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じわじわ来るマジックの影響


 朝、いつもの時間に、いつものように、教室に入る。


「おはよう!」

「あ、荒木さんだ!」

「おはよー」

「おはようございます」


 入った途端にそこかしこから挨拶をされた。

 挨拶をされたのだ。私も元気よく笑顔で挨拶を返そう。


「みんな、おはよう!」


 そしたら何人か固まってしまった。


 なんだ? と、いきなりの固まり現象に疑問を抱いていると、昨日の猫好き女子が近づいてきた。


「荒木さん、荒木さんっ」


「ん?」


「昨日の放課後ね、遊びに行く前に荒木さんに言われた通り裏庭に行ってみたんだけど、あの猫に会えなかったのっ! どうしたら確実に会えるかな?」


 なるほど、太眉猫さん関連の相談だな。


「猫缶かささみを持って行けば会えるかも。今日の放課後一緒に行ってみる?」


「いいのっ?!」


 私の提案にとても嬉しそうに反応する猫好き女子。


「うん。あ、先に図書室で借りたい本があったんだ。その後ならいいよ」


「放課後、図書室に寄って猫に会う、だね。ウチもついてくよっ!」


 図書室にもついてきてくれるようだ。借りる本はすでに決まってるし、そんなに待たせるようなことにはならないから、別にいいか。


「ちょっと瑞樹、勝手に決めないで」


 猫好き女子と話していたら、別の女子が猫好き女子の名前と思われる名を呼びながら入ってきた。


「あ、真子っ。真子も一緒に行こっ! あの猫に会わせてくれるって!」


 猫好き女子が真子と呼ばれる女子も放課後に誘う。それを聞いて、この子の中ではすでに太眉猫さんに会えることが前提になっているのだなと思った。会えるかどうかは私もわからないのだが。


「…」


 誘われた女子は私を警戒するような目で見てきた。しかも無言無表情。


 私はこの子に警戒させるような言動をとった覚えがないぞ。なぜそんな目で見てくるんだ。


 少しでも警戒を緩めてもらおうと、笑顔を努めた。


「…私も行く」


 警戒は緩んではくれなかったが、誘いにはのってくれた。しかし未だ無表情。


「やったねっ。あー早く放課後にならないかなあ?」


 隣にいる女子の警戒云々などかけらも気づいていないような軽やかな声で言う猫好き女子。

 私も話に乗っかって、このなんとも言えない空気を変えよう。


「授業に集中してれば、あっという間だよ。それより、猫缶とかささみは持ってる?」


「猫缶じゃなくてキャットフードでもいい?」


「んー。匂いが広がりやすいものならいいかも? キャットフードはあげたことないから分からないなあ。ささみなら確実だよ。太眉猫さん、ささみ好きみたいだし」


「そうなんだっ! 売店に売ってたかな?」


「売店にはサラダに少し入ってるくらいだね。私はバスでスーパーまで行ってささみパックと猫缶を買ってるよ」


 その時明菜も一緒に行ったのだ。都会のスーパーは値段が高めだと学んだ。


「スーパーかー。うーん。今日はサラダに入ってるささみで我慢しようっと」


 面倒だと思ったようだな。そんな猫好き女子のために、太眉猫さんに会える確率を高めるために私も協力することにする。


「念のため私は猫缶を持って行こうかな。ついでに寮にも寄っていい?」


「猫のためならっ」


 握りこぶしを作り、くわっと私を見ながら言ってきた。


 そんな真剣になられても。


「真子もいいよねっ?」


「…」


 猫好き女子の質問に、無言で頷く警戒女子。頷きながらも私から目線をそらさない辺り、相当警戒されていることが見て取れた。無表情だからか若干怖くもみえる。


 この子は一先ずほっとくことにして、猫好き女子の名前を尋ねることにする。同じクラスメイトでもあまり話さない人の名前まで覚えていないのだ。


「それと、名前教えてくれる? ごめんなさい、覚えてないの」


「あ、そうだよね。あんま話してこなかったもんね。ウチは新海瑞樹。こっちは雨倉真子。ウチらは初等部からの親友なのっ!」


 猫好き女子が新海さんで、警戒無表情女子が雨倉さんか。


 …ん?


 彼女は『あめくら』。私は『あらき』。


 どうやらこの警戒女は私の一つ前の席の女子だったらしい。


 ははは。それに今気づくとは。

 明菜の言うようにもう少し周りに関心を持った方がいいのかもしれない。


「教えてくれてありがとう。新海さん、雨倉さん。放課後、私も楽しみにしてるね」


「こっちこそ。よろしくねー。んじゃ、またあとでっ!」


 手を振って自分の席に戻って行った。

 雨倉さんも新海さんについて行くが、最後の最後まで無表情で私を見るだけだった。


 本当になんなんだ。


 ああまで警戒させる私って…噂が原因か?



