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放課後、手紙と手紙


「あれ、誰もいない。早く来すぎたかな」


 屋上で周りを見渡すが、目に映るのは気持ちの良い空とコンクリートのみで、私たち以外、人っ子一人見当たらない。


「じゃ、あたしたちは、この上にでも登って待機してるわね」


 ハシゴを指差して話す明菜。


「…何かあったらすぐに駆けつける」


 真剣な、でもどこか心配した表情で話す創也。


 放課後になり、途中までと言っておきながら最後までついて来たこの二人。それではこっそり手紙で呼び出した上紋弘樹って人に失礼では? まぁ、靴箱に手紙を入れる時点で上紋弘樹も失礼なのだが。


 そんな私の考えが顔から漏れていたらしい。それを察した明菜が説明した。


「向こうの方で話せばここからは聞こえないわ。だから大丈夫よ」


「そっか。じゃぁ、私はあの辺りで待つかな」


 なるべく創也と明菜から離れた場所へ向かう。二人はハシゴを登って私のお気に入りの場所に移動した。


 この後図書室で体育祭の種目を提案するための情報収集をする予定なのだ。早めに終わることを祈りながら上紋弘樹が来るのを待つことにした。



 ++++



(三人称視点)



 ハシゴを登った泉明菜と林道創也を待っていたのは、どでんと真ん中で仮眠をとる鬼山の姿だった。


「「……」」


 予想外の光景にしばし固まり鬼山を見つめる二人。


「(…気にせず、道奈のことに集中しよう。)」


 最初に硬直を解除したのは創也。鬼山を起こさないよう小声で明菜に伝える。


「(…そ、そうですね。)」


 創也同様小声でなんとか返事をする明菜。彼女は学園の危険人物として有名な鬼山を見て動揺したものの、起きなければ問題はないと、自分を説得して落ち着かせることにした。


 気を取り直して、道奈がいる方からは自分たちの姿が見えないように身を屈めたところで、屋上の重たい扉が開く音が聞こえる。例の手紙の差出人が現れたようだ。


 創也はその差出人を視界に捉えてまた思考に浸る。道奈の側で牽制していたのにも関わらず告白をしようとする他の男子生徒が出てきた現状が気に食わなくて何か対策はないかと朝の靴箱の時から考えていたのだ。


 そんな創也に視線を向けて、明菜は本題とばかりに質問を直球で投げかける。


「(もし、道奈が告白に承諾したら、どう思います?)」


 その明菜の急な質問に創也の片眉が反応した。


 今回の告白に関して、創也は恋愛に興味のない道奈が告白に応じるとは端から思っていない。心配だったのは道奈の流されやすい上に普通とはズレた思考の所為で、また変なことになるのではと懸念していたからだ。


 創也自身、周りの牽制も込めて、わざと道奈にあからさまな言動とっている。周りから見れば創也が道奈に好意を抱いていることに気づくはずだ。

 なのにあえて聞いて来た明菜の意図を確認するために、彼女の質問には答えず、創也はその部分を濁して聞き返す。


「(…それは色々と知ってる上で、聞いてるのかな?)」


「(知ってる上で、と言うよりも、確信を得るために、聞いてみた感じですね。)」


 明菜はその創也の意図を汲み取って、自分の狙いを打ち明ける。

 今朝、靴箱で道奈に付き添いを提案したのには、道奈を心配する気持ちももちろんあったが、それと同時に女子は平等に愛でるを貫いていた学年の王子の本心を知る為でもあった。

 創也の道奈に対する態度でもそれは伝わるが、何せ相手は急に変貌を遂げたあの王子。決定的なものが明菜は欲しかったのだ。


「なんだ。荒木は告白されてんのか」


 とここで、聞こえるはずのないもう一人の声が聞こえる。バッと二人が声のした方を見た。明菜と創也で二人横に並んで屈んでいたのだが、創也の隣にいつのまにか寝ていたはずの鬼山も屈んで道奈と差出人がいる方を眺めていた。


