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マジックの準備を色々

今回は短めです。


 次の日の金曜日。


 もうすぐ五月に入るとあって、あんなにたくさん咲いていた桜の見る影もない道を、放課後、学校の帰りがけに創也と歩きながら、私は頼みごとをしていた。


「ねえねえ、創也。私が着れるようなお古のタキシードとかって借りれる?」


「え!? …また急だな」


 うん、私もそう思う。


「マジックを披露する時に着ようと思って」


「別にいいけど。なんでタキシード?」


「観客は男子と女子。どっちも来るでしょ? 女子が喜ぶ演出と男子が喜ぶ演出。どっちも頑張ろうと思ったら、格好は女子にも男子にも見える方がやりやすいかもって気づいたの」


 昨日、寝る前、突然ね。


「気合い入ってるな。色とか希望はある?」


「なるべく黒がいいかな。白でもいいけど。色は付いてない方が助かる」


 師匠の魔術師キッドも衣装はいつも白か黒だ。


「わかった。母さんに聞けば一着くらいはあるだろ。渡すのは月曜日学校に来た時でいい?」


「うん! ありがとう! 洗って返すね!」


「……どういたしまして」


 溜めが気になった。そしてほっぺが赤くなる創也。


 溜めの間に何を考えたんだ?


 あ、そういえば。創也に伝えないといけないことがあったんだ。


「マジックの準備で忙しいから、明日の土曜日の探検はできないかな」


 創也が探検に行きたがっていたのを思い出す。

 携帯が無い今、会える時に伝えておかなくては。


「そうだな、来週時間があれば行こう」


「うん!」


 帰ったら今日出た宿題から終わらせるか。

 やることの多い私は目の前の事に集中する事にした。



 ****



 その次の日の土曜日。


 今、私は裏庭にいる。鶏のささみと猫缶が入った袋を持って。



「太眉猫さーん。どこですかー?」


 大きめの声で太眉猫さんを呼ぶ。


 今日は交渉に来たのだ。相手はもちろん太眉猫さん。


「食べ物を持って来ましたよー」


 耳を澄ましながら裏庭の奥へと進んでいく。


 なかなか見つからない。


 こうなれば、猫缶をだして匂いでおびき寄せる作戦に変更だ。


 猫缶の蓋を開けて、予め管理人の木本さんから借りておいたうちわをカバンから出す。左手に蓋の空いた猫缶、右手にうちわを持って、なるべく広範囲に匂いが広がるようにパタパタと猫缶に向けて扇いだ。


「太眉猫さーん」


「ノー、ノー」


 聞こえた!


 鳴き声のする方へと足早に向かう。


「ノー、ノー」


「お久しぶりです、太眉猫さん!」


 太眉猫さんから来てくれた!


「ノー」


「猫缶が欲しいのですね。どうぞ!」


「ノンノンノンノン」


 地面に猫缶を置いてすぐ、太眉猫さんが平らげる。


 すかさず私は太眉猫さんを撫でた。


「お腹が空いてたんですね。鶏のささみもあるんですが、これも食べます?」


「ノー」


 空っぽになった猫缶に一つだけささみを置いた。


「ノンノンノンノン」


 そして私は撫でる。


「ノー」


「もっと欲しいんですね?」


「ノー」


「お願いを聞いてくれるのでしたら、全部あげましょう」


「ノー?」


「明後日、マジックをするのですが、そこで是非! 太眉猫さんに出てほしいのです!」


「ノ、ノー」


「大丈夫! この綺麗な毛並み! 立派な眉の黒ブチ! 貫禄のある佇まい! 誰もが見惚れる事でしょう!」


「…ノー」


「さらに、マジックが終わったら猫缶とささみをプレゼント!」


「ノー!」


「出てくれるんですね! ありがとうございます! 太眉猫さんは何もしないで、じっとしてるだけで大丈夫です! では、交渉成立という事で。約束の品です」


「ノンノンノンノン」


 そして私は撫でる。


 食べ終わったのを見計らって、打ち合わせを開始した。


「劇場がどこかわかりますか?」


「ノー」


「ここに住み着いて長いんですね。さすが太眉猫さんです」


「ノーッ」


「劇場の裏に目印として、私のハンカチを置いておきます。そこで集合にしましょう」


「ノー」


 打ち合わせが終わるや否や、太眉猫さんは行ってしまわれた。



 交渉もうまくいったことだし、私も帰るか。



 帰る途中にたんぽぽやクローバーなどマジックで撒き散らす用の草花を摘みながら寮に戻った。



 ****



 その次の日の日曜日。


 夕食も終わって食堂が閉まる時間、今度は風香の部屋で頼みごとをしていた。


「お願い! 風香の白い猫のぬいぐるみ貸して!」


「よしっ。白玉ちゃんに聞いてみるからちょっと待っててぇ」


 白い猫のぬいぐるみに耳をそばだてた。


 …地球のぬいぐるみは意思を持っているのか。


「わかった。道奈ちゃんに伝えるねぇ」


 何か私に物申すことがあるようだ。


「白玉ちゃんがみんなとあんまり離れたくないってぇ。だから長くは貸せないよ!」


「明日には返す!」


 またぬいぐるみに耳をそばだてる風香。


「それくらいなら大丈夫だってぇ!」


「ありがとう!」


「はい、どうぞ! 大事に扱ってねぇ?」


 ぬいぐるみを風香から受け取った。


 それはもう最新の注意を払って扱うつもりだ。

 このぬいぐるみは意思を持っているようだしな。


 …それは少し怖いかも。


「道奈ちゃんもぬいぐるみが恋しくなる時があるんだねぇ。私と同じだぁ!」


「んー。実はマジックに使うんだ。でも汚さないから安心して!」


「え、白玉ちゃんをマジックに使ってくれるの? 光栄だなぁ。白玉ちゃんもそう思うでしょ? ……そう思うってぇ!」


 それは本当によかった。マジックが嫌で恨まれたりしたら本当に怖い。


 気休めだが、挨拶しておこう。礼儀はちゃんとしておいて損はない。


「少しの間だけど、よろしくね」


 ぬいぐるみと目が合う。



 …何か反応が欲しいところだ。



 ぬいぐるみだから仕方ないか。


「じゃあ、私は部屋に戻るね。おやすみ!」


「道奈ちゃん、おやすみー! 白玉ちゃんも! おやすみぃ!」





 自分の部屋で、白玉さんの目の上あたりに黒い紙を切り取ったものをテープで貼り付けた。


「ほんとにごめんなさい。目の上がムズムズするかもしれませんが、明日までの辛抱です」


 無言の白玉さん。


「…代わりに今日はベッドの半分をのびのびと使ってください」


 無言の白玉さん。


「…」



 私は、何を、やってるのだろう。



 客観的に今の状況を考えてしまってなんとも言えない気持ちになった。


 明日は待ちに待ったマジックの披露日。

 万全の体勢で望むためにも、今日は早めに寝ることにした。


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