 放課後は何事もなく終わればいいなと思いつつ、今日もいつものように学校の一日が始まる。


 いつもと違ったのは、授業の合間にたくさんのクラスメイトと話せたことだった。



 ****



 昼休み。



「やあみっちゃん。昨日はお疲れえ」


 探求部室に入るやいなや、上機嫌なテレビ男が声をかけてきた。通常の日と比較して3倍は上機嫌だな。それが逆に怖いと感じてしまうのは、私は相当参っているということか。


「どうも。マジックはお気に召しましたか?」


「大満足だねえ。あそこまでやるなんて、待った甲斐があったよ。待ったのにしょぼかったらどうしようか色々と考えておいたんだけど、しなくてすみそうだ。よかったあ」


 何するつもりだったんだ!? 携帯の一件があった所為で、とてもとても、怖い。内心ガクブルなのを抑えて、テレビ男の発言は流すことにした。


「…早く料理、頼んじゃいましょう」


 そして雑務が用意されているテーブルの席について、今日も作業を始めた。




「てかてか、道奈ちゃん! あの動画見た!?」


 雑務が終わった辺りで涼が食い気味に話しかけてきた。


「もしかして、朝からそれについて聞きたかったとか?」


「あ、わかった?」


「あんな何か言いたそうな顔でずっと見られたらさすがに気づくよ」


 げんなりしたように言ってしまったのは仕方ない。

 朝からずっとだぞ。そんな顔を向けられる側からしたら、なんなんだっ、てなるんだぞ。と心の中で不満に思っていたのだ。


「いやー、言うタイミングがなくてさ。だって道奈ちゃん、ずっと誰かしら人と話してるんだぜ? 話したくても話せねえって。昼休みも俺は飲み物買いに後から部室に来たわけだし、ここで手伝ってる時に話して邪魔するわけにもいかなねぇだろ?」


「はああぁ」


 暁人の言い分にため息で返した。いつもは失礼気味な涼なりに気を使った結果らしい。


「あの動画と言うのは?」


 涼と私のやりとりを聞いていた暁人が聞いてきた。暁人はまだ動画について知らないようだ。


「涼はもう知ってたみたいだね。暁人、動画っていうのは私が昨日披露したマジックを誰かがスマホで録画してたみたいで、その動画がネットで広まってるの」


 昼休みになるまで、授業の合間にクラスメイトの何人かからも動画について教えてくれた。


 再生回数がどうとか。

 有名になるんじゃないかとか。


 そう言っていたけど、私はそれよりも動画が拡散された数の増え具合が気になった。


 昨日の今日で、レストランで美味しいご飯が買えるくらいの数字だったものが、高級レストランで買えるくらいまで育っていたのだ。


「実は朝、創也とそれについて話してたんだ。動画がこれ以上広まったらどうしようかってね。


「俺はこのまま増え続けて道奈に被害が出ないかが心配なんだ」


「…広まったらどうなんだ。なんか悪いことが起こんのか」


 創也の心配の声に弟子も反応した。


「そんなに心配することか? それよりも有名になって通りがけの人からサインとか要求されたりすんじゃね!? 俺、今のうちに道奈ちゃんのサインもらっとくかなっ!」


 ふむ、有名になるとその人の名前が欲しくなるものなのか。

 いまいち共感できないな。なんで他人の名前なんぞ欲しがるのか。


 けど、明菜や創也から言われたことよりも涼のものは、楽観的な意見だなと思った。


「…その動画には荒木さんの顔も出てますよね。服装はタキシードで学校は特定されないとは思いますが、動画を見た人の中には良からぬことを考える人もいるから心配だと林道さんは言いたいのですね」


「うん。俺が知ったのは昨晩で、そのあと色々と調べたんだが…」


 言葉を途中で途切らせて眉間にシワを寄せる創也。表情が険しい。


 なんだ。何がわかったんだ。色々と調べたなんて初耳だぞ。朝話していた時はそんなこと一言も言ってなかったじゃないか。不満に思ったが、創也の言葉の続きが気になって黙って私は待つことにする。


「…まあ、このままだと道奈に迷惑がかかる可能性も少なからずあると思ったんだ」


 いやいや、大事なとこすっ飛ばして完結しないでほしい。気になる! 聞いてやる!


