なるように、なる
先日、創也に私が動画に関して思っていることを打ち明けてみた。
そしたら、私が怖くなくなるように『道奈は一人じゃない』と暖かい言葉で慰めてくれた。
そのおかげか、今は何が起こっても大丈夫な気がしてる。
よって、動画に関しては、
なるように、なるさああああ。の精神で気にしないようにすることにした。
こんな感じで気にしないようにはしたものの、動画は日々広まりつつあるようで。
「道奈! あなた、ちょっとこれ見て!」
四月も終わり、五月に入ったばかりの朝、朝食を食べに食堂に向かった矢先の明菜からの第一声がこれである。
そして明菜のスマホを見てみて唖然とした。
そんなに気にしてなかった動画の再生回数。
見ると、いい車が買えるほどの数字だった。
「…なんで急に?」
「あたしもそう思って調べたのよ。そしたら、見て」
明菜はスマホの画面を操作した後、私に別のページを見せた。それはこの前明菜が教えてくれたシイッター上の誰かの呟きだった。
『キッド@MiRaCLeKiD・4月31日
yuuto.be/ABCDUFO
可愛らしい魔法少女を見つけました。
いつかお会いしたいものです』
一目見て、その『誰か』に思い当たる人物が一人、頭を過ぎる。
こ、このキッドというのは…まさか…!
「ここ最近テレビによく出る人気のマジシャンが、あなたの動画をシイートしたのが原因よ」
明菜の説明からして師匠の魔術師キッドで間違いなさそうだ。この呟きの横についている写真も本人で間違いない。
「…はああぁぁぁ」
師匠に好感触のコメントをもらって嬉しい気持ち半分と、なんてことしてくれたんだと思う気持ち半分で、とても複雑だ。思わず大きなため息も漏れた。
「再生回数はこれからも伸びそうだわ。さらに拡散もたくさんされてる。これでより一気に知れ渡った感じね」
「…まさか師匠まで動画を広めだすなんて」
「師匠? え、このキッドとかいうマジシャンと知り合い?」
「知り合ってはないよ。テレビでこの人のマジックを見てかっこいいって思ったのがマジックを始めたきっかけなんだ」
「あらそうだったの。ま、あたしは誰かしらの有名人にシイートされる予想はなんとなくしてたわよ」
「…ほんっと、なるようになれええええええ、だね!」
広めたければ広めればいい!
私は屈しないぞ!
「もう、開き直っちゃって。どう影響が出るか分からないから、気をつけるのよ」
「うん。それはもちろんだけど、これからは自分のことに集中しようと思う。やることいっぱいあるし」
探求部の研究。宿題に授業の復習予習。台本の暗記。栞作り。
あと、団体でできる競技を調べるために今日の放課後、図書室に向かう予定だ。そのあとは生徒会長さんに手紙も書き上げないと。
なんて多忙なんだ。動画に気にかけてる暇なんぞ皆無!
「よし。食べて学校に行くかな」
「そうね」
学校に行くといえば、明菜に伝え忘れていたことを思い出す。
「あ、あと今日から創也も一緒に登校することになったから。一応言っとく」
実は先日に創也に打ち明けた時の流れでそうなったのだ。
「待ちなさい。最後に爆弾放り込まないで」
私が伝えた途端に真剣な顔になる明菜。
「もぐもぐもぐもぐ」
それに構わず食べ続ける私。
「はあああぁぁぁ。林道様『も』ってことは私も含めて3人で行くのね」
なぜか頭を片手で抱えながら聞いてきた明菜に、私はもぐもぐと食べながらコクリと首を縦にふって肯定した。
「もう。こっちこそ、なるようになれって感じよ。いいわ。逆にこれを利用して色々と情報を引き出してやるんだから」
