友達になる理由
2/2話目です。
突然の鬼ごっこ(?)を漆原とする羽目になった私は、ひたすら競歩で逃げていた。
「はぁ、はぁ、待ちな、さい!」
そろそろかな。
私も疲れてきたが、私の方が体力があったらしい。まだ歩けるぞ。
「きゃっ!」と言う漆原の声と共に、渡り廊下を渡っている辺りで、バタッと倒れる音が後方でした。
早歩きの足を少し緩めて後ろを振り返る。
案の定、漆原は地面の上に横たわっていた。
こけたか。
「いったああああい! もう! はぁ、はぁ、なんで、はぁ、この私が!」
疲れからか。こけたからか。イラつきが声から感じる。
「あなたの、せいで、はぁ、怪我したのよ! はぁ、訴えてやるわ!」
喚く体力はまだ残っていたか。
やれやれ、そっちが勝手にこけたんでしょうに。
法律に基づいても、そうだな。
「どうやってあなたに触れずに怪我させるんです。考えればわかるでしょ。少し落ち着いてください」
漆原と少しだけ遠くから話しかける。捕まりたくない。近くには寄らないぞ。
「うるさい! はぁ、パパにも、言いつけて、やるわ!」
言ってどうなる。会ったこともない人に愚痴るぞと脅されても困る。
「あそこに見えるの、何かわかりますか? 防犯カメラです。バッチリあなたが一人でこけたところが映ってると思います。血が頭にのぼって正常な思考ができていないようですし、まずは深呼吸しましょう。はい、吸ってええ」
「…」
私のことをうつ伏せに倒れたまま、睨むばかりの漆原であった。
面倒だが、こけた人を放って置くほど、私は非道ではない。良識のある乙女の登場だ。
「立てますか?」
「あなたが! 初めから! 止まれば! よかったのよ!」
「そちらが速やかに諦めればよかったのでは?」
「ふん! 私に、諦めの文字は存在しないわ!」
ビシッと人差し指を私に突きつける漆原。
キめたつもりのようだが、
・汗でたて巻きカールはよれている。
・地面に横たわって私を見上げている。
この2点が理由で、残念臭がプンプンした。
「はあ。そうですか。で、どうしたら諦めてくれますか?」
「あなた、人の話聞いてた!? 私に諦めの文字「そこは聞いたのでもう一度言わなくていいです」
「最後まで言わせなさいよ! なんなの! こんな子になんで林道様たちは「なぜそこで創也たちが出て「だ・か・ら! 最後まで言わせなさい!」
ダメだ。話の被せ合いで、お互い何を言ってるのかわからないし、会話が進まない。
「まずは、起き上がってください。立てますか?」
いつまで地面に横たわるつもりなのか。
必要なら人を呼ぼう。
「早く手伝いなさい!」
貴族の我儘令嬢を思い出す上から目線だな。
「はあああ」とため息をした後。近づいて、肩を貸す。
「痛っ」
右足で地面を踏みしめた際に漆原が痛みを訴えた。
「くじいたみたいですね。このまま保健室に向かいますよ」
「言われなくても、そのつもりよ! 早く連れて行きなさい!」
怪我をしても口は元気なようで。
ゆっくりと保健室まで向かった。ここは二階の渡り廊下。保健室は一階にある。階段が難関だな。
「それで、あなたの狙いはなんなの」
げっ、もしかして保健室に着くまで永遠と訳の分からないことを喚かれるのか。
それは勘弁。
「喚かないと約束するのでしたら、話しますよ」
「誰が喚くですって!」
「ほらほら、そういうところです」
「…大声を出さなければいいんでしょ。それで、やっぱり何か狙いがあるのね」
ほほほ、私の予想は当たっていたわ。とでも言いたげな顔が、なんだかムカついた。
「まだ何も言ってないのに、決めつけるのはやめてください。狙いはありません。みんな、流れで仲良くなっただけです」
創也も、涼も、暁人も、明菜も、風香も、薫子も。
みんな、狙いがあって一緒にいるわけではない。
どんな子かなと思っていた気持ちが、仲良くなりたいと思う気持ちに変わったのだ。そして、その気持ちに従って話していく内に、ふとしたきっかけで今度は友達になりたいと思うようになった。ただそれだけだ。
弟子の場合のみ、今は更生させると言う狙いはあるものの、更生ができたら純粋に友達になってもいいと思えるくらいには受け入れている。
「ならどうして一緒にいるのがああいう方々ばかりなのよ! 人を選んで付き合ってるとしか思えないわ!」
「どうどう。また喚き出しましたよ。耳元でやめてください」
「…」
「何か誤解があるようですが。私が一緒にいるのは何も創也達だけではないですよ。他にも寮で仲良くしている友達もいますし」
「それは自分が寮で一人になりたくないから、一緒にいるんでしょ。そんなの本当に、友達と言えるのかしら」
また決めつけ出す。
「あなたは私の友達全員に会ったことがあるんですか? 見たこともない、話したこともない、なのに自分の都合のいい解釈で決めつけるのは良くないですよ」
「会って話をしたって、相手のことがわかるわけないじゃない。逆にあなたが言うその友達はみんな本当にあなたのことを友達だと思ってるのかしら? 林道様たちに近づこうとあなたを利用しているのではなくって? 所詮、みんな上っ面だけよ。お互いの利点の為に一緒にいるだけだわ」
そんな悲しい考えを前提に話すから会話が成り立たないのか。
「ただ仲良くなったなんて嘘ね。私には分かるわ。あなたは林道様達を侍らせられる。荊野様や鬼山様にも近づいてより力を手に入れられる。利点だらけよ」