「創也、何がわかったの?」


「…動画をみた人の反応の中に前向きなものとそうでないものがあるってだけだ。道奈は気にしなくていい」


 なんだ。マジックの評価についてか。

 それは見た人の自由だからな。私は何も言いまい。


 そう満足した私はこの件についてどう思っているのかみんなに伝えることにした。


「私はこれ以上視線が増えそうで嫌だなあって思うくらいかな。寮にいる友達からも色々と忠告をもらったけど、まだ実感が湧かないんだよね」


 今のところ動画の話が出るだけで、目立つ影響は感じていない。

 このまま動画の拡散がおさまって、ただでさえ平和の文字がない学校生活を脅かさないでほしな。 …ま、現実はそううまくいかないのは異世界から落ちた時点で学んではいるから対策だけはきっちり立てとくぞ。


 よって、この流れで昨晩に聞こうと決めていたことを聞くことにする。


「創也にも聞いたんだけど、こんな感じで被害が及びそうだと思った時、みんなはどうする?」


 創也はとにかく一人で外をうろつかないの一点張りだったな。学園を出るときは必ず創也に連絡するようにとも言われた。過保護すぎかなと思ってしまったが、心配する気持ちが伝わって何も言わずに頷いておいた。


「私は周りに迷惑がかからないようになるべく一人で解決できる方法を選ぶでしょうね」


 私の質問に一番最初に答えてくれたのは暁人だった。

 でも暁人の言う、その周りというのは誰のことなのだろう。明菜からは一人で抱え込むなと言われた。暁人の発言はその全くの逆だなと思った。


「例えば?」


「そうですね、変装とかでしょうか。動画に映っていた自分の姿からなるべくかけ離れるようにします。荒木さんの場合は茶髪に黒のカラーコンタクトをつけるとぱっと見分からなくなりますよ」


 ふむふむ。それはいい案だな、と顎に手をあてて頷きながら、私が茶髪黒目になるところを想像する。うん、みんな驚きそうだ。…みんなのびっくり顔、ちょっとみてみたいかも。


「俺はそーだなー、防犯グッズとかか? 動画とか見て俺のことが気に入らないって奴が襲いかかったらそれで撃退してやるぜ!」


 次に答えてくれたのは涼。

 襲いかかるほどの嫌悪をあの動画で受けてしまう人などいるのか。現実味が皆無だが、身を守る術は知っていて損はないかも。


 そして最後に弟子が答えてくれた。


「…俺もそんな感じだ。来たらぶっ飛ばす。それだけだ」


 なんとも弟子らしい。

 でも、それは時と場合によれば正当防衛で日本の法に触れずに済むかもと気づく。過剰防衛にならなければの話だが。


「変装に、防犯グッズに、護身術だね! ありがとう、参考にする」


 教えてくれた三人にお礼を伝えた。


 さて、参考になることも教えてもらったことだし、念のために必要なものは買える範囲で買っておくか。


「何かあったらまず俺に連絡して? すぐに駆けつけるよ」


 いつ頃買いに行こうかと考えていたところで、創也から朝にも言われたことをもう一度言われた。

 あの時は黙って頷いたが、そういえば言いそびれたことがある。


「そうしたいのは山々だけど、今は無理だね。携帯ないもん」


 改造中なのだ。不本意だがな!


「テレビ男、携帯はあとどれくらいでできそうなのか、改造する人は何か言ってませんでした?」


「んー。あと二、三日って言ってたかなあ? あの後他にもいろんな機能をつけ出しちゃったみたいだよん。楽しみにしててねえ」


 テレビ男の発言にとても心配になった。

 私の携帯、どうなっちゃうんだ。私の要求なんて修理と地図機能の改善くらいのはずだぞ。

 無事に返ってくるのかも、怪しくなった。


 そんな私の代わりに創也がテレビ男に聞いてくれた。


「不破間先生、なるべく早くお願いすることはできますか?」


「そうだねえ。方法はなくもないんだけど、これ以上脅しのネタを消費するのもなあ」



 ……色々と察した。



「大丈夫です。創也、二、三日くらいすぐだから、ね?」


 テレビ男の話を聞いて、即座に創也を説得にかかる。


「…だな」


 創也はテレビ男に引いているようだった。

 うん、人として脅しはダメだぞ。


「改造が終わり次第伝えるねん」



 テレビ男の軽い返答を聞きながら、私は頭の中で買い物リストを作成した。


 今日の放課後は予定が入っているから、買いに行けるのは明日あたりか?



 そんなことを考えながら昼休みは過ぎて行った。


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