コテリと首を今度は傾ける。なんの情報を引き出すつもりだ。そして明菜の目がやる気に燃え出したのは気のせいではないはず。
「もぐも(略 ごくん。ほどほどにね」
何を考えてるのか知らないけど、そんな明菜に不安を抱えつつ、食べ終わった後に二人で寮の玄関前へと向かった。
玄関から出ると、私たちに気づいた創也が車から降りて爽やかな笑顔で挨拶する。
「おはよう」
「おはよう、創也! この子がこの前話してた泉明菜。私の友達! 明菜、こっちが林道創也。実はこの学園に入学するきっかけも創也だったんだあ」
「初めまして、今日からよろしくね」
私の紹介を聞いた創也がいつか見たあの柔らかい対応で明菜に挨拶した。それに応えるように明菜も友好的に返す。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
二人とも笑顔だけど、お互いどこか探っているような感じだな。ま、最初はそんなものか。
自己紹介が終わったあと、右に創也、左に明菜、という風に二人に挟まれる形で並んで歩いていると、明菜がやけに大きめの声で話してきた。
「そういえば道奈、最近仲良くし出したっていう『あの人』とはうまくいいてるのかしら?」
それを聞いた創也の歩調が少し乱れる。
「うまく、いってるのかな? でも私は名前呼びしたいんだけど、向こうが人といるときはダメって頑ななんだ。だから人前でも堂々と名前で呼べるくらい仲良くなろうと思う!」
真子はそういうところが面倒だが、クラスの現状を丁寧に教えてくれたり、チョコをくれたりといいところもあるのだ。
めげずに攻める予定である。
「あら。二人きりの時しか呼びあわない名前で呼び合ってるのね。そういうの、いいわよねえ」
また大きな声ではっきりと言う明菜。言っている内容よりもそこが気になる。隣にいるからそんなに大きく言わなくても聞こえるのにな。それに明菜の目線は心なしか私ではなく創也を見ているようだ。明菜の目線を追って、私も創也を見た。
そして後悔する。
「へえぇ。それは初耳だなぁ。道奈? その人って、誰かな? よかったら、今度俺にも、紹介してよ」
ひいいいぃぃぃぃっ!
この日、人を冷却させる笑みというものを初めて知った。
凍結されたように、足も固まり歩みも止まる。
なんだ、なんだなんだなんなんだ、その顔は! 創也母とはまた一味違う凄みを感じる。そして確実に背後から何か出てるぞ!
顔は笑っているが形だけなのが丸わかりだ。目の奥がそうでないことは見てわかる。ふむ、器用だな。いやいや、感心している場合ではない。今はなんで怒ってらっしゃるのか聞くのが先決だっ。
「そ、創也? 急にどうしたの?」
「ん? 俺は普通だよ?」
絶対そうじゃないだろ!!
「それより、あの人って、誰かな? 俺には言えない?」
創也の笑顔が氷点下をさらに突破し出したところで慌てて答える。
「え、えっと、雨倉真子、だよ。同じクラス、だから、創也も、し、知ってると、思う…」
最後の方になるにつれて言葉が小さく吃りがちなったのは大目に見て欲しい。なんで急に怒り出したのか全然見当がつかなくて、この返答でいいのかすら分からないのだ。
その不安から、俯きながら創也の顔を伺う。
早くいつもの創也に戻ってほしいぞ。
そのまま横目で明菜はどうしているのかと見てみると、目をキラキラさせて、この状況を楽しんでいた。
人ごとだと思って! なぜ私だけがこんなことに! 納得いかん!
「…あぁ…(女子か。)」
やった! 創也が元に戻った!
