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弟子から問答


 屋上までの道すがら、いつもの校舎内を歩く。ところどころ業者さんと思われる人が廊下の天井で作業しているのが目についた。


「こんにちは、お仕事中すみません。何かの点検ですか?」


 気になったので聞いてみる。


「うん? あぁ、ここの生徒か」


 私の存在を目に留めてすぐに目線を天井についている防犯カメラに戻す業者さん。作業しながら説明してくれた。


「点検っていうかな。防犯カメラを別の機種に取り替えてんだよっと」


 言いながら天井についていた防犯カメラをガタンと外してハシゴから下に降りる。


 防犯カメラの取り替えだなんて、なんだか急な感じだな。言い方からして防犯カメラが故障してとかではないみたいだ。


「新しいものに変えるってことですか?」


「そーいうことだ。にしても、さすが金持ちの学校ってだけあるな。音声も記録できる最新のものってのに、発注した数が尋常じゃないぜ」


 確かにお高そうだ。それをホイホイ買える鳳凛学園は業者さんのいう通りお金持ちの学校に部類されるのか。学園の広さとか、部活生のスカウトとか、なんとなく一般の学校とは違うのかなくらいにしか思ってなかったけど、業者さんの反応をみて確信した。


「ふー。あとはこっちを取り付けて、いっちょあがりだな」


「あ、お忙しいところすみませんでした。頑張ってください」


「おぉ。じゃぁな」


 これ以上はお仕事の邪魔になる気がして、退散する。


 この前テレビ男に防犯カメラの映像を見せてもらった時はなんとも問題はなかった。それでも取り替えるのには疑問に思うけど、壊れる前に取り替えるとかそういう決まりがあるのかもしれない。


 そんなことを考えながら弟子がいるであろう屋上へと向かった。



 ****



 キイイィィィィィ


 屋上の扉が開く聞きなれた音。


 そしてそこから見える景色。



 プラス上からシュタッと降って来た弟子。



 この光景を見るのは3度目か。


「よぉ。今日は遅かったな」


「よっ。山まで探検に行ってたんだ。今日は私もここでお昼食べる予定だから、一緒に食べよ?」


「あぁ」


 弟子から先にハシゴを登らせて、私も登った。パンツは見せないように気をつけるのが良識のある乙女なのである。


 地面にお互い座った後、カバンから食べ物を全部出して私の分と弟子の分に別けて渡す。


「オニ・ヤマは、これとこれとこれとこれ。私はこれとこれとこれとこれとこれとこれとこれだから、食べないでね」


「…荒木。前から聞こうと思ってたが、そんだけの食べもん、そのほっせえ体のどこにはいんだ」


「え? 私ってそんなにガリガリに見える?」


「ガリガリって言ってんじゃねぇよ。食べる量と釣り合わねぇって言ってんだ」


「食べても消費するからかな?」


「運動でもしてんのか」


「んー。運動は特にしてないよ」


「…じゃあ何で消費すんだ」


「勉強だね」


「………どんな勉強の仕方してんだよ」


 あれ、おかしい。スキル云々の前に普通勉強したらお腹がへるから、納得してくれると思ったのに、全然納得してる顔をしてくれないぞ。むしろどんどん疑惑が深まっていく感じだ。


「オニ・ヤマは勉強とか何かに集中したらお腹空かないの?」


「確かに腹は減るが…もういい。他にも聞きてぇことがあんだ。それから聞く」


 紳士に関してかな。


「いいよ」


「まず、授業中に荒木が手ぇあげて答える時。あの手の形にはなんか意味があんのか」


「へ?」


 予想外なことを聞かれて思わず口からひらがなの『へ』が漏れた。


「こんな感じであげてるだろ、毎回」


 そう言って、弟子が人差し指を立てた手を見せてくる。


「あー、確かにそうだね。意味なんて考えたこともなかったよ。癖かな」


 前の世界では、家庭教師の先生に質問をする時は、人差し指を立てて挙手するのが普通だったからね。名残で無意識にここでも同じように挙手してしまっていたようだ。


「前通ってた学校でそう教えられたんか」


「んー。そんな感じだねー」


「それ日本じゃねぇだろ」


 なんか掘り下げてくるなぁ。


「なんでそう思ったの?」


「英語の授業ん時、外人の先生とペラペラで話してたじゃねぇか。前はイギリスにでも住んでたんかって思うだろ、普通」


 話がよくない方に行ってる気がする。切り上げて話を変えるか。


「住んだことはないよ。小さい頃に習った感じ? あ、そうだ。オニ・ヤマに渡す本があるんだ。はい、これ」


 カバンから出した本を渡しながら弟子の顔を伺った。


 自然な感じで話題を変えれたかな?


