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学校探検3with創也②


 神社の建物の周りに沿って歩く。


「…なんか、鬱蒼としてるね」


 神社の裏はボーボーの植物で溢れていた。


「ここに細い道ができてるけど、奥に進んでみる?」


 創也が指差す方を見てみると確かに細い道があった。


「進んでみたい。すっごく行きたい。けどこの高さの草の中に入れる服装じゃないかも」


 こういう時にズボンが必要になるのか!?


 若干スカートで来たことに後悔する。


「なら、こうすればいいよ」


 そう言って、背中を向けてしゃがみ込んだ創也。


「…」


 あれか。おんぶか。思い出したくないことが思い出された。


「…創也、疲れてない?」


「これくらい平気だ。せっかくの探検なんだろ? 何があるのか俺だけ見に行くわけにはいかないしな」


 確かに。


 それにここなら人もいないからパンツが誰かに見られる危険性もないし、スカートも制服ほど短くない。


 少し迷って、決心する。


「…わかった。少しの間、お願いするね」


 前回同様、両手を創也の肩に置いて、背中に乗った。


「のはっ」


 創也が起き上がる拍子にまた意味のない言葉が漏れる。前回は、ほわっ、だったな。今回は、のはっ、だ。少し違うが、恥ずかしいのに変わりない。


「行くよ」


 今回も声が創也の背中を伝って響くのを感じる。やはりこれも慣れない。



 居心地の悪い思いをしている間も一歩一歩と創也が草道の中を進む。



 そして、お互い無言だ。



 先ほどまで普通に話せていたのに、この感じはなんなんだ。


 前回はパンツばかり気にしてて分からなかったが、本来おんぶされるとこんな感じになるのか?


「道奈、見て。神木だ」


 せっかくの冒険なのに、また思考にふけってしまった。


 すぐに気を取り直して周りに目をやる。


「…すごい」


 道の向こうには、大きな神木が佇んでいた。

 その周りは柵で囲まれていて、先ほどの神社の裏に比べて整備されているのがわかる。


「ここでおろしていいよ。ありがとう」


 このくらいの草なら許容範囲だ。

 それに早くこのなんとも言えない感じを払拭したい。


 創也の背中から降りて、神木に近づいた。

 根元から、上へと視線を上げていく。


 創也も横で上を見上げながら呟いた。


「樹齢何年だろう。河童山の神社裏に神木があったなんて俺も知らなかった」


 創也と二人で自然の壮大さにしばし感動していると、茂みから突然音が鳴り響く。



 ガッサーッ



「え?」



 ガッサーッ、ガッサーッ



 その音はまるで、何かがこちらに向かって茂みの上を滑っているような―――



 河童か。河童だな。



 瞬時に判断してカバンからサラダを取り出す。


「創也」


 片手にキュウリをスタンバイさせながら、身を低くして創也に合図した。


「ぷっ、はっはっは。真剣で可愛いところ悪いけど。河童は水のあるところにいるとされているから、いたとしてもここじゃないよ。そんなに警戒しなくても大丈夫」


 そう言いながら、ポンポンと頭を撫でられる。

 しかも笑われてしまった! 気にくわない!


