明菜のインターネット講座
今度新しいアルバイトを始めることが決まりまして、執筆の時間が取りづらくなるかもです。それでも時間を見つけてコツコツと執筆を続けていく予定です。投稿ペースは、ストックが切れ次第、順調に行けば週一くらいになると思います。
毎日投稿は難しくなりましたが、これからもよろしくお願いします。
「道奈? いるんでしょう? あたしよ」
寮にマジック道具を全て運び終えたタイミングで明菜が部屋に訪問して来た。
「はいはーい」
ガチャリと開けて、中に招き入れる。
「その椅子使ってー」
明菜は机の椅子に、私はベッドの上に座る。
「ありがと。まず、マジックお疲れ様。本格的すぎて言葉を失ったわ」
明菜からマジックの感想を言われて嬉しくなった。
「へっへっへ。そう言われると、頑張った甲斐があるもんだよ」
「あれ本当に一人でやったのかしら。補助する人とかは?」
「ぜーんぶ私一人でやったよ。タネとか仕掛けとか、バレるわけにはいかないからね。マジックはタネが知られない限り、観客の心の中では魔法でいられるんだよ――」
はっはっは。
ついにかっこよさげなマジシャン発言を口に出してしまったぞ。
「なんというか、一生徒の発言じゃないわね。それとその表情やめて。そこはかとなくムカつくわ」
調子に乗りすぎた上に、表情管理が疎かにっ! 気をつけよう!
「あなた、将来はマジシャンになりたいのかしら」
将来? 学校を卒業した先の話しか。
「違うよ。この学校を卒業したらじっちゃんの店の手伝いをするんだ」
「え? 大学は? この学校は偏差値も高いし、道奈の今の学力のままいけばそこそこの大学は選び放題よ?」
大学。小中高と進んだのちにある学校。
明菜の言い方からしたら、多くの生徒が進路を大学に決めるのだろう。
大学のあとは大学院が待っているんだったか。
20代後半になるまで学生として学ぶなんて、すごいなあ、と素直に思う。
学生を終えてやっとそれぞれが勤めたい企業や会社に入って働くのだな。
でも働いたその後は?
ずっと地球で働き続けるのだろうか――――。
やめだやめだ。ああああ。違う違う違う。
まだこれは考える時じゃないな。
まだ家に帰れるかもしれないし。
とりあえずは、じっちゃんの店の手伝いをしながら、これについてゆっくり考えていこう。
「んー。大学は考えてないね。じっちゃんの店でのんびり過ごしたいかな」
「…そう。あなたがそれでいいなら、あたしは何も言わないわ」
そうしてくれると助かるかな。
「で、本題なんだけど、この動画見てみて」
明菜はポケットからスマホを取り出し、操作を始めた。
動画? スマホで何を見せるつもりだろう。マジックの感想が本題ではなかったのだな。
「これよ。ちょっと横に座るわね」
そう言って、ベッドに座ってる私の隣に腰掛けて、スマホの画面を見せてきた。
「え、これって…」
画面に映っていたのは、私。
『レディース、エーンド、ボーイズ!
まずは、本日忙しい中、来て頂けたことに感謝を示して。贈ります。
ジュテーーーーム!!』
ブワンッ!
『『『うわあああ!!』』』
これは昼休みに披露したマジックの観客席からの光景。しかも動画と言われるものでその光景に映る私が動いて話している。
「誰かがスマホで録画したものをネットにアップしたみたいなのよ。今さっきこの動画のリンクを友達がSNSで共有してきたから、道奈も知っていた方がいいと思って」
明菜が何か言っているが、耳に入ってこない。
なんだ、なんだ、なんだ。
一体どうなっているんだ!?
やはりただの携帯ではないのか!?