「…」


 弟子は渡された本を凝視するだけだった。


 よかった。訝しんではないようだ。


「オニ・ヤマのために買ったんだよ。お金はお昼代と一緒に請求するね」


「…それは別に構わねぇが…この本…」


 お気に召さなかったかな?


「…なかなかいいじゃねぇか。荒木、お前センスいいな」


 と思ったら、とても気に入ったらしい。


 表紙のデザインもキャッチフレーズも、私からしたら男男すぎて紳士か?と疑問に思う感じだ。念のため読んでみたら、確かに紳士と言えば紳士なのかも。よって、この本をマスターしてもらう。


「これを読破して暗記してください」


「…暗記するのですか」


「暗記をし終えたら、実行する流れで。そうですね…体育祭までにはそうしたいです」


「…わかりました」


 すでにこの本の要点をまとめたノートも作成済みなので、いつでもこちらは対応できる状態だ。さすが私。師匠だ。


「この件は終わりだな。じゃ質問に戻るぜ」


 げっ、まだ続くのか。


 こうなったら、躱しまくろう。


「今まで住んでた場所ってのはヨーロッパ辺りか」


 また厄介な推測を。なぜヨーロッパ限定なんだ。


「どこかなー。覚えてないや。小さい頃だったからねー」


「…覚えてなくても、親の出身でだいたい予想つくんじゃねぇのか」


「あんまりそれについて話してこなかったかなー。知らなくても愛があればってやつだよ」


「…荒木。お前、言えない理由でもあんのか」


 意外と鋭いな。やっぱ頭は良い方ということか。

 鋭いところを突いてきたので、観念してこちらも素直に伝えよう。


「うん。あるよ。だからこれ以上聞かないでくれると助かる」


「……悪かった。もう聞かねぇ」


 ふむ。横暴だが、悪い奴ではないのだよね。


「それ以外について聞く」


 結局聞くんかい!


「えええ。まだあるの」


 げんなりしたように言ってしまうのは仕方ない。


「まず、好きな食べもんは」


 でもなんとも当たり障りのない質問で安心した。これなら答えれるかな。


「新しい食べ物!」


「今まで食べた新しい食べもんは」


「んー。創也と食べたタイ料理のパパイヤサラダかな。あと、パッタイとトムヤムクン!」


「二人でか。相変わらず仲良いな」


「まあね!」


「それでいて、友達なんだろ?」


「今のところ親友に近いかも!」


「くっくっくっくっ」


「えええぇぇ。そこで笑い出すとか。オニ・ヤマ、頭大丈夫?」


「ああ゛? 俺はいつだって正気だ」


「そう見えなかったから聞いたんだけど」


「あれだ。林道は初等部ん時から人っぽくなくて避けてたんだが、その林道がこの有様で、あいつも人間だったんだなと思ったら笑えてきただけだ」


「へぇー。創也の小さい頃ってそんな風に見られてたんだね」


「ま、林道の話は今関係ねぇ。次の質問だ」


 この問答、いつまで続くのだろう。


「食べながらでいい?」


「あぁ。――荒木の中で恋人と友達の境目はなんだ」


「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」


 食べながら考える。


「ごくん。境目かあ。恋したことないから分かんないや。オニ・ヤマは恋したことある?」


「はあ?! んなもんしたことあるに決まってんだろ! 俺はお前らとは違うからな!」


 え、急にどうした。突然の豹変ぶりに食べながら少し驚く。しかも『お前ら』って誰のことを言っているのか。

 疑問はあるけど、過剰に反応する時は、経験上、言ってることと逆の場合が多い。と、お父さんが言っていたから、それはつまり――


「もぐも(略 ごくん。落ち着いた? 何かわかんないけど、したことないんだね」


「したことあるつってんだろっ!!」


 最近はたまに見る程度になった弟子の凄み顔で怒鳴られてしまった。恋をしたことあるかないかは、弟子にとって逆上スイッチらしい。


「もぐも(略 ごくん。オニ・ヤマがしたことあるかどうかは興味ないから、次行こっか」


「…あぁ。もう一度言っとくが、俺はしたことあるからな」


 念を押せば押すほど、墓穴を掘ってる気がするな。だがここは黙っておける良識のある乙女を発動させといた。


「…林道は恋人としてありか。なしか」


「もぐも(略 ごくん。―――なしだね」


「………なしか」


「今のところ、ここで恋人を作るつもりはないからね」


「…その理由は聞いてもいいのか」


 ――ここで恋人を作るってことは、私はその人に恋をしてるってことで。それはつまり、この世界に残る理由ができてしまうということだ。それが戻れると知った時に枷になりそうで、怖い。だから、私はこの世界では恋をしない、したくない。