 ぶつくさ不満に思っている間も、茂みの奥から聞こえる音は近づいていた。


「たぶん、この神社を管理してる人が特殊な道具で草でも刈ってるんだろうな」


「…そう聞こえなくもない」


「あれ? 河童じゃなくてがっかりした?」


「違うもん。がっかりじゃないもん」


 ぶすーっとしたふてくされ顔を私は今していることだろう。



 ガッ――――



 二人でやいのやいのしていると、フッと音が止んだ。



 こちらも会話を止めて、音がなっていた場所を見る。

 あたりに聞こえるのは木々が風で擦れる音のみ。


「そ、創也。これはどう思う」


「…道具が故障したとか?」


 自然と小声で話す私たち。


「ねえ、創也。…もし、河童でもなくて、人でもなかったら、なんだと思う?」


「…熊…じゃないな。この山に熊はいない。…人じゃないなら、何があるかな」


 怖いものを想像してしまって、ドクンと心臓が大きく跳ねた。

 私は得体の知れないものが一番怖いのだ。


「創也、ひとまずここから離れ――」


 創也に立ち去る作戦を提案してるところに、茂みから突然怒鳴り声が聞こえる。


「誰だあああああああ!!!!」


「ひいいいいぃぃぃぃ!!!!」


 身の危険を体が瞬時に感じて、たまらず反対側の茂みへと駆け出した。



「道奈!!」



 ドッドッドッドッ、と鼓動に急かされるように茂みの奥へと駆け続ける。


 どうしよう。ほんと、どうしよう。なんか後ろから追いかけてくる。なにそれ、怖っ! 絶対に捕まらないぞ。捕まってやるものか。



 無我夢中で足をより早めた。



「うわあああっ」



 走った先で茂みから抜け出た拍子に、ドスンと勢い余って転んでしまう。


「痛ーっ!」


 思わず痛いと言ってしまったが、本当はそんなに痛くない。地面が草に覆われていてクッションになってくれたおかげのようだ。


 パンツが見えないようにスカートを直して、とりあえず座って息を整えさせる。この茂みが影になって見つかりづらいかも。などと考えていると、


「道奈!」


 創也は転ばず茂みの中から跳んで華麗に着地した。


 なんだか、かっこよく見えるな。葉っぱまみれの頭を除けば。


 それにしても、私のあとを追いかけて来たのは創也だったのか。紛らわしい。はっ! いやいや、そんなこと思っちゃダメじゃないか自分! 恐怖で創也を置いて行ってしまった自分に気づいて、申し訳なさと罪悪感が襲う。


「はぁ、はぁ、ごめん。勝手に、走り、出して、ごめん、なさい」


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


 走りまくったのでお互い肩で息をしながら、しばし見つめ合う。


「…っぷ。くっくっくっあはははははっ。道奈っ、髪っ、めちゃくちゃっ」


 罪悪感から一変、お腹を抱えながら目尻に涙を溜めるほど笑う創也につられて、私も笑ってしまう。


「はぁ、はぁ、そういう、創也、だって、くっ、ぷははははっ」


「あははははっ、ほら、とってやるよ」


 創也が私の近くにどさりと座り、私の頭に手を伸ばして髪の毛から葉っぱや小枝をとってくれる。


「うん、私もとってあげるね」


 創也と向き合うように、私も頭に手を伸ばしてついているものを取ってあげた。私よりも短い長さのおかげかすぐに全部取ることができた。それにしても創也の髪はサラサラだな。どこのシャンプーを使ってるのだろう。


「こっちは全部取れたよ」


「俺はもう少しだ。じっとしてて」


 言われた通りに創也が全部取ってくれるまで待つ。が、手つきが葉っぱを取るというよりも指先で髪を根元から梳くような感じだ。別にそこまで綿密にしなくても。


「…取れた?」


「まだだなー」


 歌でも歌いそうなくらい上機嫌な創也の声。


 まだかかるのか。髪が創也よりも長いから時間がかかるのだな。


 待つ間、することがないので辺りを眺めることにした。そこでやっと、周りの景色に気づく。そこにはピンク色の小さな野花がポツポツと咲いてる濃い緑の草はらがあった。


 ここで持って来たサンドイッチを食べるとさぞ美味しく感じるだろうな。


「創也、お腹空かない? サンドイッチ買って来たんだ。食べる?」


「食べる」


 髪もちょうど終わったらしい。私の横に座り直した。


「へっへっへ。探検に抜かりはないのだ」


 カバンからサンドイッチと飲み物を取り出して渡した。


「ありがと。おっ、ハムサンド。俺の好きな具だ」


 ペットボトルのお茶とサンドイッチを受け取り、まず蓋を開けて一気飲みする創也。私もカバンからもう一本出して飲んだ。走ったからね。まずは喉を潤す。


「いただきます」


 そう言って創也はサンドイッチにかぶりついた。


「んまっ」


 外で食べると美味しさも増すの法則だな。


「創也はハム派かあ。私は断然、卵派!」


 カバンからタマゴサンドを出して掲げる。


「ははっ、なんかピクニックみたいで楽しいな」


「そうだね! ここの景色も悪くないし!」


「ほんとだ。綺麗だな」


 周りの景色を見ながら創也はサンドイッチにまたかぶりつく。


「いただきます!」


 そして私もサンドイッチにありついた。


「あむ。んー。んんん!」


 良識のある乙女は食べながら話さないのである。しばらく二人で景色を楽しみながら、このひと時を満喫した。



 そしてサンドイッチも食べ終えしばしの会話タイム。



「私の所為でドタバタになっちゃったね。本当にごめんなさい。突然怒鳴り声が聞こえてびっくりして思わず逃げちゃったんだ」


 まずはきちんと謝る。創也が笑い出してしまってその辺りが曖昧になってしまったからね。


「気にしないで。楽しかったから。それに道奈を追いかけるのはもう慣れたよ」


「ん? 私、そんなに創也からたくさん追いかけられてたかな」


「最低三回は追いかけたな。一度目は道奈のおじいさんの喫茶店で、二度目はパーティー会場の椿の庭園。三度目は入学式の日に校門まで。今回の合わせると四度目か」


「このお詫びは如何様にして返せばよろしいでしょうか」


 聞いていて居た堪れなくなった。過去の自分も含めて私はなんて自分勝手なのか!


