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友達に報告、それとジュリエッタ


 次の日の昼休み、創也達に夏から文化祭の日まで演劇部に入ることになったと報告した。


「…またなんでそんなことに」


 はあああ。とため息をこぼしながら創也に呆れられた。


 失敬な。なんでもこうもない。交渉の末の結果だ。私が掴んだ勝利なのだ。


「代わりに、マジックの後、片付けを手伝ってくれる生徒を3人用意してくれるみたいだから、マジックが終わったら私のことは気にしないで先に教室に戻っててね」


 特に創也に至ってはステージ裏まで来て無理してでも手伝いに来そうだ。

 私の所為で遅刻になった時には良心が痛みぎて数日は引きずるだろう。


「助っ人ができてよかったな! それにしても、道奈ちゃんは文化祭の劇にもでんのか! 俺見に行くぜ!」


 もともと可もなく不可もなくの程度で頑張ろうと思ってた演劇。でも涼の楽しみな反応を見て、友達が見るなら、演劇も気合を入れて取り組むかな、と思った。


「…道奈、ちなみに役は何?」


 演劇に対しての姿勢を改めていると、創也が役について聞いてきた。


「王子役だって。失礼しちゃうよね。私はれっきとした女の子なのに。ぴったりの役があるって言われたのが男の役だよ」


 私を一目見て男の子だと思ったということか。

 考えれば考えるほどショックである。


「…王子か。…(よかった。)」


 創也。なぜそこでホッとする。


 ここは私に共感して、ちゃんと道奈は女の子に見える、とか言わないと、本気で落ち込むぞ!


「…恋愛もんやんのか」


 創也の安堵に精神的ダメージを受けたところで、今度は弟子が演劇内容について聞いてきた。


 んー、どんなストーリーかは聞いてなかったな。


「わかんない。次の作品ってしか聞いてないなあ」


「恋愛ものでしたら、キスシーンなどもあるでしょうね」


 ―――暁人爆弾投下。


 ドッカーーーーーンッ!!

 キ、キスシーン、だとっ!


「ど、どどどどうなんだろう」


 爆弾の影響で動揺してしまった。


 なぜこんなに動揺しているのだ自分!

 いや、動揺するのは当たり前かっ。


 お父さんからは、そうれはもう魔物のオークが迫る勢いで、成人する15歳になるまでは何があっても唇は死守するようにと教えられている。(※家族以外限定)


 相手が女子であろうが男子であろうが、家族以外の人とキスなんて…!


 お父さん! 私は異世界で唇の危機です!


「あははははは!! 壊れた人形みてえだ!」

「くっくっくっく。もしかして、キスは初めてなのかなあ?」

「荒木さん落ち着いてください。恋愛ものと決まった訳ではありませんよ」

「…まあ、なんだ。ガンバレ」

「…」


 動揺真っ只中の私。

 誰が何を言っているかなんて、聞ける余裕など皆無である。


「道奈」


 隣に座る創也に肩を揺すられて意識が部室に戻る。


「あ、え?」


「キスシーンって言っても本当にするわけじゃないと思う。それでも、もしさせられそうになったら俺に言って? 一緒に説得しよう」


 …創也!!


 思わず創也の方に向き直り、両手をバッと握って感謝の気持ちを伝える。


「うん、うん! そうだよね! ただの演技だもんね! 創也、ありがとう! そういう優しいところが好きだ!!」



 誰かの優しさにここまで感動するなんて、初めてだ。


 お父さん! 私の唇は守れそうです!