 っていう理由だけど、言える訳ないので、


「もぐも(略 ごくん。ダメー」


「…そうか。(林道を哀れに思うとか、前じゃ考えらんねぇな。)」


 弟子がごにょごにょ呟き出したところで話をまた変えることにした。


「もぐも(略 ごくん。あ、そうだ。ねえ、オニ・ヤマ。体育祭ではどんな競技の種目があるのか知ってる?」


「…中等部は知らねぇが、今年の生徒会長、天雷だろ。確実に俺らの心をえぐるようなもんをいくつかぶっこんでくるぞ」


「へ?」


 また予想だにしないことを言われて出てきたひらがなの『へ』。


「あいつは俺らが苦しんでんの見て楽しむようなやつだ。荒木、クラスメイトとして忠告する。黒の天パと左目元に泣きぼくろがある男を見たらすぐ逃げろ」


 真子といい、弟子といい。ここの生徒会長の評判は良くないな。でも実際に会ったことないから、参考程度にとどめておくのだ。


「わかった、警戒しとくよ。それよりもっと、詳しく教えて?」


「…初等部ん時に一度だけあいつ主催の運動会に出たが、それ以来その日が来たら用事作って休むようにしてる」


 真子も同じようなことを言っていた気がする。


「どれくらいひどかったの?」


「肉体的苦痛よりも精神的なとこにくるな…」


「…例えばどんな種目?」


「普通の種目もあるはあるが、その中に必ず…」


 弟子の顔が若干青くなった。

 顔が青くなるほどひどいものだったのか。


「…やべぇやつが隠れてる。毎回ランダムに隠してくるから、どれが天雷考案の種目か予想がつかねぇ」


「クラスみんなで力を合わせて頑張れるものはなかった?」


「中等部は知らんが、少なくとも初等部ん時は、なかったな。基本個人戦で生き残った生徒のチームに加点される」


 生き残る…不穏なワードチョイスッ。


 だがそれは問題だ。せっかく体育祭という良い機会があるのに、これでは活かせないぞ! 何かいい考えはないものか。


 少しの間考えて、ひらめく。


 競技の種目を提案することはできないかな?


「…荒木。今何考えてんだ」


 嫌な予感がするぞと伝えてくる弟子の目線には気にせず説明する。


「クラスみんなでできるものを提案しに行こ――」


「おい。俺が忠告した矢先にあいつと接触しようとすんじゃねぇ」


 説明の途中で割り込まれてしまった。だがこれで怯む私ではない!


「やらないで後悔するより、やって後悔するのだっ!」


 あ、今。いいこと言った。


「むごふっ」


 なのに急に弟子から顔面を片手で鷲掴みされる。


 突然乙女に何をするんだ!!


 訴えるように鷲掴みする弟子の手の隙間から睨む。そこから見える弟子の表情はイラつきを含んだものだった。


「なぁにカッコつけてんだぁ?」


 イラついてようが、私には関係ない。構わずバシバシと私の顔面を掴む弟子の腕を叩きながら離せと引き続き訴える。


「んん・んん、んんん! んん!」

(訳:オニ・ヤマ、離せ! この!)


「…お前、顔ちっせぇなぁ」


「んんんんんんんんんんんんんんん!!」

(訳:そんなこと今どうでもいいから!!)


 バシッ! ベシッ!


 弟子の腕を叩く強さも強めた。

 そしたら私の抵抗のおかげか、やっと解放される。


「プハァッ。もう! 全然紳士の行動じゃないよ!」


「お前がムカつく顔すっからだろ。今のは俺の忠告を守ろうとしねぇ荒木が悪い」 


「逃げろとは言われたけど、こっちから会いに行くなとは言ってなかったから私は悪くないっ」


 私がそう言い終わるや否や、弟子の右手がまた顔に向かってきたのですかさず避けてやったっはっはっは!!