 ついに鬼が起きてしまったと動揺を隠せずピタリと固まってしまった明菜の代わりに創也が鬼山に話しかける。


「…いつから起きてたんだ」


「お前らがブツブツ言い出した時からだな」


 鬼山の返答から、ほぼ最初から起きていたことが判明した。


「それより林道、安心しな。あいつは、振られる」


 そう断言する鬼山の言葉には、何か根拠があるように聞こえる。


「…なぜそう言い切れるんですか?」


 未だ動揺しているものの、ゴシッパー魂が明菜を突き動かしてその根拠がなんなのか確かめるために鬼山に問う。


「あぁ? お前は…荒木のダチか?」


 逆に質問されてしまい、ゴシッパー魂の勢いが緩んでまた固まる明菜。そんな明菜の代わりに再度創也が話した。


「寮で道奈が仲良くしてる友達の泉明菜さんだ」


「そうか」


 創也の説明で明菜が怪しい人ではないと確認できたところで、鬼山が明菜の質問に答える。


「話の流れで、ここでは恋人を作んねぇ、みたいなことをこの前荒木が言ってたんだよ」


 ゴシッパー魂が今の鬼山の情報で復活し、明菜も復活した。


「ここって言うのは? 学園でってことですか?」


「じゃねぇのか? 他にどこがある」


「恋人を作らない『みたいな』ということは、曖昧なニュアンスでそう鬼山様が勝手に判断しただけという可能性は?」


 鬼山と明菜のやりとりを聞きながら、創也は不安を感じていた。その不安を抑えるように道奈と恋愛について話した時の会話をもう一度事細かに思い出す。


 まず、中等部に入る前のパーティーの後に、道奈は恋愛に興味がないと発言している。

 次に、道奈が草野葵と話し合った後の電話では、恋愛は楽しそうだが面倒そうだとも言っていた。


 だからと言って、恋人は作らないとまで断言するだろうか。そこに気づいた創也は、他に恋人を作らない理由はないか、と道奈のこれまでの言動から導いて考える。


 (いや、そもそも、鬼山の証言だけでそう決めて考えるのはまだ早いな。)


 しばらく考えた後に、創也は今まで考えたものは隅に置いて、今度は別の方向に考えを巡らした。


「ん? 告白が終わったみてぇだな」


 明菜と話していた鬼山がそれに気づき、その一言で創也は考えを中断して、前方を見る。手紙の差出人は肩を落とし気味に屋上の扉へと向かうところだった。



 とりあえず、三人はハシゴを降りて道奈の元に行くことにした。



 ++++



(主人公視点)



 放課後の屋上で、私の靴箱なんかに手紙を入れた、上紋弘樹と話す。


 要件はマジックとは全く関係のないものだった。


「一目見た時からいいなって思ってました。僕と付き合ってください」


 この『付き合って』というのは、手紙にあった愛の告白の流れからして、そういう意味で使っているのだと解釈する。


 でも、私のことを知らないはずのこの人は、なぜ私と恋人になろうと思ったのか。私のどこがいいなと思ったのか。そして、なぜ靴箱に手紙を入れるような失礼なことをしたのか。詳しく聞いてから返事をしても遅くないと判断して聞いてみる。


 もしかしたら、今朝ラブレターというやつをもらった時に感じた疑問を解くきっかけになるかもしれない。


「…理由を聞いてもいいですか?」


「え? さっき言ったじゃん。いいなって思ったからだよ」


「私のどこがいいなと思ったんですか?」


「可愛いところかな」


「…私の他にも可愛い人はたくさんいるのに、なんでそんなに親しくない私なんでしょう。そこが分からないんです」


「この学園に君ほど可愛い子はそんなにいないよ。それに今は親しくなくても、これから仲良くなればいいだけだし」


 この人はつまり、恋人になってからお互いを知れば良いと言っているのだな。


「仲良くなってから恋人になろうとは思わないんですか?」


「あ! もしかしてお友達から始めようってこと?」


「いえ、友達は先に相手を知って仲良くなった上で、友達になりたいと思った人じゃないと、ならないです」


 変な誤解が生まれそうだったので、すかさず否定した。


「…つまり?」


 ああ、もう質問できそうにないな。靴箱のことは聞けずじまいか。


「あなたの申し出は受け入れられません」


 返事も誤解のないように、はっきりと伝えた。


「…はああぁ。なら最初から言ってよ。変な期待しちゃったじゃん」


「…ごめんなさい。お互いを良く知らないのに恋人になろうと思う人の考えが良く分からなくて、先に質問しました」


「なんか難しいこと考えるね。僕は君と付き合いたいって思ったから言っただけだよ。ま、振られちゃったわけだけど。じゃ、僕は帰るね」


 上紋弘樹はトボトボと効果音が聞こえそうな歩き方で、肩を落としながら屋上の扉に向かった。



 結局聞いても疑問は晴れなかった所為かモヤモヤと心の中は曇り気味になってしまった。それに反するように、その日の空は澄み渡るような青空で、思わずしばしの間、上を眺めた。



