See You Again, My 携帯
弟子と話した後。
机にしまっておいた極秘マジックファイルを出す。
テレビ男に披露する大掛かりなマジックの計画書が入っているのだ。
今まで考えてきたマジックに加えて、既存のマジックもアレンジして組み合わせた、とっておきのものとなった。
なったのだが。
タネと仕掛けの関係上、屋外よりも屋内で披露しないといけないマジックになってしまった。
しかし、屋内での爆発マジックは先生から禁止されてしまっている。
…やむを得ない。
あまりしたくないが、テレビ男に相談してみよう。
携帯を出して電話をかけた。
プル――。
『もしもし? 今度はどうしたのかなあ?』
ゾワワワワッ
背中を悪寒が駆け下りていく。
…またワンコールで出て来たぞ。怖っ。
ど、どこかで見ているのか。たまらず周りを見回す。カメラらしきものは見当たらない。
…考えたらいけない案件だと判断した。さっさと相談して切ろう。
「約束のマジックに関して、ご相談が」
『マジックの計画とやらは終わったのかなあ?』
「計画は終わってます。ただ、屋内で披露しないといけなくなりました。屋内での爆発マジックは禁止されてまして。テレビ男から代わりに許可をいただけないかと」
『んー。そのマジックって失敗したらどうなるの? 僕、事故の責任とかとるのヤだよ?』
「極力そのような事態は起こらないように、こちらも気をつけるつもりですが、万が一が起こったとしても、私の体に打撲ができるくらいですかね。それに爆発マジックは基本、音だけが立派な、威力の小さなものですから」
『そっか、ならいいよん。屋内ねえ。じゃあ、劇場を使うのはどうかな?』
劇場…。そんなものまであるのか。
『入学式の時に僕と劇場のステージに上がったの覚えてる?』
え、あそこが劇場だったのか! 全然気づかなかった!
いや、気づく余裕がなかったんだ! お前のせいでな!
「…はい。散々な入学式になりましたね、あなたの所為で」
『僕の所為? 違うねえ。みっちゃんが正解を答えちゃうからさ』
あの時あえてテレビ男に質問をしなかった私の所為だと言いたいのか。
もう反論するのも面倒だ。この際、道に迷った私の所為でいいや。
「その話は終わったことなので、もういいです。それで、劇場を使用する許可をテレビ男が出してくれるんですね?」
ステージの上ならもっとマジックがやりやすくなるな。劇場の提案だけは、とてもありがたい。
『いいよお。許可がおりたら後で伝えるねえ』
「あ、できれば、昼休みに披露したいのですが、時間指定はできますか?」
『昼休みねえ。なるべくその時間が空いてる日にするよ』
「ありがとうございます。では、失礼します」
要件は終わった。お礼も伝えた。話すことはもうない。
テレビ男とこれ以上話したくなかったので、『失礼します』の『ま』辺りで電話を切った。
電波が悪くなって急に切れたとか。そんな感じで捉えてくれ。
プルルルル、プルルルル――
…画面には『テレビ男』と表記されている。
プルルルル――
なんだ。まだ話すことがあるのか。私はない。
プルルルル――
さっきわざと早めに切ったのがバレたのか。
プルルルル――
いや、そんなはずは。
プルルルル――
でも出ないと。後悔するって言われたような、ないような…
プ。
止んだ――
『それと、次電話に出なかったら、後悔しちゃうよ?・・よ・・・ょ』(脳内エコー)
電話を無視したその日に言われたテレビ男の言葉が鮮明に脳裏に蘇る。
どっ、どっ、どっ、どっ、と心臓が。うるさい。
胸の音がどんどん大きくなる。
後悔するって。どういうことなのか。
急に止んだ電話が、怖い。
何かよくないことが起こりそうで、怖い。
本能的な部分の私も、警告を発している。
これは素直に出た方がよかったのかっ?!
チロリロリン♪
恐慌状態の私と相反した軽快なメールの着信音が部屋に鳴り響く。
画面には、
『テレビ男』と。
嫌な汗と共に携帯を持つ手が小刻みに震えた。
ははははは、なぜ私はテレビ男ごときでここまで怯えているのか。
ただのメールではないか。
私が取り込み中で出られないと思って気遣ってメールに要件を書いて送っただけかもしれない。いや、やつに気遣いなんてできる神経があったら今頃こんな事態にはなっていない訳で…。
―――とりあえず、メールを開こう。
電話に出なかったのだ。せめてメールの内容を確認して明日の昼休みに返事を直接伝えよう。
自分を励ましてメールを開くボタンを押す。
すると画面に浮かび上がる夥しい数のドクロマーク。
「ぎゃああああ!!」
見て思わず叫びながら携帯を宙に投げてしまった。
気持ちわる! 嫌がらせか!
…迷惑メールというやつだな。
「ふうううぅぅぅぅ…」
安堵のため息が溢れる。良かった。迷惑程度で済んで本当に良かった。
てっきり、もっと取り返しのつかないことになるかと――
…あれ?
携帯を操作してドクロマークが浮かぶ画面を変えようとしているのだが、
画面が、動かない。
あれ? あれれ?
どのボタンを押しても画面がウンともスンとも反応が無。これは…壊されたのか? じっちゃんから貰った大切な携帯を…
そして、つかの間の安堵は怒りに変わる。
「…テレビ男おおおお!!!」
と叫んでから、バンッと勢いよく部屋を飛び出て、テレビ男がいるであろう研究室へと向かった。
ドンドンドンドンッ!