そして冬が終わり、春は必ず訪れるものなのだな…安堵しすぎてホッとしたと同時に意味不明なことも思ってしまった。
気を取り直して創也の要望に答える。
「今度真子に聞いてみるね」
「うん。時間がある時でいいよ。行こっか」
なんで怒ったのか、理由が知りたいが、あの創也をぶり返したくはない。
よって、理由は分からずじまいのまま、このことには触れずに教室へと向かうことにした。
「あ、また手紙だ」
今日は自分の靴箱を使う日。そこで、前回創也が見つけたように、私も手紙を見つけた。しかも三つ。
それを聞いた創也の顔がこの前同様、険しいものに変わる。
「…誰から?」
「今回はちゃんと名前が書いてあるね。一年C組武本純平、と、二年D組上紋弘樹、と、あぁこれは書いてないや。この二人は話したことある人かな?」
最近は色々な人に話しかけられすぎて、覚えきれていないのだ。覚えていたとしても、靴箱に手紙を入れるなんてっ。失礼な印象を抱く。
「道奈、どうしたの?」
手紙を見つめる私たちに気づいた明菜が聞いてきた。
「靴箱に手紙が入ってたの。でも知り合いかどうかいまいち分からなくて、考えてた」
「靴箱に、手紙、ですって!? 早速読んでみるべきだわ」
興奮しだした明菜を見て、これは明菜にとって面白いことに部類されるのだと理解する。
ふむ。とりあえず読むか。封を開けてそれぞれ順番に読んでみた。
そして三つの手紙を読み終えた辺りで、眉間にシワをよせて、険しかった顔をより険しくさせながら創也が聞いてくる。
「…内容、聞いてもいい?」
「この二つならいいよ。もう一つの方は、たぶん書いた人は知られたくないと思うから伏せとくね」
一年C組武本純平からのものがその伏せた手紙だ。内容からして、これは所謂、愛の告白というやつなのだと思う。
彼の愛の告白に了承して『付き合って』も良いと思うなら、この場所へこの時間に向かって、そうでないなら、この手紙を無視してくれ、と書いてあった。この時の『付き合う』というのは恋人として一緒に過ごすという意味で使われているのはさすがに分かる。
恋愛対象として誰かに思われるのはこれが初めてだ。でも恋人になるならないと選ぶ以前に、私はこの武本純平という人を知らない。何度か話したのかもしれないけど、向こうも私のことはそんなに知らないだろう。なのに恋人になろうといきなり言えるなんて、理解できないなと思った。
お互いを知ってからなろうとは思わないのか? 恋人になってからお互いを知るのが普通なのか? 個人的には前者が普通だと思うのだが、どうなんだろう。
これもやはり、恋をしたことのある人にしか分からないのかもしれない。
とりあえず自分の気持ちに従って、武本純平の返事は迷うことなく、『行かない』で伝えることにする。
「…ラブレターか」
呟いただけなのか、それとも私に聞いたのか、どちらとも言えないような大きさの声が創也から聞こえた。
「十中八九、ラブレターですね。あたしのゴシップレーダーもそう言ってます」
そんな創也とは違って、明菜は自信満々にはっきりと断言する。
「んー。察して?」
そんな二人に私は曖昧に返答するに留めた。
「この二つはどちらとも呼び出しの内容だったよ。この差出人の名前が書いてないものは行かないとして、こっちの二年D組上紋弘樹っていう人は行こうと思う。ちょっと不安だけどマジック関連の話で聞きたいことがあるのかもしれないし」
私の呼び出しに応じる発言で明菜の目がキラリと光る。
「行くなら誰か付き添いの人と途中まで一緒に行くのをオススメするわね。相手は上級生で男だし、どんな人なのか、道奈、知らないでしょ? 保険はつけといて損はないわ」
確かに。それなら幾分か安心できる。同じ学園の生徒でもいろんな人がいるからね。知らないが故に用心する。うむ。その通りだ。と明菜の指摘に感心していると、黙り気味だった創也が口を開いた。
「俺が一緒に行く」
「私も一緒に行くわ」
その創也の発言に付け加えるように明菜も申し出てくれた。
創也も明菜も途中までついてきてくれるなんて!
日本の常識を知ってる二人の存在は、まだ少しだけ残っていた不安を全て吹っ飛ばした。
「ありがとう! 心強いよ! 持つべきものは友達だね!」
「ふふふ、当たり前じゃない。それで? 場所と日時はどこって書いてあるの?」
先ほども見たキラキラした表情で私を見る明菜からして、また何か面白がっているなとは気付いたが、ここは流して質問に答える。
「えっとね、今日の放課後の屋上だって」
「来たっ。王道パターンっ」
拳を作り、前を見据える明菜の瞳からは情熱を感じる。けどそれらもスルーして話を進めた。
「明菜、放課後、A組まで来てくれる?」
「わかったわ。教室の前で待ってるわね。さて、そろそろ教室に向かいましょう。モタモタしてると遅れちゃうわー」
ルンルンとスキップでもしそうなくらい上機嫌な明菜とは真逆の創也がさっきから心配だ。ずっと無言で考えに耽っているような難しい顔を創也はこの時していた。動画のこともあるから、この手紙の件について警戒しているのかもしれない。
楽しそうな明菜、難しい顔の創也、その創也を心配してる私。バラバラでまとまりのない状況のまま三人で教室へと向かった。