「はははっ、大丈夫だよ。捕まえればいいだけだから。この四回とも逃したことはないし、これからも、逃がすつもりはないよ」


 もはや獣扱いだな、私。


「なるべく暴走しないように気をつけるね」


 どう気をつければいいのかも分からないが、そう心がけておこう。


「さて、そろそろ帰るか」


 私も賛成だ。色々あったが、いい場所でお腹を少し満たしたおかげで心も満足した。


「うん。でもその前に少しお花を摘んでいこうかな。栞にして今日の思い出にするの。できたら創也にもあげるね!」


「…っ!!」


 そ、そんな感極まった表情をされても。

 ただの野花で作った栞でそんなに喜ばれたら、作る側としてはプレッシャーだな。


 そんな創也はそっとしておいて、良さそうな花を10本程摘んだ。期待している創也に渡すには、華やかな栞にしたいところだ。うーむ。この場に咲いてる花は手元にあるこの一種類しか見当たらない。他にも種類が欲しいけど、それでは思い出にならない。この時間を共にした何かが欲しいのだ。葉や草では満足できないし。こうなれば、栞本体をアレンジするしかないな。すると時間と手間をかけたい。空いた時間にコツコツ作って、もうすぐ体育祭が始まるから、それが終わって落ち着いた頃本格的に仕上げるか。


 などなど、栞のことを考えながら元来た道を歩く創也の後ろをついて行った。


 私一人だったら確実に迷っていた自信がある。





 茂みから抜けて神木のところまで戻ると、一人の厳つい老人が、箱の上に腰掛けて汗を手ぬぐいのようなもので拭っていた。


「ん? お前たちは」


 私たちに気づいて話しかける。


「こんにちは。もしかして、先ほどあちらの茂みの中にいた方ですか?」


 創也が初対面の人に向けるような穏やかな笑顔で老人に問うた。


「あぁ、そうだ。そろそろ草刈ってやんねぇと、すーぐ手ぇつけらんなくなるからなぁ。今の内くらいに裏から始めんだ。で、お前たちはさっき神木んとこにいたガキ供だなぁ? ここで何してた」


 おう、河童でもそれ以外の何かでもなく、人でした。創也の予想があっていたようだな。


 変に想像して勝手に暴走。そして創也を置いて逃げる。


 自分で自分が情けない。


「僕たちは理科の課題で野花を採取しに来たのですが、途中でこの立派な神木を見つけまして、しばらく眺めていただけです。もしかして、ここは立ち入り禁止の場所だったのでしょうか」


 創也がいけしゃあしゃあと嘘を交えて述べる。


「禁止ってわけじゃねぇ。以前ここを溜まり場にしてたガキ供がいたんでな。てっきりまた来たのかと思って怒鳴っちまった。その所為で、叫んだのはあんただろう?」


 そう言って私を見る、厳つい老人。


「驚かせたようで悪かったな、嬢ちゃん」


 あの怒鳴り声は誤解が生んだものだったようだ。


「いえ、確かに驚きましたが、理由を聞いて納得しました。叫んだのは私が勝手に河童とかそれ以外の何かかもとか想像して怖がっただけなので、気にしないでください」


「ぅん? 河童ぁ? はっはっはっは! そうか。河童と思ったのか」


 河童に遭遇するというのは自分が思っているよりもかなりレアなことのようだ。創也に続き、この老人にも笑われてしまった。


「僕たちは採取が終わったので帰るところです。お仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした」


 ぺこりとお辞儀する創也と一緒に合わせて私もお辞儀した。


「はっはっは。礼儀がなってるガキは嫌いじゃねえ。気が向いたらまた来てやってくれ。ここに祀られてる河童も喜ぶだろう」


 つまりは死んだ河童が!? こんな身近にずっと!?


 確定事実に驚愕中の私とは違い、少し歩いたところで創也は当然のように私の前にかがんだ。


 …そうか。行きでおんぶなら、帰りもおんぶか。


 そして、行き同様。変な感じに耐えて、無事に神社前に止めてある創也の車まで戻ることができた。時間的に今日は裏庭に行けなかったな。ハプニングもあったしね。


「今日はありがとう。とっても楽しかった。また来週も探検に行きたいところだけど、当分は研究に集中するから行けないかも。落ち着いたらまた行こうね」


「俺も楽しかった。やっぱり道奈といるとその日が特別になる気がする。時間ができたらいつでも連絡して? 次は旧校舎に行ってみようか」


 旧校舎も存在するのか。


 どれだけ広いのだ、この学園は。



 次回の探検場所の目処もたったところで、創也には寮の前で降ろしてもらい、別れた。



 さて、次は師匠として弟子に会いに屋上へ向かおう。の前にひとまず泥のついたこの服を着替えるか。


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