研究室のドアを叩きまくる。
「あ、もう来たんだ。早かったねえ」
上の方からテレビ男の声が降って来た。見上げると、研究室の上の階の窓から顔を出している。
「テレビ、男、今、すぐ、はぁ、携帯、直せ!」
ここまで走ってきた私は肩で息をしながらもテレビ男に訴えた。
「今下に行くね。待っててえ」
上機嫌なテレビ男の声が癇に障ってよりイラつきが募った。
「ん」
研究室に入れてもらってすぐ、テレビ男に未だドクロ画面の携帯を開いて見せつける。
「お、ちゃんと作動してるねえ。彼の腕はさすがだよ」
「感想を、聞きに、ここまで、来て、ません!」
まだ息が整わない。一旦深呼吸して落ち着こう。
「もしかしてここまでずっと走って来た? くっくっくっく。だから言ったのに。次電話にでなかったら後悔しちゃうよって」
思い通りにいったのが嬉しいのか、歌でも歌いそうな言い方で。
表情もいたずらに成功した子供のように無邪気な笑顔。
それが余計にムカつくのだ!!
「毎回電話に出れる状態だと思わないでください! その時、取り込み中かもしれない、とか考えないんですか!」
「みっちゃんが本当に電話に出れない状態なのかどうかは、僕が決めるよ」
は?
「その携帯、直してもいいけど、僕からの着信は三回コールで自動的に出るように改造するね。僕の知人がそういうの得意なんだあ」
は??
「んー。改造期間は(脅せば)、だいたい一週間くらいかなあ?」
改造?
修理の間違いでは?
怒りのゲージが振り切れてポカンとしてしまう。
「おーい、聞いてる?」
テレビ男が私のほっぺをつついている。
ポカン中の私には届かない。
「あはははは、固まってる。どこを押したら動き出すかなあ?」
テレビ男がほっぺからおでこ、頭、背中、と私の再起動スイッチを探し出す。
「はっ」
「お、スイッチはお腹だねえ」
「乙女の許可なく触れちゃダメです! それでも紳士の端くれですか!」
端くれですらないな。紳士の皮をかぶった言語の通じないテレビ男だ。
「くっくっくっく。紳士ねえ。みっちゃんは僕に紳士になって欲しいのかな?」
「紳士になる、ならないではなく。常識の話をしているんです」
もう話がずれまくりだ! 強引にでも戻すぞ!
「それよりも、私の携帯を改造するってどういうことですか?!」
説明を求む。
「ん? さっき言ったままの意味だよ?」
もう、この人嫌い。話が通じないよ。
「な・ん・で、私の携帯を改造する羽目になるんですか。ただ直してくれるだけでいいんです」
落ち着け。こういう時こそ、冷静に、淑女らしく対応だ。
「そうしないと、みっちゃん、また僕の電話に出ないでしょ?」
「状況をみて、出れる限り出ます」
「それじゃダメなんだよねえ」
私はダメではない。
こうなったらダメ元で説得しよう。通じることを祈って。
「私がお風呂に入っている時とか、携帯を部屋に忘れた時とか。本当に電話に出れない状態の時はどうするんですか?」
「僕、言ったよね、みっちゃんが取り込み中かどうかは僕が決めるって。その時はマイクから聞こえる音で判断するよ」
非常識すぎる。
「プライベートな話をしていた時は?」
「電話に出て、今は取り込み中だと僕に伝えればいいんじゃない?」
なんで私がそんなことまでしないといけないのか。
「それが原因で人間関係がこじれたら?」
「僕の所為じゃないねえ」
んな無責任な。
「あああああ」
やっぱりダメだ。平行線のまま説得できず。
「もー、わがままだなあ。じゃあ特別にみっちゃんの希望も聞いてあげるよ。どんな機能が欲しい? 叶えれるものは彼に伝えてみるよん」
…そこが妥協点か。
欲しい機能。今の所このままで生活に支障はないのだが、一つだけ。
「地図機能を改善して欲しいです」
「見やすくして欲しいのかな?」
「はい。あと、より正確に表示して欲しいです」
何度か迷子を経験している私からしたら今の携帯の地図機能は色々と不便なのだ。
月に数回あるかないかのテレビ男からの強制受信さえ我慢すれば、それが改善できると言うなら。改造も悪くない。そう頑張って思おう。
「それくらいならできると思うよん。じゃあ、この携帯は僕がしばらく預かっておくねえ」
私の携帯がテレビ男の手に渡った。
なんだか人質を取られた気分だ。
改造するのはプロの人のようだし。ここは腹をくくろう。
「なるべく早めにお願いします。それと、車で寮まで送ってください」
「えええ。道奈ちゃん、さすがにそれは図々しいなあ」
「疲れました。1歩も動けません。私がずっとここにいてもいいんですか?」
「みっちゃんならいいよお。泊まってく?」
ゾワッ
テレビ男と話していると悪寒がよく走る。彼は悪寒に好かれているようだ。
「遠慮します。でも、車は要求します」
ここで引き下がるのは悔しい。やられっぱなしではないか。
「んー。納得いかないなあ。電話に出なかったみっちゃんが原因でここにいるんだよねえ? なのに僕が車で送ってあげるのはおかしいよ」
「私の携帯が壊された時、私はここに来ないで携帯ショップで新しいものを買うこともできました。それでもわざわざここまでに来た上に改造するのを承諾してあげたんです。車に乗せるくらいはして頂いてもいいのでは?」
こういう時は、強気で上から言うと意見が通る。
今までのテレビ男との会話から学んだことだ。
「くっくっくっく。そっかあ。なら仕方がないねえ。おいで、送ってあげる」
よっしゃ勝ったあああ!!
本日の勝負、これで1勝(?)1敗。
この日を境に、テレビ男の言う『後悔』には気をつけるよう肝に銘じた。