「…」


 しばし感動に浸っていると、目の前の創也の顔に異変が起こっていることに気づく。



 見ていて、赤いりんごが食べたくなった。



「あちゃー。まじか、創也」


「荒木さん、そろそろ林道さんを解放してあげてください」


 暁人よ、私が創也の両手を拘束しているように見えるのか。

 違うぞ、友情の絆を確かめ合っているのだ。でも誤解を招くならそろそろ手を離すか。


 創也の手を離して元の体勢に戻ると、弟子が静かなことに気づく。


「…ぷっ……くっ…」


 弟子に至っては先ほどから顔を背きながら肩を震わせて笑いを堪えていたようだ。


「くっくっく。お子ちゃまだねえ」


 みんな揃いも揃って急にどうしたんだ。

 状況についていけない。



 でもとりあえずは、



「創也、保健室行く?」


 体調を急に崩して固まっている創也の安否の確保だな。

 創也は未だ回復できていたにようだし。


「道奈ちゃん、それ本気で言ってんのか?」


 涼が創也のではなく私の正気を確認してきた。人選が違うぞ。


「本気も何も、具合悪くなったら保健室に行くのは普通でしょ?」


 確か創也と出会い始めのころ、車の中で同じような状態になったな。

 創也の持病のようなもののようだ。


「みっちゃんもお子ちゃまだもんねえ?」

「うひゃー。こりゃ苦労しそうだ」

「無自覚なほど残酷なものはないのですね。新しいことを学びました」


 みんな言いたい放題かっ。


 暁人の発言は独り言だと思おう。訳わからん。


「……ぷっ…あの林道が…くっ…………まぁ、なんだ。ガンバレ」


 本日二度目のガンバレ、頂きました。


 現にさっきまで笑い続けていたのに何事もなかったかのように切り替えて言うその姿が余計に白々しく感じる。


「…はあああああぁぁぁ」


 創也が多量の息を出しながら机の上に突っ伏した。

 本格的に悪くなったようだ。


「創也、今日は早退する?」


 背中を撫でながら体調を気遣う。他のみんなと違って、私は良識があるからな。

 病人の面倒はみるぞ。


「…少し。寝る」


 寝れば良くなるものなのか

 本人がそう言うのだから、そうさせておこう。


「きつくなったら、あっちのソファーで寝てもいいからね?」


「僕の部屋なんだけどなあ?」


 私たちの部室でもある。

 探求部に私を無理やり入れさせたのを忘れるでない。


「…いい。少しすれば、大丈夫」


 うつ伏せになりながら少しくぐもった声で返事をしてくれた。


「わかった。あとで起こすね」




 その後も会話になっていない会話で昼休みが終わり、創也は無事に復活した。



 ****



 放課後、演劇の顧問の涌井先生から昨日予め渡されたロッカーの鍵を使って、劇場の控え室のロッカーに両手に持てる分のマジック道具を運び入れた。


 現在、演劇部の生徒たちは皆、ステージの方で練習に明け暮れている頃なので、控え室には誰もいない。

 あまり練習の邪魔はしたくないし。涌井先生にも会いたくないので、その時間帯をあえて狙ったのだ。


 よって、速やかに退室して、もう一度寮に戻ってマジック道具を取りに行くことにする。




 寮と劇場を何度か往復して全てのマジック道具をロッカーにしまうことができた。


 うむ。あとは明日、部活が終わった時間くらいにステージの上を確認しに来るか。スペース配分とか、立ち位置とか。確認すべきことはたくさんある。


 今日やってもいいが、勉強を終わらせたい。

 明日は小テストが3つある上に、宿題が多めに出たのだ。


 頭の中でやらないといけないリストを考えながら、控え室のドアから出たところで演劇部の生徒と鉢合わせになった。


「ここは演劇部の人しか使えないところですよ。私たちの控え室で何をしていたんですか? 部外者は即刻立ち去ってください」


 おおう。警戒されている。


「…あなたは…」


 そして怪訝な表情で、そう呟きながら私の顔を見た。


 どうやら私のことを知っている人らしい。

 私もなんだかこの人を見たような気がしてきた。


 どこで見たっけな…。


 あ、ジュリエッタだ。


 彼女が今つけている金髪のカツラを見て思い出した。


「こんにちは。涌井先生の許可を頂いた上で控え室のロッカーに物をしまってました。今帰るところです。お邪魔しました。失礼します」


「待って」


 えええ、立ち去りなさいと言っておきながら、引きとめないでほしい。


「何か?」


 ジロジロと私の全身を見るジュリエッタ。

 値踏みされている感じがする。いい気はしないな。


「私、ずっとあなたとお友達になりたいと思ってたんです」


 値踏みする目から一変、口角をただ上げたような笑顔で言われた。


 え、私と会話をしたのはこれが初めてなのに?

 私のどういうところを知って友達になろうとしているのか。


 何度も言うが、私は言葉を交わしてすぐに友達になるタイプではない。

 本田さんやいつかの女子生徒達の時みたいな感じだな。


「お断りします。私は相手のことをまず知って、なりたいと思った人と友達になりたいです」


「え? この私と友達になれるんですよ? それに私たち、同じクラスメイトじゃないですか。そんなこと言われたら悲しくなります」


 笑顔から、今度は悲しそうな表情を作るジュリエッタ。


 昨日のジュリエッタの演技を見て思ったのだが、表情がいちいち作った感じがして言動が嘘っぽい。


 今も演技をしているのか。


「仕方ないですよ。友達はどちらかが我慢してなるものでもないですし。私はこのあと予定があるので、失礼しますね」


「この私が悲しいって言っているのに、慰めようとはしないんですか?」


 本当に悲しそうでないからほっといただけである。

 色々と面倒そうだ。このまま立ち去ろう。


「ええ!? 勝手にどこ行くんですか!? まだ私の話は終わってませんよ!?」


 そこまで反応しなくても。


 ジュリエッタの喚きに構わず逃げるように通路を通り、劇場の裏口から出て寮に戻った。




 なんなんだ今のは。


 その人にはその人なりの友達の作り方があると思うのだ。

 本田さん達のように会ってすぐに友達になろうと言ってなる人もいるだろう。

 それはそれでいいと思う。お互いの合意ならば。


 相手に自分のやり方を押し付ける感じが、私は嫌だと思うのだ。


 そして、押し付けてる時点で友達なったとしても、うまくいかない気がする。


 本田さん達は皆、友達申請に私が断ったことに対して何かしら不満を示した。


 私が彼女達の立場だったら、友達申請を相手に断られても、逆に友達になりたいと思わせるくらい仲良くなる努力をしようと思うのだが。まあ、努力してもダメだった時はその時だな。



