と接触してしまうことになる。


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