どれも望んでいないのに、それのどこが私の利点になるのだ。
「ふふふ、あなたのあの噂が違ったとしても、林道様たちがあなたを構う考えられる理由は、ただあなたの見た目が珍しいからとかで、別になんとも思ってないでしょうね。すぐに飽きて離れてくわ」
「あなたの考えからいくと、彼らから離れるようわざわざ私に言わなくても、自然とあなたの望み通り、離れることになりますね。なぜそのような面倒なことを?」
「っ! だからあの噂が違ったらって言ったでしょう!」
耳元でうるさい。が、ここは我慢。このまま追い込んでいこう。
「本当にあの噂が事実だと思ってるんですか? あなたの目に映る私は本当にそんな人なんですか?」
「ええ、そうよ。私に怪我をさせるような野蛮な女子だわ」
「ではなぜその野蛮な私は今、あなたに肩を貸しながら保健室まで連れて行っているのでしょう」
「っ…それは、私にも取り入ろうとする為ね」
「私がこの後、何も見返りを求めようとしなくても?」
「見返りを求めないふりをして、近づくつもりなんでしょ」
「私があなたに近づいて得られる利点なんて考えつきます?」
「…私を味方にして噂を止めるのと…あとは…私の家がお金持ちだからだわ」
「あなたを味方にしても、噂は止まらないでしょうね。それと、あなたの家がお金持ちだろうが、貧乏だろうが、関係ないですよ。結局お金を持っているのはあなたの親ですからね。あなたでは無いです。他に思いつく利点は無いんですか?」
「何を言ってるの? 私もお金をたくさん持ってるわ。お小遣いをたくさん貰っているもの」
「親から貰ったものじゃ、そう言い切れませんよ。もしお金目当てで媚びるならあなたではなくてあなたの親にしますね」
「そんな面倒なことしなくても、私に近づく方が簡単に狙い通りにいくのに、誰もそんな風に考える人なんていないわよ」
「ここにいます。他に思いつくまともな利点は無いんですか? 全て私の利点では無いですね」
「…」
考え込んだ漆原を横目で見る。
彼女の考え方を聞いていると、どうしても思ってしまうことがある。
「漆原さんって、本当の友達に会ったことがないんですね」
友達の存在すら否定できるのだ。そうなのだろう。
「本当も何も、友達なんてそんな夢物語。とっくの昔に卒業してるわよ」
夢物語、か。
「あながち、その夢物語は現実にもあるかもしれませんよ」
私は地球にとって、その夢物語のような世界から現に来たんだ。
いないと決めつけるのはまだ早いぞ。
「はあ? 気休めはよしてちょうだい。サンタを信じる子供じゃないのよ」
「いつか出会えるといいですね。あ、階段です。私に掴まってください」
話していたら難関の階段が現れた。
漆原の右足に負担がかからないように、私は右側で支える。
「左手で手すりを掴んでください。せーの、で一段ずつ降りますよ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい」
漆原は体重移動が下手だな。
「心の準備はいいですか?」
「え、ええ」
少し怖いみたいだな。漆原が階段から落ちないように気をつけよう。
「せーの」
漆原のペースに合わせて階段を一段ずつ降りて行く。
「無事に降りれましたね。足はどうですか?」
「…時間がないわ。早く保健室に連れて行きなさい」
プイッと私の反対側を向いてしまった漆原。
人の気遣いをなかったことにされるとは。
コンコン
「失礼します」
保健室は階段からそれほど遠くないところにある。
ドアのノックと断りを入れて開けた。
「あら、こんな時間に―――まあまあ、足を怪我したの? ささ、こっちに座って?」
保健室の先生が迎えてくれた。
先生がいてくれてよかった。いなかったら、私が呼びに行く羽目になってただろうな。
先生が椅子に座った漆原の右足首を重点的に診る。
それを私はただ見るだけ。
…もう帰ってもいいだろうか。
「漆原さん、私はこれで帰りますね。また明日」
「ちょっと、まだあなたの口から本当の狙いを聞けてなくってよ!」
まだ聞くか。
どうしても狙いが必要なようだ。適当にそれらしいことを言っておこう。
「そうですね。学校を楽しく過ごす。これが私の狙いです」
「はあ?」
「では、また明日。お大事に」
これ以上関わるのはよそう。平行線で埒が明かない。
背後で何か叫んでいる気がするが、そのまま保健室を出た。
仲良くなりたいから、仲良くなる。
これはそんなに信じられないことなのか。
自分の利益を考えて、人に近づく。
漆原はそれを前提に行動するのが当たり前だと言った。
それを聞いて思い出すのは、前の世界で家族みんなでご飯を食べる時、
話の流れで『なぜその人と商談することになったのか』お父さんから話してくれたことが多々あった。
こういう契約をしてるから。
投資をたくさんしてくれそうだから
どこどこの土地をこれくらい持ってるから。
偉い人との繋がりを持っているから。
理由はほとんど、相手の人柄の部分よりも、相手がどんなものを『持っているか』に重きを置いている印象を抱いた。
漆原が言っていた、『自分の利益を考えて』の部分はこれに近い気がする。
漆原は商談がしたいのか?
学校で商談。
うむ、場違いだな。
生徒がここに来る目的は主に勉学だ。
私の目的はたくさんの人に出会うことだ。
ならこのまま、私の基準で人と会っていこう。
そんなことを考えながら、寮の部屋へと戻って行った。