「ふっ、二度同じ手が通用するとは思わないことだな」


 勝ち誇った顔で言ってやったぜ。


「…なんかすんっげぇムカつく」



 その呟きが、私たちの戦いの始まりとなった。



 距離を縮めながら弟子の手が何度も私の顔めがけて迫り来る。


「わわっ、ちょっ、オニ、ヤマ!」


 突然始まった戦いに戸惑いつつも、それを全て避ける私。でもさすがに距離が縮まりすぎて避けにくくなってきたぞ。


 このままではよくわからない戦いに負けてしまう! よくわからなくても、それは嫌だ!


「とう!」


「おいてめっ。逃げんじゃねぇ!」


 弟子の手をするりと抜けてハシゴに向かった。


 ハシゴの両サイドを持ってスルスルと降りる。ハシゴで素早く降りるなんて、元の世界の家にあった書斎にある本棚のハシゴで遊んで(下に人がいない時限定)たからこんなこと朝飯前なのだ。


 下に降りたところで別の方向から馴染みのシュタッと飛び降りる音が聞こえる。


 …あぁ、そうか。弟子はハシゴを使わずに降りれるのだったな。


「あぁらぁきぃ」


 言い方が怖いです。普通に呼べないのか。


「オニ・ヤマが顔を掴むのやめたら逃げないよ」


「俺の忠告、守んならやめてやる」


 言いながらもジリジリと睨みながら距離を縮める弟子。

 ジリジリと縮めてきた分、私も睨みながら離れる。


 だがこのまま後ろに下がり続けると前回の二の舞になってしまう。


 私は同じことは繰り返させない主義なのだ!


「とう!」


 よって前回とは違い、逆に立ち向かうことにした。


 地面を蹴って駆け出した勢いのまま弟子の横からすり抜け、ようとして。


 弟子に捕まり、持ち上げられる。


「うわっ、軽っ」


「のあっ」


 私からしたら急に足が宙に浮いてびっくりである。変な言葉も漏れた。


 そしてお腹が圧迫される。


「ぐへぇっ」


 圧迫された要因は弟子の肩に担がれたから。樽のように。先ほど食べたパンも合わさって苦しい。下手したら戻しそう。


「これで逃げらんねぇなぁ?」


「何をする! 淑女を樽のように担ぐなんて! それでも紳士の卵か!」


 苦しいのはひとまず我慢して、後ろ向きに担がれている私は弟子の後頭部めがけて主張した。


「へぇへぇ。おめぇが忠告守るっつーならすぐおろしてやる」


「対話は目と目を見ながらするのが基本って習ったよ。だから私を直ちにおろそう」


「んなこと言って、どーせ逃げんだろ。で、守んのか」


 ど、どうする私。守れない約束はしない主義だ。特に日本ではなおさら。


「…荒木、返事は」


 声に凶悪さが滲んできた。これ以上ここで守る守らないと言い合う時間はなさそうだ。

 よって、


「保留で」


「ああ゛?」


「お互いの妥協点を見つけるまで保留で」


「…また妥協点か」


 本当は今すぐおろして面と向かって話したいのだが、やむを得ん。


「オニ・ヤマは私に生徒会長と会わせたくない。私は体育祭の競技の提案をしに行きたい。何か、妥協点は…妥協点…会わずに提案を伝える。これだ!」


「はあ?」


「生徒会に手紙を書いて提案するくらいならオニ・ヤマも納得でしょ」


「………できれば一切関わって欲しくねぇんだが」


「これ以上は妥協できないよ」


「……どうなっても知んねぇぞ」


「手紙でそこまで大ごとになるとは思えないかな」


「…はああぁぁ。俺は止めたからな」


 弟子がついに折れてくれた!


「よしっ! というわけで、おろそっか」


 私を。


「あぁ」


 やっと地面におろしてもらった。うむ。地に足が付いているっていうのはいいことだね。


「すううううう。はあああああ」


 ついでに深呼吸して、酸素を取り込む。お腹を圧迫されていたので呼吸も思うようにできていなかったのだ。


「さて、そろそろ帰るかな」


 もう要件は全て終わったし。昼も全部食べたし。


「もう帰んのか。まだ他にも聞きてぇことが――」


「それはまた次回ということで。徐々に消化していこう」


 じゃないと私が持たない。やることも増えたことだしね。


「…わかった」


 私の提案に渋々のったところで、弟子から昼代と本代のお金を忘れずに受け取って、寮まで戻った。


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