 さて、ジュリエッタなんかに構ってる暇はない。


 やることを終わらせるのに集中だ。



 ****



「――――というわけで、一時的に演劇部に入ることになったよ。七月は夕飯一緒に食べれなくなるかも。でも夏休みは学校で頻繁に会えるよ」


 寮の食堂で明菜に報告する。


 一時的とは言え本格的な部活に入部するのだ。

 テレビ男のようなゆるいものとはわけが違う。

 確実に七月にはいれば今までよりも忙しくなるだろう。


 それでも、夏休みはじっちゃんの店でずっと過ごす予定だったはずが、部活をしに学校に通うことになったのだ。友達には先に伝えていた方が、あとあと一緒に遊びに行くとかなった時にお互いのスケジュールを決めやすい。


「この前話したみたいに、今携帯使えないから、風香にも伝えてくれる?」


「それは別にいいけど、また変なことになったわね。演劇部なんて、あの立花さんが主役独占するようなところじゃない」


 立花さん? 聞いたことあるような、ないような。


「その人がどうしたの?」


「え? 道奈、立花さんと同じクラスなのに知らないってことはないでしょう」


 残念ながら、遠巻きに見られるだけで、クラスの人とはあまり交流がない。


 首を横にフルフルと振っておいた。


「はあああ。関心がなさすぎるのも問題ね」


 これは問題なのか?


「いいわ。ここは友達として教えてあげる」


 これは明菜が知っている立花ということか。

 立花がどんな人かは会った時に自分で決めるとして、これはただの参考程度に聞いておこう。


 人によってその人の印象が違うのは薫子の件で学んだことだ。


「立花さんは、いわゆる芸能一家の娘ね。母親が女優。父親はミュージシャン。4つ上に姉が一人いてモデルをしているわ。立花さんも小さい頃から雑誌で専属モデルをしてるわね。人気は両親が有名な芸能人だからというのもあってそこそこあるわ」


 『芸能人』…テレビの中の人たちのことか。


 『モデル』はすでに知ってるぞ。売りたい商品を身につけて紹介する仕事だな。なんとも疲れそうな仕事である。


 『雑誌』は定期的に専門の情報を広めるための簡易的な本だな。雑誌でモデルということは、服を紹介する雑誌か?


「そういう環境で育ったからか、部活も初等部の頃から演劇部に入っているわ。何度か彼女の演技を見る機会があったけど、上手な方には思えなかったわね。なんというか、いかにも演技って感じよ」


 母親が女優だからと言って、子供も演技がうまいとは限らないらしい。

 単にこれから成長するだけって可能性もあるがな。


「演技はうまくないのに、初等部の頃は、親の名前を使って毎回劇では主役をしてたそうよ。だから余計に演技の下手さが強調されるのだけどね。中等部の演劇部の顧問は厳しくて面倒な性格の先生って聞いてるから、ここでも立花さんの思い通りにいくかは分からないわね」


 毎回主役…。


「他の役じゃダメなのかな?」


「さあ。それは立花さんじゃないと分からないわよ。ただ、聞く話では自分が目立ってないと気に入らなくて癇癪を起こすそうよ」


 それはまた厄介な。

 今の主人公役の人に話しかけられたら少し警戒するくらいで対応しよう。

 そして本当に癇癪を起こされそうになったら全力で逃げるのだ。


「これが私の知ってる情報よ。為になったかしら?」


「うん。ありがたく参考にさせてもらうね。立花さんがどんな人かは、とりあえず会ってみて判断するよ。話よりも厄介な人でないことを祈るかな」


 立ち上がって二礼二拍手一礼をした。


「…急にどうしたの。拝まないでくれる?」


「もう祈ったから気にしないで。あ、そのりんご貰っていい? 代わりにこのプリンあげる!」


 明菜のサラダには切られたりんごが2個ほど添えられていた。


「ええ、別に一つくらいならいいわよ。太るからプリンはいらないわ。今度また『シエル』に行く予定だもの」


「ありがと! ああむっ。んー。んんんんー」


 今日はなんだかりんごが食べたいと思っていたところなのだ。ナイスタイミングである。


「そっか、楽しんで来てね。私はやることがまだあるから、今日は先に部屋に戻るかな。また明日! おやすみ!」


「おやすみ。また明日」




 これから数日は勉強とマジックで本格的に忙しくなるな。

 だが、自分でやると決めたからにはやり遂げてやるのだ。




 その日は無事にやることを終わらせて、時間通りに就寝することができた。


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