私がスマホの中にいる。テレビの中の人みたいだ。創也が教えてくれたスマホの新事実の時もそうだが、またこういうところで地球の機械というものの技術の高さに感嘆する。今日の昼に終わったばかりのことをスマホでこうして振り返る事ができるなんて…
「すごい!! 明菜!! 私が映ってる! スマホって写真だけじゃなくて動画も記録する事ができるんだね!!」
スマホの技術に対して素直な称賛の言葉を述べただけのつもりなのに、明菜の表情が呆れた顔になった。
「はあああ。もう、呑気なんだから。道奈、あたしはスマホの凄さを伝える為にこの動画を見せたんじゃないわ」
「え?」
明菜の意図が掴めない。
「いい、道奈。これは、誰でも。だ・れ・で・も、見れるのよ。これの意味、わかる?」
…しばし顎に手を当てて考えてみたけど、
「さっぱり分からない」
「はあああああぁぁぁぁぁ…」
と、ため息を吐きながら、明菜が呆れを通り越して残念な子供をみるような目で見てきた。
「明菜さん。お願いします。もっとわかりやすい説明を要求します」
そんな明菜を見て、座ったまま深くお辞儀してお願いする。
…そもそも、そんな説明でわかる人がいるのか。
少し不満に思った。
「いいわ。猿でもわかるように説明してあげる」
失敬な。それは言い過ぎだ。
「まず、このサイト。何か知ってる?」
明菜がスマホの画面に注目させながら聞いてきた。見るとそこには小鳥のロゴと一緒に文字が書いてある。
…シイッター?
「知らない」
「驚いた。まずそこから説明が必要だったのね。…さすがにネットが何かくらいは知ってるでしょ」
ネットくらい知ってるぞ。インターネットの略称だな。インターネットは使った事がないが、それが何かはもちろん情報収集の段階で把握済みである。
「パソコンとパソコンを繋ぐ架け橋の事でしょ?」
私の答えを聞いた明菜が黙って眉間に指をあててほぐすように揉む。
え、違った?
「あなた…一体どこで過ごしてきたの。洞穴?」
私は獣か。
「じっちゃんの店にはパソコンがなかったんだよ。すなわち、インターネットも使った事は無いのだっ!」
「威張るんじゃ、ないっ」
「うわっ」
明菜からおでこを指で押されて上半身がベッドの上にポスッと倒れる。
「もー。なんなのさー」
ぶつくさ言いながら起き上がった。
「本当に猿でもわかるように説明しないとダメなようね」
こうして明菜のインターネット講座が始まった。
「――というわけで、知らない人でも動画が見れちゃうってことよ。今シイッターで動画を拡散されてるけど、そんなに動画が広まらないなら別にいいの。でも広まりすぎた時が問題よ。事が大きくなって、これからどうなるか分からないからあなたに言ってるの。その時はもしものことにならない為に外出の際は目立たないような格好にするとか対策が必要になるわ。…理解できた?」
一からの説明というよりはゼロからの説明をさせてしまった。
長い間話してたから喉も乾いただろう。
私のことを思ってしてくれたのは十分感じているので、お礼にペットボトルの麦茶を渡そう。
「うん。説明してくれてありがとう。喉、乾いたよね? ちょっと待ってて」
ベッドから立って、本棚の横にある押入れから麦茶のペットボトルを出して渡した。
「あら、気がきくじゃない。ありがと」
そう言って麦茶を一気飲みする明菜。
やはり相当喉が渇いていたようだ。
「疲れたでしょ? 丁寧に説明してくれて本当にありがとね」
「ぷはっ。ふうううう。良いわよ。あたしがしたくてしてることだから。心配でもあるしね」
明菜のこういうところが好きだな。
「ところで、そのもしものことって例えばどんな?」
「そうねえ…街中で変な人に絡まれるとかかしら」
え、私のマジックの動画が広まると変な人に狙われるのか? んなまさか。
「それはまた、どうして」
「あなた、軽く考えてるでしょ」
「うーん。いまいち現実味がないからなあ」
「いい? これは何が起こるか分からないところが一番怖いとこよ」
何が起こるか分からない…。
今の現状だけでも知っておくか。
「動画は今どれくらい広まってるの?」
「そうね…これくらいよ」
そう言って少しの間スマホを操作した後、画面を見せてきた。
…お金に換算したらレストランで美味しいご飯が買えるくらいの数字だった。
「これって多い方なのかな? 数字だけじゃ実感があんまり湧かないや」
「まあ、そういうものね。一応あたしから動画を取り下げてもらえるように申告はしたけど、一度広まったデータは全て消すことはできないわ。そこがネットの恐ろしいところね」
なるほど、修正が効かないということらしい。清書しか出せないみたいなものなのだな。
うむうむ。
「…あなた、本当に理解してるのか不安になってきたわ」
「ちゃんと理解してるよ! 動画が広まらなければ良いんでしょ? でも私のマジックはプロの人達に比べたら全然まだまだだし。そんなに広まらないと思うなあ」
「また呑気なこと言って。あたしの目から見たら、あのマジックも十分本格的よ。それにマジックをしているのがまだ中等部に上がったくらいの子供。ゴシッパーからしたら話題性ありありで広めたくなるわ」
そんな不安になるようなこと言わないでほしいぞ。
「こればっかりはあたしたちが今できることは動画を申告する以外何もないわ。強いて言えば、広まりすぎた時の対策を考えておくぐらいね」
「…わかった。考えとく」
「何かあったらいつでも言うのよ。それにあなたの周りには頼りになる友達が何人もいるんだから、一人で抱え込まないように」
はうっ。明菜の優しさが心に染みるぞ!