「ちょっと、道奈?」


 空を眺めていると、明菜の声がして視線を前に戻す。


「え? オニ・ヤマ? なんでここにいるの?」


 そこにはなぜか弟子の姿もあってびっくりした。空を眺めていたおかげで少しモヤモヤがおさまったところに驚きが加わり、図らずしも気持ちを切り替えるきっかけとなった。


「俺はお前らが来て告白おっぱじめる前からあそこで寝てただけだ」


「え!? しかもなんで知ってるの?! 会話丸聞こえだった!?」


「聞こえてなくても大体察しがつくわよ」


 それも明菜のゴシップレーダーの力か。そしてその力を周りにも明け渡したのか。


「そ・れ・よ・り、返事はなんて言ったの? それぐらいは教えてくれてもいいでしょう?」


 もし付き合うことになっていたら友達に報告するだろうから、逆も然りってことで、伝えても良いことだと判断した。


「断ったよ」


「な? 言ったろ?」


 私の返答になぜかドヤ顔を明菜に向ける弟子。


「…(鬼山様の情報の信憑性が少しだけ高まったわね。こうなったら今度直接――)」


 そのドヤ顔を綺麗に流し、顎に手をあてながらブツブツと何かを呟く明菜。


「…」


 そして無言で私を見つめ続ける創也。今朝の比にならないくらい難しい顔をしている。


 どうしたんだ、この三人は。私が告白を受けている間に何があったんだ。


「…創也。この二人、どうしたの? というか、二人とも知り合いだっけ?」


 まずは創也の難しい顔をほぐすように他の二人について軽く聞いて会話を初めてみる。


「…あぁ、さっき知り合ったんだ」


「そっかー」



 そして会話は終了した。



 創也の顔も改善はみられないまま、ど、どうしたらいいものか、と私も考え込んでしまって、しばらくお互い見つめ合う形になる。


「あー、なんだ。俺はそろそろまた上に戻って寝直すかな。おい、泉。お前も早く帰れ」


「…そのつもりです。道奈、また夕飯で会いましょう。頑張るのよ。ではみなさん、さようなら」


 言うこと言い切ったら退散とばかりに私たちの返事は待たず、足早にこの場から二人は去って行った。


 そして取り残された私と創也はまたしばらく見つめ合う。言おうか言いまいかと迷うそぶりを創也が繰り返し、そこでやっと話し始めた。


「…道奈はさ。もしこの学園で好きな人ができたら、その人と恋愛しようと思う?」


 重い口を開いて出て来たのはまだみぬ恋する人に関しての質問だった。


 そんな創也に応えるために真面目に想像してみる。


 その時の私は恋に落ちて重症な訳で、きっと草野さんのように、相手に話しかけたい、側にいたい、とかいう欲求と共に強い感情がたくさん溢れてくるのだと予想する。そんな状態で私はその人と――つまりそういう関係になりたいと思うだろうか。


「――うん」


 本当に恋人になるかならないかは置いといて、きっとそういう関係になりたいと思ってしまうのだろう。だから恋なんかしたくないんだ。感情というものは制御するのが難しいことくらい今までの経験で嫌でも知ってるからね。よって、肯定した。


「…そっか。それが聞けて、安心した」


 ここでやっと創也の難しい顔がほころびた。創也自身が言ったようにホッとしたような笑みを浮かべている。


 なんで安心したのか。


 そんな小さな疑問よりも、これ以上恋愛関連の話はしたくないなという思いが大きかったので、触れずに二人で図書室へと向かうことにした。



 ****



「今日も研究の本を借りに?」


 廊下を通りながら、何事もなかったかのように創也が聞いてきた。


 だから私も何事もなかったかのように答える。


「それもあるけど、今日は団体でできる競技とかゲームを調べようと思う」


「競技? なんで?」


「クラスみんなでできそうな競技はないかなあって思って。調べてみるだけ調べれば何か見つかるかも」


「クラスでできる競技、か。見つけたらしてみようとか思ってる?」


「提案だけでもしてみようかなって思ってる」


「なら、きついものは難しいかもな。うちのクラスに体育会系は涼を含めて数人しかいないんだ。それにA組は基本勉強しかしてこなかった生徒がほとんどだからな」


「ほうほう。為になります」


 ほどほどな難易度の競技に限定しよう。


「創也はどうするの? 研究?」


「そうだな。せっかくだから俺も色々と調べるつもりだ」


「この前みたいにならないように、ちゃんと集中するんだよ!」


「ははっ、了解」



 宣言通り、図書室で創也はちゃんと集中していた。と思う。私も集中してたから定かではないが、そう思おう。


 あの後また図書委員に頼んで本を選んでもらい、創也と同じテーブルに座って黙々と調べながら、競技リストを作ったのだ。部屋に戻ったらそれを参考に手紙を書く予定だ。


「ふう。終わりかな。創也は?」


 一通り調べ終えた頃、目線をあげて創也を見た。


 そしたらすぐに目が合う。…なんでまた私を見てたのか。


「俺はさっき終わったとこだ。道奈が終わるの待ってたんだ」


 あぁ、だから見てたのか。


「ごめんね。待たせちゃった。研究用の本も選んであるからこれ借りたら一緒に帰ろっか」


「ならその間に片付けとくよ」


「うん! すぐ戻るね!」


 少し駆け足でカウンターへと向かい、本を借りて私も片付けを手伝った。


 良さそうな競技はいくつか見つけることができた。あとはいかに生徒会長を納得させるような内容にできるかが、重要になってきそうだな。



 屋上での出来事は頭の片隅に全部追いやって、手紙の内容をどうするか、について考えながら創也と寮まで帰った。


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