「明菜!」
ギュムッ
「えっ何?!」
思わず明菜を抱きしめた。
「ありがとう! 明菜! 大好き!」
私はいい友達と出会えて幸せだ!
ギュムムッ
その気持ちを込めるように明菜を抱きしめる力も込めていく。
「ちょっ道奈! 苦しい!」
おっと、気持ちが有り余りすぎたようだ。
言われてすぐに力を弱めた。
「もうっ、仕返しよ!」
ギュムムムムムッ
「ぐへえっ」
明菜に抱きしめ返され、何かが潰れるような音が私の口から出た。
「ふふふ、これからこういう時は力加減を間違えないことね」
「…はい」
明菜の力は思った以上に強かった。
その後、少しだけ世間話をして明菜は自分の部屋に戻って行った。
****
その日の夜。
風香の部屋に行き、ぬいぐるみの白玉さんもお返しした。あとは創也のタキシードだが、明菜曰くクリーニングに出さないといけない服らしい。これは今度太眉猫さんの猫缶とササミを買いに行くついでに出してこようと思う。よって一先ず今日は、マジックの後始末は完了となる。
風香に白玉さんを返したついでに、マジックの感想も言ってくれた。風香もマジックに関しては高評価。これで私の周りの人たちからの評価は全て揃ったな。
さて、マジックの反省会も含めて今日を振り返る。
たかがマジック、されどマジック。
周りの反響が予想以上に大きかったことに困惑している自分がいる。
これからどうなるのだろう。
まず、良い影響としては、クラスに溶け込みつつある現状か。
現に放課後、遊びに誘われた。名前は聞けずじまいだったが、猫好きだっていうのは覚えている。授業の間の休憩時間に生徒に囲まれた時に、やたら太眉猫さんについて聞いてきたのが印象的だったのだ。
次誘われたら行けるように勉強を今より進めていた方が良さそうだな。
そして、私の危険で野蛮な印象も少しは払拭できたような気もする。
寮の食堂で食べる時も何人かから声をかけられた。全てマジックに関してのもので友好的な態度を感じたから噂は間違っていると気づいてもらえたのかもしれない。
次に、悪い影響としては、視線が格段に増えたことか。
視線を感じなかったのは、人がいない場所くらいだ。教室、廊下、帰り道、食堂。人がいる場所では何かしら視線を感じた。
弟子のように、見るな、と凄んだら見なくなるのか…?
一瞬自分が凄んでいる姿を思い浮かべて即座に却下する。何を考えているのだ。淑女らしくないぞ。
これについては、今までと同じで気にしないように心がけよう。心がけるだけで、疲労は溜まるけどね。創也も慣れたと言っていたし、私もその域までいつか辿り着けるだろう。
研究も七月までに終わらせないといけなくなった。
研究をすること自体は楽しいから別にいいか。気をつけるのはこまめに進めて期限までに終わらせることくらいかな。そろそろ図書室にまた行って、別の本を借りよう。
そして動画に関して。
対策、立てとくか。創也達ならどんな対策をとるか、明日聞いてみよう。
あとは動画が広まらないことを祈っとく。
最後に、殺気だな。
ずっと感じてた、あの一際強い殺気。
あれは尋常じゃなかったぞ。
今にも襲ってきそうな勢いだった。
今回の一件で誰の恨みを買ってしまったのだろう。
考えても思い当たる節がない。
…はあああああ。
振り返ってみると、私の学校生活に平和の文字が見当たらない。
殺気を送られている時点で、殺伐とした印象を受ける。
頑張って乗り切るしかないな。
とりあえず今は寝ることにした。




